過去の迷宮
― 第6話 ―

作:桐馬さん

現れた男は少し癖の蒼い髪を肩までのばした、どこか小生意気そうな顔立ちをしている。
しかし、虚空に突如現れたということは・・・



―――――― 魔族!?



「レビテーションっ!」
あたしは素早く呪文を唱えなおし、壁に空いた穴からガウリイ達の部屋に飛び込んだ。
「リナ!?」
「どうやら怪我はないみたいね。」
言って、あたしは剣をかまえたままのガウリイとゼルの元に駆け寄った。
「・・・・・アメリアはどうした?」
宙に漂う2人の男から注意を逸らさず言うゼルに
「あー、そのうちいつものように現れるんじゃない?」
あたしは笑って、続けてガウリイに目線だけ向けて
「ところでガウリイ。あいつらどうもあんたをご指名みたいだけど、知り合い?」
「いや・・・記憶にないから知り合いじゃないと思うぞ。」
「・・・・・・・・・・・・あんたの場合は知り合いでも記憶にないでしょーが。」
じと目でつぶやくあたし。
「で。君もここにいるということは、やっぱり報告は本当ってわけだ?」

報告?

後から現れた男の方がセリスに視線を合わせてどこかおかしそうに言う。
セリスはそいつを真っ向から見返し
「何のこと?」
「しらじらしいね・・・・・そこの男―――ガウリイ=ガブリエフについてさ。」
男はこちらを―― ガウリイを一瞥し、再びセリスに視線を戻す。
セリスは静かな口調で、しかし強い口調で
「彼はただの知り合いよ。」
「なるほど。・・・・「ただの」知り合い、ね。」
男はやたらと「ただの」という部分を強調して、意味ありげな言い方をして返す。
あたしは思わず隣に立つガウリイの方を見る。

・・・・だが、正面に視線を向けたままでその横顔からは何も読みとれない。

男は蒼い髪を指先でいじりながら
「それにあのデモン・スレイヤーと名高いリナ=インバースのおまけ付きときたもんだ。・・・・・ずいぶん楽しくなりそうじゃないか。」
「ルイス・・・・任務が最優先だ。その事を忘れるな。」
楽しげに言うルイスと呼ばれた男に、それまで黙って聞いていた冷徹さを感じさせる男が静かに叱責を飛ばす。
「わかっている、さ・・・・・」
その言葉と同時にルイスはすっと目を笑みの形に細め、腕を高く振り上げ・・・
「ルイスっ!!」
金髪の男の鋭い口調に重なり―――




ごぐわぁんっっ!!!




先ほどよりも更に大きな衝撃があたし達を襲う・・・・って


『どひぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!』


あたし、ガウリイ、そしてゼルの驚愕の声ががれきの吹っ飛ぶ音に混じって響き渡る。
それと同時にあたしは足場がとてつもなく不安定になるのを感じた。
あああああああああああああああっ!!!と、と、ととともかく!
「レビテーションっ!!」
ガウリイの腕をひっつかみ、素早く外に躍り出る。
そして術を制御しつつ地面に降り立った―――

「って、う゛っ・・・・・・・」

あたしは事態を理解して思わず声を上げていた。
元は宿屋があったはずの場所・・・・そう、「あったはず」である。
柱も何かもめちゃくちゃになり文字通りがれきの山が出来ていた。
・・・・・もちろん、宿屋の原形すらとどめていないが。
「もはや修理のしようもないな・・・・」
あたしの隣に降り立ったゼルガディスがぼそりとつぶやく。
や、修理どうこうってよりも他に・・・・・
って、それより。
「どういうつもりよ!?」
あたしは今の爆発を起こしたであろう張本人、ルイスをにらみつける。
やたらと楽しげな目はあたしの方を向き
「パーティーは派手にやらなくちゃね。」
いたずらっぽい笑みと共にひょいと肩をすくめた。
「ルイス。」
漆黒のローブを身に纏う男が苛立たしそうに短く名前を呼び
「なるべく事を荒立てるなと言う事を忘れたのか?」
「なるべく、だろ・・・・?」
ルイスはちらりと横目で見て夜風にたなびく髪をかきあげた。
「あんたねぇ・・・・・」



