過去の迷宮
― 第5話 ―

作:桐馬さん

「で?」

ぎぎくぅっっ!

「どういうつもりなの?あんた達は。」
・・・・・・・や、やっぱしとてつもなく怒ってるよぉな・・・・・・・・・・・
ちなみにゼルは真っ青な顔に「何で俺まで・・・・」なぞと顔の上に書いてあったりする。
アメリアは思いっきし冷や汗かきながら、何か言おうと口をぱくぱくしているが言葉になってない様子みたいだし。
どうしたもんだろうか・・・・・
あたしが頭の中で必死に何か良い言い訳はないか探していると。
セリスは小さく溜息をつき頭をがしがしとかき
「・・・・・と言ったところで、さっき見たまんま。「気になったから盗聴してみた♪」ってなところなんだろうけど。」
・・・・・・・・分かってるなら聞くなよ。
「ま、ガウリイ一人を呼びだしてたら何話してるか聞きたくなるでしょーね。
私が逆の立場でもそうするだろうし・・・・・もっとも、私はもっとうまくやるけどね。」
うんうん何やら一人で考え始めるセリス。
その隣で、いきなりガウリイが「おおっ!」と言いつつぽむっと手を打ち
「なんだ!リナ達、オレ達の話を盗み聞きしてたのか!?」
「今頃気づいたんか、あんたわぁあああああああああっ!!!」

すっぱぁあああああんっ!!

やたらめったらぼけまくったガウリイの発言に、あたしは容赦なく懐から取り出した
スリッパでガウリイの後頭部をはたき倒した。
「速い!?って、スリッパ!?何故にスリッパ!?」
何やら叫ぶセリスはさておきとして。
「ったく、やけに難しい顔してると思ったら!状況についてきてなかったんか!?」
「いや・・・てっきりリナ達は部屋を間違えたのかと・・・・」
「信じるな、んなこと・・・・」
頬をひきつらせながら横からセリスがつっこむ。
そして
「ま、ともかくよ。今度、こんなことしたら・・・・分かってるわよね?」
にっこりと満面の笑みを浮かべてあたし達に言う。
・・・・・・ただし、もちろんのこと目は笑ってなかったりする。
この言い方・・・・かなりの迫力を感じさせるのである・・・・・
あたし達の沈黙を肯定と受け取ったのかセリスはマントをひるがえしドアのノブに手をかけ、顔だけこちらに向けて
「んじゃ、私はもう自分の部屋に戻るから。また明日ね♪」
そう一方的に言い放ち、部屋から出ていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと。
微妙な沈黙の中、
「じゃ、じゃあ・・・あたし達も部屋に戻る?」
「そ、そ、そうですね!そうしましょう!ええ、そうです!!」
何やらさらにじと汗流しながらアメリアが答えた。
あたしもなんか疲れたし・・・・・・っと、そーだ。
「ちょっとガウリイ。部屋に戻る前に少し話があるんだけど・・・・」
あたしは思い出したことがあってちょいちょいとガウリイに手招きをする。
「ん?なんだ?」
「あ、ゼルとアメリアはあたし達の部屋に行っといてくんない?」
アメリアは一瞬怪訝そうな顔つきをし、次の瞬間
「分かりました!頑張って下さいね、リナさん♪」
語尾に音符マークなどつけつつ目を輝かせ、あっという間にゼルをひきずり部屋から出ていった。
ったく、あの娘は・・・・・・
「んで、なんだ?」
きょとんとした顔つきであたしに尋ねるガウリイ。
「ん〜・・・・ちょっと気になることがあってね・・・・・・」
あたしは言葉を濁しつつ、さりげなくそばにあった備え付けのイスに腰を下ろす。
どーでもいいことかもしれないんだけどねぇ・・・・やっぱり気になるし・・・・・
あたしが頭の中で考えていると
「リナ?」
ぽんっとあたしの頭に手を置いて不思議そうにあたしの名前を呼んだ。
「あ、うん。たいしたことじゃないんだけどね・・・・
昼間さ・・・セリスがガウリイの顔面に蹴りを入れたでしょ?」
「ん?ああ、そんなことも・・・・って、それがどうかしたのか?」
そんなことって・・・・・ま、それはともかく。
いったん躊躇し、あたしは口を開いた。


「で、あんたの顔をセリスが自分の顔の近くに引き寄せたとき・・・・
セリスがあんたに何て言ったのかなってね。」


すると・・・・・
一瞬驚いたようにガウリイは目を見開き、
「・・・・・・・お前、よくわかったなぁ。」
感心したように言った。
「ま、なんとなく、ね・・・・・」
そう・・・・セリスが最初にガウリイの顔面に蹴りを入れたあとにガウリイを自分のもとに引き寄せたとき、セリスがガウリイに何か言ったように見えたのだ。
むろん、ゼルやアメリアは気づいていないらしいが。
このリナ=インバースをなめてもらっちゃ困る。
「・・・・・・名前を呼ぶな、ってな。」
ガウリイは苦笑しながらつぶやいた。
そして人差し指でぽりぽりと頬をかきつつ
「ま、あいつのことだからああいう態度をとっててもオレ達をややこしいことに巻き込みたくなかったんだろうな・・・・・
ったく、一人で何でも抱え込むのは相変わらずのようだな・・・・・」
どこか懐かしむように、それでいて瞳に僅かな陰りを見せて・・・
半ば独り言のように言う。



