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嫌い、じゃないんだけど。 嫌、でもないんだけど。 慣れてきた、とも言えるんだけど。 一息つきたい、そんな風に思って、あたしは一人で散歩に出掛けたのだ。 ごった返す表通りを歩きながら、あたしは何となくため息をついていた。 ガウリイと・・・・・・。 ・・・・んな関係になったのは、ちょっと前。 ・・・・・・・・・・・。 (あの・・・・・・・・・。で、できれば、・・・のとこにはツッコミ入れないでくれると助かるんですけど・・・・・・。・・・・・あ、ありがと。) 一緒の部屋に入るのにもちょびっと抵抗がなくなってきた最近。 でも、宿のおっちゃんに『一部屋。』って言うのがメチャクチャ恥ずかし〜んですけど・・・・。 その後のおっちゃんの、あたしとガウリイを見比べる時のにやけた顔を見るのが、これまた、ぐはっ、ってカンジなんだけれど。 ふと、疑問に思ったことがあるのだ。 よく、恋人ができると。 世界が違って見える〜!とかいう話を聞くんですけど。 ・・・・・・・・・・・・・・う〜みゅ。 全然、変わんないんだけど・・・・・・・・。 っていうか。 こ・・・・・・・・・・恋人・・・・・・ってナニ、状態・・・・? ガウリイが、あたしのこい・・・・・・こい・・・・・・・・・こい・・・・・ ホ〜タルこいっ!じゃなくてえええええ! 恋人・・・・・・ってカンジは・・・・はっきし言ってなかったりする。 だ!だってさ? 今まで、一緒に旅をしてたんだよ? そん時は、保護者と被保護者っていうか! そ〜ゆ〜関係(・・・・)じゃ、全然なかったし! なのにいきなり、そ〜ゆ〜(・・・・)ことになったからって。 いきなり、らぶらぶ恋人同士〜〜〜♪・・・・にはなんないのだ。 普段のあたしとガウリイは、相変わらずご飯の取りっこはするし。 どつきあいに手加減したりしないし。 そのっ・・・・・。 街中で見かけるみたいに、手を握って歩くとか、肩を抱いて歩くとか、デートという名の食事をのんびり楽しむとか。 そ〜ゆ〜の。 まったくと言っていいほどないのである。 これのどこを掘り返せば、恋人同士、とからぶらぶ、とか思い付くんか?とあたしが思っても不思議じゃないだろう。 そ・・・・・そりゃ・・・・・・・その・・・・・。 よ・・・・・・・・夜はまた別だけど・・・・さ・・・・・。 だからと言って、自分が『デート』に憧れてるとか、ガウリイと手をつないでお花畑で追いかけっこしたい〜〜とか、本気で思ってるわけじゃない。 ないので、点目にならないよ〜に。 ・・・・・っていうか、さ。 ガウリイとそゆことする気にはならないんだよね。 これって変なのかなあ。 世界がバラ色に見えたりしてないし、『デート』したいって思わないし。 ベタベタして欲しいなんて、全然思わないし。 ・・・これって・・・・さ。 『恋』じゃないのかなあ・・・・・? ふと生まれたあたしの疑問は、それなのだ。 あたしは。 そしてガウリイは。 ちゃんと『恋』ってやつをしてるんだろうか。 あたしは。 ちゃんとガウリイを好きなんだろうか? 「ちょっとちょっと。そこの可愛いお嬢ちゃん♪」 「・・・・・・ほえ??」 表通りには、市が立っていた。出店のひとつから、いきなりかかった声にあたしは振り向いた。 そこは、小さな屋根のついた木製の台の上に、雑多な商品がところせましと並べられた、ごく普通の屋台だった。 「お嬢ちゃんって、あたし?」 「あんただよ。まあ、ちょっと寄ってお行きよ。」 「・・・・・・。」 「な、なんだよ?