過去の迷宮
― 第9話 ―

作:桐馬さん

「話の続きで・・・カルバットの件についてなんだけど。」




下の酒場から聞こえてくるざわめきにかぶって、宿屋の一室にあたしの声が小さく響く。
むろん、食堂にいたときと違い普段通りの声色に戻している。
2人部屋のため5人が部屋に入りきるには多少窮屈な感じもするがそうも言っていられない。
備え付けのイスに腰かけたセリスはこれまた頬杖をつき、こちらにめんどうくさそうな視線を向ける。
「ん〜・・・・・そもそも私の旅の目的の1つ目は「私より強い王子様」を見つけることなんだけど。
2つ目が実はクレアバイブルだったりするのよ、これが。」

クレアバイブルが後回しかいっ・・・・・

喉まで出かかったつっこみをなんとか飲み込む。
「で。カルバットでもクレアバイブルを見つけたわけなんだけど・・・」
「何!?どこだっ!!どこにクレアバイブルがある!?」



壁に寄りかかっていたゼルガディスが凄い勢いでセリスに詰め寄る。



「どこに・・・・!」
「落ちつけってのよ・・・言っておくけど、私は何度も同じことを言うのが嫌いなの。
それだけは覚えておいてね。」

ゼルの鼻先に指をつきつけ、セリスはぴしゃりと言い放つ。
ゼルガディスは何やら口を開きかけたが少しの間躊躇ったあと、セリスと同じく近くにあったイスに腰を下ろした。
「・・・・ま、セリスもちょっとはわかってあげてよね。
ゼルも自分の身体を元の姿に戻すのに必死なんだから。」
「へえ?ゼルもなんだ?」
横からはさんだあたしの言葉に先ほどまでめんどうくさそうにしていたのとはうって変わって何やら興味を示すセリス。
「じゃ、話の腰を折らずに最後まで聞いてくれる?
話の中にゼルの欲しそうな情報もあるかもしれないしさ。」
にっと笑みを見せる彼女に、ゼルも渋々と言った感じで黙って小さく頷いた。
あたしもセリスの視線に答えて頷き、話をうながす。
「えっと・・・・・どこからだっけ・・・・・そうそう、カルバット。
そのカルバットでクレアバイブルを見つけてね。
手に入れたはいいけど・・・
途中で色々あって・・・・魔族を1匹ぷち倒しちゃったわけよ。」
単なる世間話をするかのようにあくまで軽い口調で続ける。

ふむ・・・・・・

「で。それから狙われるようになっちゃって、てへ♪」





・・・・・・・・・まて。



あたしは思わず手をあげ

「ちょっと質問。」
「ん、何?」

「・・・・・・それが原因で狙われるようになったってこと?
魔族1匹倒したのが原因で。何年も。」
「ん〜・・・・・どうなんだろう?」

おいっ・・・・・・・狙われてるのはおまいだろーがっ。

でも。
それが原因だとしたらなんとなく違和感を感じるんだけれども・・・・
クレアバイブルを持っているところで何年も命を狙って追ってくるものなのだろうか?
敵討ちなんてことは魔族に限ってないだろうし。



だとすれば・・・
「その倒した魔族ってぇのが・・・・単なる三流魔族じゃなかったとか?」



つまりある程度の高位魔族――




「ん〜・・・・・・・よく分かんないや。」
しばし考えるそぶりをした後、あっけらかんとした彼女の言葉に思わず頭を抱え込む。

本当に、こいつは話をする気あるんだろうか・・・・・・?

そんなあたしに代わってゼルガディスは急かすように
「それよりクレアバイブルは・・・!」
「そうそう。んで、私としてはクレアバイブルを奪うのが奴らの目的かなって思ったりするんだけど。」
ゼルの質問をひとまずさらっと流し、彼女は無理やり結論づける。
「いや、だからクレア・・・」
「なあ。」
これまたゼルの発言をさえぎり、いきなりガウリイが口を開いた。

そして。
いつもののほほんとした口調でこう言った。



「だったらそのクレア・・・・なんとかを奴らにくれてやればいいんじゃないのか?」



めごしっっ!