「そこまでよっ!!」



言いかけるあたしの声をさえぎり聞き慣れた声が夜闇の中、朗々と響き渡る。
「私利私欲のために人々の安眠を妨害し!なおかつ人として決して許されることのない破壊と殺戮!!世間の目はごまかせたとしてもわたしの中に熱く煮えたぎる!この正義を愛する心の前にはごまかしなど通用しないわ!!」
・・・いや、世間の目をごまかすのも無理だってば。
声のする方向を見るとがれきの山の1番上にたたずみ宙に浮くやつらをびしっと指さすアメリアの姿!
・・・・・どぉでもいいけどパジャマの上にマント羽織っての決めポーズはやめろ。
「破壊と殺戮って・・・誰もそこまでしてないだろーが。」
憂鬱そうなため息と共にゼルが低い声でつっこむのがあたしの耳に届いた。
そんなことにもちろん気付くことなく、更に熱気を帯びた口調で
「おとなしく自ら犯したあやまちを悔い改め、悪の道から足を洗うならよし!
そうでなければ・・・・・天に代わってこのわたしがっ!わたしの正義の鉄槌をもってあなた達に裁きを下してあげるわっ!!」
「正義の鉄槌、ねぇ・・・・」
そんなアメリア視線を向け、完っぺきに小馬鹿にしたようにルイスはつぶやく。
「ま、その正義の鉄槌だっけ?なんでもいいけどね。そんなにボクと遊びたいなら遊んであげるよ。でも・・・あんまりがっかりさせないでね?」
「ふっ・・・いいでしょう。改心が見られないようなのでこのわたしが自ら!
悪に染まったあなたの心を叩き直してあげましょう!!」
やたらと自信満々にぐっとこぶしを突き上げるアメリア。
「では!アメリア行きぶぎゅっ!」
なぜだかいきなりずっこけるアメリア。
「はいはいはいはい。あんたは行かなくていいから。」
呆れた口調で言い、セリスが姿を現す。
「なにするんです!?セリスさん!痛いじゃないですかっ!!」
アメリアはがばっとがれきの山から起きあがり、セリスに詰め寄る。
どうやら今アメリアが転んだのは、セリスがアメリアの足を引っ張ったか足払いをかけたか・・・どうやらそんなところみたいである。
しかし、セリスは真剣な顔つきで
「アメリア!今はそんなことどうでもいいのよ・・・」
「そんなことって!?」
「今、第一に考えることは他にあるでしょ?」
アメリアの非難の声を遮り強い口調で言うセリス。
「なるほど・・・・それもそうですね!さあ!ではみんながそろったところで!!
悪の手先達に正義の鉄槌を!!」
「や、それも違う違う。」
やおら目を輝かせてバックに炎なんぞ背負いつつ、握りこぶしを突き上げたアメリアの言葉をまたまた遮りぱたぱた手を振るセリス。
「へ!?・・・じゃあ、なんなんですか?」
訝しげに言うアメリアの問いには答えずセリスはこちらに視線を向け、にっと意味ありげな笑みをみせた。
――― どうやらセリスもあたしと同じことを考えているようである。
「ガウリイ。ゼル。」
あたしは素早くガウリイ達に声をかけた。



その間にもセリスはアメリアの方に視線を戻し
「何かって?・・・・・・・・・・・こうすんのよ。」
にっこり笑ってアメリアのマントに手を伸ばし、ぽつりと一言つぶやいた。





「レイウィング♪」




「うにょわひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!」
何やらアメリアの叫び声を響かせながらセリス達は夜の闇に消えていく。
あたし達も別にぼけっとセリス達が去っていくのを見ていたわけじゃなく
『レイウィングっ』
あたしとゼルの声がセリスが呪文を唱えたのとほぼ同時に重なった。
そして全速力でアメリア達の後を追う。
・・・って、なんか先の方からすんげぇアメリアの声が聞こえて来るんだけど。
しかし彼女・・・・・・・・魔力もかなりのものらしい。
アメリアの分も飛んでいて、あたしが増幅の術を使っているにもかかわらずアメリア達の気配は遠のく一方である。
本当に、一体何者なのだろうか・・・・・・?
「奴ら、追いかけてこないみたいぞ!?」
そんなことを考えつつ一刻も早く宿から遠ざかるために、増幅のレビテーションを使って飛び続けるあたしの腕にしがみついてるガウリイが言う。
「ひょっこりまた現れるんじゃないの?」
「・・・・・・確かに。」
なげやりに言ったあたしの言葉に苦い口調で同意するゼルガディス。

って、ん?アメリア達の気配が止まった・・・
どうやらこの先の町はずれで降りたようである。
「一体どういうつもりなんですか!?セリスさん!!」
「あー、もう、仕方ないでしょうが!」
あたし達も追いつき、気配の止まったところで降り立つと、全身すり傷だらけで怒鳴り声を響かせるアメリアと言い合うセリスの姿があった。
「仕方ないじゃないです!!なんであんな悪人達に背を向けて逃げるというような卑怯な真似を!?・・・・・・・・せっかく決めゼリフもうまく言ってたのに!」
怒ってる原因はそれかい!?
「あー、アメリアアメリア。」
横から口をはさむあたし。そしてため息一つ、
「あのままあそこにいたら宿の弁償代払わなくちゃなんなかったでしょーが。」
「そうそう。」
大きく縦に首を振るセリス。そして
「宿屋を破壊したのはあいつらにしても、一応私たちも関係者だし。」
「ってか、めちゃくちゃ関係者でしょ。」
「逃げるが勝ちってことで。」
あたしの鋭いつっこみを無視してアメリアに笑いながら言うセリス。
でも一筋の汗がセリスの頬を伝ったのをあたしは見逃さなかった。
そしてアメリアの鼻先に指を突きつけ人の悪い笑みを浮かべ
「それとも・・・・アメリアだけ宿に戻って弁償してくる?」
「わたしは関係ないじゃないですか!?」
「同じ宿に泊まってた時点ですでに関係者よ♪」
「そんな!?・・・・いえ、弁償するとしたらセリスさんの方です!!あの人達、セリスさんの知り合いっぽかったじゃないですか!!」
「ほほぉう・・・・・・・んじゃ私の知り合いであるあいつらは、私の知り合いであるあんたの知り合いでもあるってことになるわね!」
「なんでそうなるんですか!?」

「ともかくっ!」

再び言い合いを始めかけるアメリア達を遮るように強い口調であたしは言った。
「宿屋がつぶれたことは置いとくとして。」
「そうそう。形あるもの、いつかは壊れるって。」
宿屋の主人が聞いたら後ろから刺されそうな事を言ったあたしに同意するセリス。
そしてあたしの方にセリスは向き直りちょっと感心したように
「でも、よくわかったわね。あそこから私が逃げようとしてるって。」
「ま、あたしもそうしようと思ってたし。」
苦笑するあたしとセリスを交互に見てアメリアがぼそりと恨めしそうに言った。




「・・・・・・・・・・・・・・やっぱり似てますよ。」





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