その目は。」 「あのね。そんな安っぽい客引きにひっかかるような人間に見える?あたしが。」 「・・・・・・。」 あっけに取られた屋台の主人は、まだ30代くらいの若い(でもおっちゃん)の男だった。 「いやすまん。正直に言ったつもりだったけどね。」 「まあ。嘘でも客引きでも素直な称賛ってのはいつでも嬉しいわ♪」 「・・・・あんた・・・・。 なかなかにいい性格しとるのう。」 「それも褒め言葉として受け取っておく。」 「・・・・・・・。」 あ。 おっちゃん。 どした? 身体を折って震えてるぞ。 ・・・・・・・・・・・・なんだ。 笑ってるのか・・・・・。 「そ、それより。暇ならちょっと寄っていかねえか。朝から客が来なくて、暇で暇でさあ。」 「買わないわよ。」 「・・・・・正直なお嬢ちゃんだ。よっし、こうしよう。あんたは買わなくてもいい。その代わり、サクラになってくれ。」 「ああ。店の前に誰も客がいないと、不思議に客が寄り付かなかったりするのよね。そのための客寄せってわけ。」 「ああ。見るだけならタダだぜ。」 「そりゃあ・・・・見るだけならタダだけど。それによっておっちゃんに利益が出るんなら、あたしにも見返りがあってい〜わよね。」 「・・・・・むむ・・・。なかなか鋭いな。どうやら頭の回転のいいお嬢ちゃんをひっかけちまったらしい。」 「そゆこと。」 「よっし。んじゃ、客が入ってなんか売れたら、この店の中の商品どれでもひとつお嬢ちゃんにあげちゃおう。」 「ホント?でも、あたしの欲しいものがあるかしら。」 「タダでもらえるんだ、贅沢言っちゃいけないな。」 「あら。タダじゃないわよ。あたしの演技力を売るんですから。それなりのギャラを貰わないとね。」 「・・・・・・・・・ぷっ。」 おっちゃんは笑った。 今度は肩を震わせるなんて控えめなことはなく、思いっきり大口を開けて。 「わかったわかった。とにかく、品物を見てくれ。な?」 「い〜わよ。」 しばらく品物を見ているうちに、おっちゃんの店に何故客が来ないか、あたしにはわかった。 「ちょっとおっちゃん。あんた、ど〜ゆ〜陳列してるわけ。」 「えっ。なんか変か。」 「変よっ!ど〜して食あたりの薬の隣に、旅行用簡易食料なんか置くわけっ!?これじゃ、食べ物のイメージが疑われるでしょっ!?」 「え・・・・そうか?」 「それに!この歌い文句のある魔法剣!『切れ味抜群、どんなものでもスパスパ!』って書いてあるけどっ。」 「それがなにか?」 「なのに何で、その隣に『絶対破れない紙』ってのがあんのよっ?」 「・・・・・あれ?」 「鉾と楯の故事を知らないわね、おっちゃん・・・。」 「・・・・あは、あはははははは。」 「あ〜〜〜〜〜っ。こゆの、見てるだけで許せんっ!商売人のあたしの血が騒ぐっ!いいっ!?全部並べ替えるわよっ!?」 「はひっ?」 ・・・・なにがなじょしてこ〜なった。 こ〜してあたしは、出店の台の上を、あっちをこっち、こっちをそっちにと忙しく働くことになってしまったのである。 「ほら、薬は薬でまとめて。綺麗に棚に並べる!この色とりどりのガラスの壜が、何やら妖しげなムードを演出すんのよ。薬の名前と、薬効を正しく札に書いてね。」 「・・・・ほうほう。」 「食べ物はこっち。籠に入れてね。衛生面には十分注意しないと、主婦のおばちゃんの目はきびし〜わよっ。」 「・・・・なるほど。」 「マジックアイテムはこっち。薬の手前。下にこの紫の布を敷いて。細かいもんは箱に入れて、目玉になる商品をまん中に置いてね。この魔法剣は目立つから、屋台の天井からヒモでぶらさげんのよ。