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最近リナの様子がおかしい。 時々何か考え込んでいる。難しい顔で。 時々俺をじいっと見上げてくる。観察するかのように。 見透かされるようで・・・怖い。 一体なんなんだ!? リナのことなら何でもわかると自負していた。しかし・・・それはどうやら思い上がりだったようだ。近頃のリナは、さっぱりわからんよくわからん。 お互い一番近くにいる筈なのに、なぜか遠い。この距離はたぶん。俺たちの微妙な関係のせい。なのかもしれない。 溜息をつきかけて、不意に視線を感じる。そちらに目をやるとその主は紛れもなくリナ。隣を歩く彼女が俺を見つめている。 「なんだ?」 最近何度も繰り返した質問。そして今日も同じような答えが返ってくる。 「ん〜〜〜別に」 そしてまた、じっと俺を見つめる。ひどく居心地が悪い。 「そんなに見惚れるほど俺っていい男かあ?」 冗談めかした言葉で、リナからいつもの反応を引き出そうと試みる。 「そおねえ〜〜〜?」 語尾に疑問符をつけ、本気で考え込む様子をみせ、視線を前に戻す。 そんな真面目に返されるとこっちの方が照れる。いつもなら・・・照れるのはリナなのに。照れて怒って、スリッパで叩いてくれるのに。 ただ、それ以外はいつものリナだ。よく食べよく笑いよく怒る。 そう、時々。時々なのだ。ふとした拍子に何か考え込んでいる。 何を、考えてるんだ?お前さん。 不可解な言動が増える。 「ねえガウリイ。あれ見てどう思う?」 「ん?」 リナの視線の先には若い一組のカップル。 「どうって・・・まあ幸せそうだな」 「手を繋いでるでしょ?」 「ああ、繋いでるな。恋人同士なら珍しいことじゃないだろ」 「そうよね」 「・・・・・・それがどうかしたのか?」 「馬鹿じゃないの?」 「は?」 「人前で手なんか握って、何が楽しいんだか。見てるこっちが恥ずかしい。あんな事する連中の気が知れないわ。ってね。軽蔑してたの」 つまり「してた」ということは過去形で。今は軽蔑してないってことだよな? それっきり、その話題にリナは触れようとせず。 俺もまた、何と尋ねていいかわからず。 その台詞の奥深くに隠された物を確かめたくても確かめられず、時間が経ち。 もどかしさを抱えたまま街を後にした。 目的地を定めるでもなく、俺たちはいつものように旅の空の下にいた。 人気のない街道で隣から感じる視線。 「なんだ?」 何度も繰り返した質問。そして今日も同じような答えが返ってくる。 と思いきや。 ふっと溜息をつき。 「う〜〜〜ん、困ったモンね」 小首をかしげながら、リナは足を速めた。 追いかけて、すぐ追いついて。 リナの肩に手をかけるや否や。 リナはあらかじめ予定していたかのようにタイミングよく振り返り。 俺の胸倉を掴んで俺を屈ませ。 爪先立ちになった彼女は。 俺の唇に触れた。 彼女自身の唇で。 ・・・・・。 呆然とする俺を残し、何事もなかったように踵を返し。何事もなかったかのようにリナは歩き出す。 「えっ、おい、リナ!?」 「なによ?」 歩みを止め振り返る。 「最近おかしかったのって・・・キス、したかったのか?」 「は?なんのことよ?」 「何ってお前、たった今、キス・・・」 「キスじゃないわよ?」 「???」 「ちょっと触ってみたかっただけよ?」 「あのなあ・・・」 普通、唇と唇が触れることをキスと呼ぶのではないだろうか!? 俺の内心の動揺もどこ吹く風、リナはふわりと微笑んだ。 「触れてみたかったのよ、ガウリイに。・・・唇で」 「・・・・・」 見知らぬもの同士の唇がたまたま偶然触れてしまったなら、それを事故と呼ぶことができる。そもそもキスとは何なのだろう?リナが言うようにリナがキスじゃないと言うのならキスではないのかもしれない。 思いがけず見せられたリナの大人っぽい表情に、俺は天を仰いだ。 一瞬。 リナがあまりにも眩しく見えたから。 眩しすぎて目を逸らした。 いつから変わり始めたんだろう? いつのまにこんなに綺麗になったんだろう? 「何ぼんやりしてんのよ?早く来ないと置いてくわよ?」 「・・・やれやれ、先を越されちまったかな」 俺は深く溜息をつき、再びリナを追いかけた。 本当のキスをする日が近いであろうという予感を胸に抱きながら。 |