「なぁああああに言ってんのよっ!?魔族の手に渡ったら前みたいに燃やされるとか処分されるとかで少なくともいいように使われるわけないでしょうが!?」
あたしの叫び声が部屋中に響き渡る。



・・・・・・ま、床に伸びてるガウリイの耳にちゃんと届いたかはさておき。



あたしは肩で息をついた後
「で?なんであんたはクレアバイブル集めてんの?」
「って切り替え早っ!?」
「なんでなの?」
強い口調で繰り返したあたしを見て、少々驚いた顔つきを見せ
「魔力を高めるために決まってるじゃない。」
さも当然というように言うセリス。

まあ、確かにそうかもしれないが・・・・・・

「でも、セリス。あんたもう充分魔法使えるんじゃないの?」

そう。
彼女があたし達の前で見せた術はたいしたものではなかったからなんとも言えないが。



―― 直感的に、彼女は魔法の腕もたつのでないのかと感じたのだ。



もっとも、あたしの単なる推測にすぎないけど。



が。



あたしの疑問の声にセリスは笑ってぱたぱたと手を振り、予想外の答えを返す。

「いや。そんなに使えない使えない。」
「かなり使えると思ったんだけど・・・・・例えばほら。レイウィングなんか。」

アメリアもひきずって飛んでいたにしてはずいぶんと速いスピードを出していたと思うのだが・・・・

「ああ、そりゃ偏見ね。」
あっさりと彼女は言葉を返す。
言って漆黒の髪の毛の先を無意味にいじりながら
「ほら、何かの魔法だけ得意。とか使える。とかいう人がいるでしょ?
あれよ、あれ。レイウィングは必要だろうと思って、ね。
速く飛ぶために色々アレンジ加えたから、あのレイウィングだけ見て魔法が使えるように見えるかもしれないけど・・・・
実際、たいした魔法は使えないのよ。」
どうでもいいことのように言う。



しかし。
やろうと思えば魔法もそこそこの実力にできるんじゃないだろーか、彼女。
レイウィングにアレンジを加えた、と今あっさり言ったが。
実はけっこう技術のいることだったりするのだ。
力の加減が聞かないとか制御が難しいとか・・・で、下手すると単なる怪我ではすまないだろう。



セリスは続けてぽそりと言った。



「それに・・・・・・・何か一つ得意なのがあると気分いいじゃない。」



・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど。

「そんなことよりクレアバイブルを持ってるんだな・・・・?」
クレアバイブルという言葉を聞いて手がかりが見つかるかもしれないためか苛立ちを込め、ゼルガディスはセリスへ言葉を投げかける。



部屋の中の時が止まる――



「ええ。持ってるわ・・・・・」



静かにセリスは呟いた。



「どこにある!?俺に渡すんだっ!」
セリスの襟首をつかみ寄せ、途端にゼルが声を張り上げる。
「ちょっ・・・!!ゼルっ!!」
「どこだっ!?言わないなら・・・・・・・・っ!?」



言いかけ、突如動きを止めるゼルガディス。



そんなゼルに穏やかすぎるとも言える口調で
「落ち着いてってば・・・・・まあ、無理な話かもしれないけど。
今、その話をするからさ。」
言って静かに笑う。



―― ゼルの喉元にいつの間にか抜きはなったダガーをつきつけて。



短い沈黙が部屋を包み込み―――



舌打ち一つ。
ゆっくりとセリスの襟首を締め上げていた手が離れた。
その様子を見てセリスもつきつけていたダガーを懐にしまいこむ。



そして――

「って、物騒な真似すなぁああああああああっ!!!」



すっぱぁあああああんっ!



やたらと景気のいい音が部屋に響いた。
「ったいなぁ・・・・ゼルが悪いんじゃない!
それにどつくのは私の手が痛くなりそうだからこうしたのに!」
たいして痛くもなさそうな口調で後頭部をさすりながら軽くこちらを睨む。
「やかましいっ!んなどこでもここでも刃物振り回すなっ!」
「し、失礼ね!!振り回してるんじゃなくて、そっと首元にあてただけよ!
いや・・・・・そえたって方が正しいかしら?」
「どっちも一緒でしょうがっ!?」
思わず叫び声を上げる。
「そもそも・・・・・んな物騒なもん、そんなとこに入れてるんじゃないわよっ!」
言ってあたしはびしぃっっとセリスの懐を指さす。
「って何言ってんのよ!?リナこそそのスリッパ!どっから出してんのよ!?」
あたし同様、叫び声を上げあたしの右手に握りしめられているスリッパを指さす。



が。



ふふんっ

あたしは軽く鼻で笑い

「乙女の秘密よ♪」
「お、おとめぇえっ!?」



すぱんっっっ!!



声をひっくり返してまで暴言を吐いたセリスを、あたしの怒りの一撃が今度こそ完全に沈黙させたのだった。






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