その隣に、この魔法陣の札も下げといてね。これ、マジックアイテム取り扱い店共通マークだから。」 「・・・・ふむふむ。」 「台の隅にはもうひとつ台を置いて。高さを出して。こうすると奥行きが出て、店が広く見えるし、お客さんも見やすいわ。」 「・・・・へえへえ。」 「・・・・あのね・・・・・。」 「ん?」 「さっきから全部あたしにやらせて!おっちゃんは何してんのよっ?」 「メモ取り。」 「メモってる暇があったら、身体で覚えんのよっ、身体でえっ!!」 ばしっっ。 あたしはハリセンでおっちゃんをどついてから気づいた。 あ。これも商品だった。てへ。 「いでででで。・・・・あんた、仕事はテキパキしてるけど・・・・。」 「な・・・・なによ・・・。」 「せーかく、ハゲし〜のな。」 あたしはハリセンをそおっと陳列棚に戻すと、ムネを張る。 「でりしゃすびっぐな御世話っ。これがいつものあたしっ!なんか文句あるっ?」 「・・・・い、いや、文句ってわけじゃ・・・・。」 おっちゃんは手揉みしながらジト汗をかいている。 情けないおっちゃんだ。 「・・・あんた、旅の途中だろ?一人旅か?」 「なんでそんなこと聞くのよ。」 「いや・・・。連れがいたら、ものず・・・・・・い、いやその。大変だろうなって・・・・いっ!いやっ!深い意味はないんだ、深い意味はっ!」 ぱたぱたと手を振って誤摩化そうとするおっちゃん。 ・・・・手遅れだっつの。 「いっ・・・いるわよ・・・・。」 「・・・・・・・・ええっ!?」 ずざざざざっと後に後ずさるおっちゃん。 なんも・・・・・そんなに目んたまひん剥いて驚かなくても・・・・・。 「だ、だから。いるわよ、旅の連れ。」 「・・・・・・物好きな・・・・あっ!いやっ!そ、そうかそうか!あははははは。」 あははじゃないっつ〜の。 「で、そいつ、男か、女か。」 「男よ。」 「ええええええっ!?」 ずざざざざざざっ。 お〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。そんなに後ずさると、後の家にぶち当るって。 「なによ。なんか文句ある?」 「い・・・・・いや・・・・・文句なんて・・・・」 おっちゃんはおずおずと屋台まで戻ってきた。 「そうか・・・。男の連れがねえ・・・・。」 おっちゃんはしげしげとあたしを見てこう言った。 「兄ちゃんか?父ちゃんか?祖父ちゃんか。」 「・・・・・・あのね・・・・・。家族以外、あたしとは旅ができないって言いたいわけ・・・。」 「えええっ!?家族じゃないっ・・・・・・!?」 ずざざざざざっ。 もおいいっちゅ〜の。 「じ・・・・じゃあ・・・・なんだ・・・・・?ま、まさか・・・・・。」 おっちゃんは、この世の終わりみたいに青ざめた顔で戻ってきた。 「まさかとは思うけど・・・・。 こ・・・・・こ・・・・・恋人、とか・・・・・・。」 ・・・・・おっちゃん・・・・・。 そんなに言うのが大変か、その単語が? ・・・・しかし。 あたしは、なんて答えればいいんだろ。 ふと、さっきの疑問が蘇ってきた。 「そんなんじゃ・・・・・ない、と思うけど・・・・・。」 あたしは商品を棚に並べながら、こう言うのが精一杯だった。 今のガウリイとあたしを。 直接的に言い表す言葉をあたしは知らない。 これが以前だったら。あたしはすらっと言ったかも知れない。 あたしと、あたしの自称保護者の二人旅、と。 「・・・・・・なんだか・・・・。自信なさそうだな?」 おっちゃんはあたしに、次の商品を手渡しながら訳知り顔に頷く。 「連れは連れでも、単なる連れじゃあなさそうだ。」 