ちくんっ



ん・・・・?まただ・・・・・・・
昼に感じたのと同じ、何かもやもやした気持ちがあたしの中で巻きおこる。
これは一体・・・・・・・
それをとりはらうかのように努めて明るい口調であたしはからかうように
「クラゲ頭のガウリイのくせしてやけにセリスのことは覚えてるじゃないの?
もしや・・・・・明日は雨のかわりに大量のくらげが降るとか!?」
「をい・・・・」
なにやらじと目であたしを見返すガウリイ。
あたしはなんとなく居心地が悪くてすばやくイスから床に降り立ち
「ま、あたしも部屋に帰るわ。じゃ、おやすみ。」
早口で言い、ドアのある方に歩いて行きノブに手をかけ・・・・
・・・って、ん?
「うひゃっっ!」

がたがたんっ!

おひっ・・・・・・
あたしがドアノブをひくと同時にアメリアが部屋の中に転がり込んできた。
「あ、あんたねぇ・・・・」
「や、その、えっと。そう!リナさんを待ってたんです!ええ、そうです!」
ひきつったあたしの問いかけに、あははははなどと笑いながらアメリアが言うがさっき一度使用済みのコップがきっちしアメリアの右手の中にあったりする。
ちなみにゼルは、またもやアメリアに引き連れられたらしくドアのすぐ隣の壁に寄りかかり、小さく溜息をついている。
こ、こりない奴ら・・・・・・
ああ・・・・・なんかほんっとに疲れてきたぞ・・・・・・・









――― 何!?

あたしは何か胸騒ぎを感じ取り、慌ててベッドの上に身を起こす。
今のは一体・・・・?
まだ夜中らしく、暗く静寂が支配する中――
周囲の様子を警戒しつつ、あたしは枕元のショート・ソードに手を伸ばした。
とその時。


どぉぉうんっ!!


いきなりの衝撃と爆発音があたし達の部屋全体を揺るがした。
衝撃と音の大きさからしてすぐ近くのようである。
あたしはベッドから飛び降り、パジャマの上から素早くマントを羽織った。
「ん〜・・・・りなさぁ〜ん・・・・それぐらいにしといてくださいよぉ・・・・・
ああああああああ、街がぁ・・・・クレーターがぁ・・・・・・んむぅ・・・・・」
この騒ぎが起きてもなお、何やらひっかかる寝言を言ってるアメリアはとりあえず無視!
あたしは勢いよく窓を開け放った。



するとそこに――― 奴はいた。



月の光に照らされる長い、2つに緩く束ねられた金髪がゆったりとした漆黒の ローブに映える・・・・
悠然と虚空に浮かぶさまがいかにも神秘的とも言える雰囲気をかもしだしている。
しかし―― その顔にそなわる一対の、冷たさ以外は何も感じ取れないような深いアイスブルーの目が雰囲気をぶちこわしにしている。
その男は鋭い視線を一点に向けたまま・・・・・・
って、隣の部屋!?
あたしが慌てて隣の部屋の方に視線を向けると――

げっ!?

夜空に浮かぶ男を見ていて今まで気づかなかったのだが爆発が起こったのは
どうやらガウリイ達のへやだったらしい。
その証拠と言わんばかりに見事に隣の部屋の壁が吹っ飛ばされおっきな穴があいている。
状況からすると、むろん宙に浮かぶ奴の仕業だろうが・・・・
ともかく、あたしは窓枠に足をかけレビテーションの呪文を口早に唱えだす。
「そこの者。一緒に来てもらおう・・・・嫌だというなら、力づくでも来てもらうが。」
能面を思わせる無表情な顔のまま淡々とした口調で男は視線の先を指さす。
って、壁に大穴開けた時点ですでに力づくだろーが!?
つっこんでみたい気もしたけど、呪文詠唱の途中だしっと・・・・
「レビテー・・・」
「あら?もしかしてあたしの部屋と間違えたとか?・・・・だとしたら無粋な奴ねぇ。」
あたしの声にかさなり澄んだ女の声が聞こえた。
思わず声のした方に目を向けると、その声の主――
むろん、セリスはいつの間に登ったのやら宿の屋根の上に腕を組んでたたずみ挑戦的な目つきで男を見ている。
「デートのお誘いならまた今度にしてくれる?睡眠不足って次の日すっごくだるいのよね。」
なにやらどうでもいいような文に脈絡のないことをさらっというセリス。
男はガウリイ達の部屋からセリスに視線を移し、微かに冷たい笑みを浮かべ・・・



ぞくっっ―――――



「なっ!?」
男が放った殺気に思わず声を上げるあたし。
セリスに向けて放たれている殺気であるにもかかわらず、あたしにまですごい
プレッシャーが襲いかかる。
こ、こいつは一体・・・・・!?
一筋の冷たい汗があたしのほおを伝う。
「で?何のつもり?私に用があるんでしょ?」
そんな殺気もどこ吹く風といった感じでセリスは男に問う。
しかし答えはまた別のところから返ってきた。




「いや、君にも用があると言ったらあるんだけどね。今日はどっちかというとそこの金髪の男に、かな?」



やたらときざったらしい言い回しと共に突如、金髪の男の隣にもう1つの人影が姿を現した―――





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