「・・・・・・・・。」 薬の壜を棚に並べ終えて、あたしは次の商品をどこに置こうか考える。 「っていうか・・・・。あたしも、自分で何をどう言ったらいいか、わかんないってとこね。」 「・・・・・好きなんだな、そいつのこと。」 「ええっ!?」 やばい。 あたしは危うく、魔法陣を封じ込めたクリスタルを落っことすところだった。 「や、好きってゆ〜か、そのっ・・・・・」 「じゃあ、愛してるんだ。」 「あ、あああああ愛っ!?」 おわっととととっ!! ふ〜〜〜〜っ、せーふ。 「ちょっとっ!壊れ物扱ってる時に、変なことゆわないでよねっ!!」 「俺は別に変なことは言ってないぜ。お嬢ちゃんが一人で焦ってるんだろうが。」 「・・・・・・・・。」 あう。 なにがなじょしてこ〜なった。 店の前でサクラをするつもりが。 屋台の裏に回って品物の陳列をしながら。 いつのまにか、あたしとおっちゃんは人生相談コーナーのように話し込んでいたのである。 「・・・・・でもよ。」 似合わない顎ヒゲを撫でながら、おっちゃんが言った。 「そいつとは、もう長い付き合いになるわけだよな?」 「・・・・えっと・・・・。4年を長いと言うなら、ね。」 「その間、ずっとお嬢ちゃんと一緒だったんだよな?」 「・・・・そ〜だけど・・・・。」 「なら、それこそお嬢ちゃんのせーかくを、余すところなく知り尽くしているわけだな?」 「・・・何が言いたいわけ・・・・・・。」 「いや、お嬢ちゃんのせーかくを知り尽くした上で!一線を越えてきたってんじゃあ・・・・・。」 「お、大きな声で言わないでよっ!」 「んでその男、この先もずっとお嬢ちゃんと旅をしていくつもりなんだろ?」 「えっ・・・・・。いや・・・・はっきり聞いたわけじゃないけど・・・・。」 「そ〜ゆ〜関係になっても、旅は続いてんだろ?」 「だから大きな声で言わないでってばっ!!」 「そりゃやっぱり、男の方は本気なんだろ。」 「本気って・・・・。」 「だから。全部知ってる上で、お嬢ちゃんがいいと思ったんだろってこと。」 「・・・・・・いっ・・・・・・」 「そんでお嬢ちゃんも、それが嫌じゃないと思ってるなら。それでいいじゃね〜か。何を悩むんだよ?」 「別に・・・・悩んでるわけじゃないわよ・・・・・。」 マジックアイテムはごちゃごちゃと細かいものがたくさんあって。 あたしは箱に一つ一つ小分けしながら、ぶつぶつと呟いた。 「悩んでるわけじゃないけど・・・・。ふと、疑問に思っちゃったのよ。今のあたし達って、何なんだろ〜って。」 「・・・・それで、恋人ってわけじゃない、なんて言ったんだな。」 「そ〜よ。『恋人』って言葉が、あたし達にはあてはまらないと思うのよ。」 「・・・・・ふうむ。」 おっちゃんは、マジックアイテムの一つ、綺麗な銀の細かい細工がしてある髪止めを取り上げた。 あたしが持ってる、小さな仕切りがたくさんある箱に納めようとして、入らないことに気がついた。 おっちゃんは髪止めをかざしてこう言った。 「ほら。箱に納まらないのもあるだろ?・・・お嬢ちゃんとそいつの間柄ってのも、こ〜ゆ〜もんなんじゃね〜か?」 「・・・・・へっ・・・・・。」 「だから。」 おっちゃんはそれを、箱を置く場所より手前に、布の上にぽんと置いた。 「別に箱に入らなくても、髪止めはちゃんと存在してるだろ。別に『恋人』って言葉にこだわらなくてもいいんじゃないのか、ってこと。」 「・・・・・・・・なるほど、ね。」 午後の陽射しに、銀の髪止めはきらりと光った。 「でも・・・・。何だかちゃんと『恋』してるのか、ちゃんとあたしはガウリイを好きなのか。・・・その辺に自信がないとしたら・・・。これは問題だと思わない?」 「・・・・・・ガウリイって言うんだ、お嬢ちゃんの連れは。」 「・・・・うん。」 散歩に行く、と言った時。 ガウリイは一緒に行こうか、と言ってきた。 一人で行きたいの、と言うと。 そうか、と頷いた。 あたしの元自称保護者。 旅の連れ。 今は。 誰よりも一番。 近くにいる人。 「なあ・・・・・お嬢ちゃん。」 おっちゃんは書いていた値札から顔を上げると、あたしの顔をまじっと見た。 「今、あんた、そいつのことを考えてたろ。」 「えっ・・・・・・・・」 な、何故わかる。 おっちゃん、実は隠れた能力の持ち主かっ!? 「俺が思うになあ・・・お嬢ちゃん。」 おっちゃんはにかりと笑った。 その顔は、誰かに似ていなくもなかった。 「ふと気がつくと、相手のことを考えている。それってじゅ〜ぶん、恋ってゆ〜んじゃね〜のか?」 「・・・・・・・・・へ・・・・・・?」 「大丈夫。お嬢ちゃんはちゃあんと、そいつに『恋』してるさ。」 「・・・・・そ・・・・・かなあ・・・・・・。」 「いい顔してたぜ。今のお嬢ちゃん。」 「・・・・・・・・。」 あたしはかりかりと頭をかきながら。 おっちゃんの言葉を考えていた。 残りのマジックアイテムを並べながら。 ・・・・そっか。 いろんなサイズのアイテムがあるのと同じように。 『恋』にも。 いろんな種類やサイズがあるのかな? ・・・・だったら。 デートとか、らぶらぶぅ、あんどいちゃいちゃぁ〜♪したくなくても。 一緒に旅を続けようと思った、あの金髪にーちゃんに。 あたしはちゃんと、『恋』をしてるってことになるんだろうか。 ずっと一緒にいたから情が移ったとか。 こ〜ゆ〜関係(・・・)になっちゃったから、成りゆきで好きになっただけとか。 単に好きだと思い込んでるだけだとか。 ホントはちゃんと、ガウリイを好きになったわけじゃなくて。 本物の『恋』じゃないんじゃないかとか。 ・・・そ〜ゆ〜ことを、あたしは考えていたのだ。 だって、それは偽物だから。 ホントにガウリイをちゃんと好きになったのとは違う。 考え過ぎだとか、潔癖症とか言われちゃうかも知んないけど。 あたしはどうしても、その点が確認したかったのだ。 ・・・だって。 これから先、ずっと一緒にいるなら。 偽物の気持ちじゃ続かない。 ガウリイにも失礼な話だし。 あたしにとっても、自分が中途半端なのは気持ちが悪い。 笑って。 この先、どこまでも一緒に歩いて行くつもりなら。 ・・・・あたしは。 ちゃんとガウリイを『好き』になりたい。 「ところでお嬢ちゃん、何かめぼしいものはあったかい?」 ほとんど陳列を終えた頃、おっちゃんがにこにこしながらきいてきた。 「めぼしいもの?」 あたしはきょとん、とした。 サクラの報酬のことをすっかり忘れていたのだ。 ・・・・あたしとしたことが。 「あ、そ、そね。」 「お客が来て、何か買ってくれたら、お嬢ちゃんの欲しいもの、どれでもひとつあげるって約束だったろ?」 「う〜〜〜〜ん・・・・そおねえ。」 実は。あるといえばあった。 マジックアイテムの整理をしていた時に見つけたのだ。 リストバンド。 それも、魔法に対する耐性のあるヤツ。 ある程度の攻撃魔法を防ぎ、しかも、物理的攻撃じゃなく、アストラルサイドを保護する役目があるらしい。 魔術の心得のない、普通の剣士が帯びるものとしてはかなり上級の品である。 「・・・お。もしかして、これかい?」 あたしの視線の先を追って、おっちゃんがリストバンドを指差した。 「・・・・・あ・・・いや・・・その・・・ちょっと目についただけよ。」 「だよなあ。お嬢ちゃんは見たところ、黒魔道士だし。魔法防御のアイテムより、魔術に使う触媒とか、魔法薬の材料とか、そ〜ゆ〜値うちのあるもん狙うよなあ。」 「・・・・・・・・。」 ガウリイの手首に合いそうなサイズだなあ。 と思って、あたしは見ていたのだ。 おっちゃんに勘違いされ、あたしは思わず顔を赤らめた。 何故だか、おっちゃんの言葉を再確認した気になってしまったのだ。 「そ〜ねえ・・・・・。」 自分でもわざとらしく、薬の棚をためすがめすつする。 だけど思いは、すでにリストバンドの方に飛んでいた。 「あの・・・・おっちゃん?」 「ん?決ったか?」 「今気がついたんだけど・・・・・。客が来て、何か売れたらって・・・・。客が来るまで、あたしはここにいなくちゃいけないってこと・・・・・?」 「・・・・・・・・あ。・・・・あははははは。」 「あははじゃないっ!ちょっとっ。日が暮れちゃうわよっ!」 「だ、だからさ、サクラとして今度はがんばってくれよ。屋台の内側にいたんじゃ、売り子になっちまうぜ。」 「あ〜〜〜も〜〜〜っ!売り子でもサクラでも何でもやったるわよっ! はいはい、そこの可愛いお嬢ちゃんっ!安いよ安いよっ!!」 「客引き・・・俺と変わんね〜じゃんよ・・・・。」 「細かいことはゆわないの!ちょっとちょっと、そこのハンサムなおに〜さんっ!・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・あれ・・・・?」 ハリセンを客寄せ代わりに振り回していたあたしが、次に声をかけた相手は。 「あ〜〜〜〜〜〜っっ。リナっ!お前っ、んなとこで何やってんだよっ?」 「ガ、ガウリイっ!?」 言わずと知れた、あたしの旅の連れ。 長身で金髪、言葉通り、ホントにハンサムなに〜ちゃん。 ・・・・の。 ガウリイ本人だった・・・・。 「ガウリイ・・・・?」 あたしの横でおっちゃんが呟いた。 「あれ・・・・。じゃあ、お嬢ちゃんの相手って・・・・・。」 「あっ、こらっ、し〜〜〜っ!!」 おっちゃんが余計なことを言い出す前に、あたしはハリセンでおっちゃんの口をはたいていた。 あ。 おっちゃんの口がタコになってしまった・・・。 「お前・・・散歩に出たんじゃなかったのか?何で市場で売り子なんかやってるんだよ。」 呆れた顔で、腕組みをしているあたしの元保護者。 「ちょっ・・・。ちょっとした成りゆきよっ・・・。それより、あんたこそど〜してこんなとこにいんの。宿で寝てるって言ってたじゃない。」 「いやあ。寝ようかと思ったんだけど、思いだしたことがあってな。」 「・・・・?」 会話を続けるあたし達を、おっちゃんが脇からしげしげと眺めている気がした。 「・・・・なるほど・・・・・・。」 とか何とか、ぶつぶつ呟いている。 「どうもこいつが御世話になったみたいで。」 ようやくおっちゃんの存在に気づいたガウリイが、ぺこりと頭を下げた。 「こいつ、兇暴だから。何かされませんでした?」 「あ、あんたねっ!!開口一番それしかないんかっ!?」 ぺしっ! あ。 またハリセンで叩いちゃった。しょ、商品だっけね。いけないいけない。 「いてっ。・・・ほら、これでしょ?」 はたかれた頭をさするガウリイ。 おっちゃんはぽかんとそれを見ていたが、うんうんと頷いた。 「いや、あなたの苦労は何となくわかった気がします。」 「あ。わかってくれます?」 「ええ。」 ・・・ちょっとちょっとそこっ。 二人して和まないよ〜にっ! 「ところでお兄さんは、剣士とお見受けしましたが。」 ガウリイの背中にしょった大きな剣を見て、おっちゃんが手揉みした。 「ええ、まあ。」 「もしかして、何かお探しの品があるかも知れませんよ?」 「どうして探し物があるってわかったんです?」 「そりゃあわかりますよ。こう見えてもこの道40年。数々の街で商売人と鳴らして来たあっしには、ちゃあんとわかるんですよ♪」 ・・・・おひ・・・・。 40年って・・・どう見てもおっちゃんは30代だぞ・・・・。 それにあの陳列の仕方を見たって、この商売やるようになってから日が浅いってバレバレだってば・・・・。 「いやあ、さすがにプロは違うなあ♪」 こらガウリイ。 素直に感心すな。 「実は、まじ・・・まじ・・・・・・。」 「???」 首を傾げたガウリイに、おっちゃんまでつき合いよく首をかしげる。 あたしはため息をついて、仕方なくフォローしてやる。 「マジックアイテム?マジックショップ?」 「そーそー。マジックアイテムってやつ。そ〜ゆ〜の、探してたんですよ。」 「そりゃあ、お兄さんは運がいい。うちはとびきりのアイテムを扱ってんですよ。それで、どんなのをお探し・・・・・」 「ガウリイがマジックアイテムっっ!?」 おっちゃんの言葉は、あたしの大声に遮られた。 「ちょ、ちょっと。あたしの聞き間違いかなにか?ガウリイが、マジックアイテムを探してるってぇっ!?」 「な、なんだよ。そんなにおかしいか?」 「おかし〜わよっ!白魔法と黒魔法の区別もわかんないよ〜なあんたがっ!マジックアイテムの何を探すってゆ〜のよっ!?聞かせてもらいたいもんだわね!」 「お・・・・・お嬢ちゃん・・・・。」 商売の邪魔をされたおっちゃんが、脇でおろおろしている。 「あ・・・あのお兄さん、それで、どんなアイテムをお探しで?」 ガウリイはぽりぽりと頬をかいた。 彼の癖のひとつ。 「いや・・・・どんなって言われると、よくわからないんですけど・・・。攻撃魔法とか、つまり、魔法から少しは身を守ってくれるアイテムって、あるかなあと。」 ・・・・・・・・・・・なぬっ!? 「おお!まさにうってつけの品物がありまさあね!!」 おっちゃんは目を輝かせて、さっきあたしが目をつけていた、リストバンドをガウリイに差し出した。 「これ!これこそまさに、お兄さんの言う通り、魔法防御の効果があるアイテムなんですよ。見たところ、お兄さんの腕にぴったりですぜ?」 「へ〜〜〜〜。ホントにあるんだ。」 「あ。試してみやす?・・・・ほら、ぴったりですよ。」 あたしの目測は過っていなかった。 そのリストバンドは、ガウリイの手首にちょうどよく納まったのである。 「どうです、オススメ品ですよ!」 「そうだなあ・・・。」 嵌めてもらったリストバンドを、ガウリイは陽にかざしている。 「今なら100!たったの100でいいですよ。お兄さんはトクベツだ!」 「100・・・・・。」 ガウリイ、どうやら本気で考えているらしい。 ・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・。 ちょっと待った。 「ガウリイ。あんた、確か手袋に穴が開いたって言ってなかったっけ。」 「・・・・・・・へっ・・・・?」 「言ったわよね。」 「い・・・いや、別にオレは・・・・」 「言ったわよね?」 「・・・・・あ・・・・いや・・・・そ〜いえば何となく・・・・言ったような気もしないでもなくもない・・・かな・・・。」 ははは、とジト汗を垂らして笑うガウリイ。 「言った。聞いた。あたしが。だからして、あんたは新しい手袋を買いなさい。」 「・・・・・へ・・・・?」 「お、おい、お嬢ちゃん・・・・。」 そりゃないよ、という顔でおっちゃんがあたしを見ている。 しか〜〜し! んなことに構っている場合でわない。 「おっちゃん。そ〜ゆ〜訳だから。この人の手に合う手袋売ってやって。在庫はあるわよね?さっきあたしも確認したから。」 「・・・・・・はは・・・・。ありますとも・・・・。」 「んじゃガウリイ、お金払って。」 「でもよ、リナ、オレ・・・・・・・」 「い〜から払って。」 「・・・・・・。」 あたしの剣幕に押され、ガウリイは仕方ない様子でお金を払い。 残念そうなおっちゃんは新しい手袋をガウリイに手渡す。 ・・・・・・みゅ。 万事解決。 「・・・とゆ〜ことで、おっちゃん♪お客が来たわよね?」 「・・・・えっ・・・」 「だ・か・ら♪約束の品、ちょ〜だいっ♪」 「えええっ!?」 狐につままれた顔のまんまのおっちゃんを残し。 あたしは、清清しい気持ちで店を後にした。 ・・・・新しい手袋に、新しいリストバンドをつけ直したガウリイと一緒に。 「・・・なあ、リナ。」 拳をぎゅっぎゅっと握って、手袋とバンドの具合を確かめていたガウリイが、後を振り返って言った。 「あれで良かったのか?手袋の代金なんて、大したことなかったのに。このリストバンド、高そうだぜ?」 「い〜のい〜の。最初からそ〜ゆ〜約束だったのよ。おっちゃんの店でサクラをやる代わりに、客が来て売り上げが出たら、なんでも好きなの一つ持って行っていいって。」 「なんか・・・・ほとんどサギっていわね〜か、それ?」 「正統な報酬と言ってほしいわね。大体、サクラって約束だったのに店の陳列まで手伝ったのよ?」 「ふ〜〜〜ん。」 「なによ。まだなにか疑問でも?」 「いや。」 ガウリイはぽふぽふ、とあたしの頭を撫でる。 「なっ。なによっ・・・・。」 「あの店、他にいっぱいマジックなんとかがあったのに。・・・なんでリナは、これを選んでくれたんだ?」 片腕を上げ、リストバンドを見せるガウリイ。 う・・・・え〜〜〜と・・・・・。 「い、いや、その、深い意味はないのよ?深い意味はっ。あ、あんたがあれを買おうとしたから、それにこれ、高かったし。なら、安いのでもなんでも買って、あたしが報酬としてこれを貰った方が、安く済むと思っただけよっ。」 「ふ〜〜〜ん?」 「しょ、しょ〜ばい人の血が騒いだだけっ。」 「ふ〜〜〜ん。」 ガウリイはにこにことしながら、あたしの頭をぽふぽふと撫で続けている。 「ま、そ〜ゆ〜ことにしておくか。」 「・・・・なによ・・・。」 なんなのよ。その悟ったよ〜な顔わっ。 気がついたらそれに目が行ってた。 それも誰かさんのために、なんて。 口が裂けても教えてやんない。 ・・・ホントに。 あたしはこいつが『好き』なのかなあ。 そしてガウリイも。 あたしが『好き』なんだろうか。 「ところで・・・・。」 手をつなぐでもなく。肩を抱くでもなく。 てれてれと一緒に歩いているガウリイに、あたしはきいてみた。 「何であんた、マジックアイテムなんか探してたの?それも、魔法防御に使うような。」 「・・・・・・あ・・・いや・・・・その、な・・・?」 ガウリイがまた、頬をぽりぽりとかいた。 「その・・・・・。少しは、オレが自分で魔法から身を守れた方が・・・。お前さんの負担が減るかなって・・・思ってさ。」 「・・・・・・・・へっ・・・・・・?」 傾きかけた午後の陽射しの中。 真っ赤になってよたよたと歩くあたしと。 心配そうに後からついてくる、元保護者。 世間の枠組みからはち〜〜〜っとばかし外れているけど。 確かに『好き』な者同士の。 ぶきっちょな恋人達が、宿屋へ向って帰って行った。 |