過去の迷宮
― 第3話 ―

作:桐馬さん

なるべく人気のないところで・・・と言う事で、今、あたし達は裏街道にいる。
もう夕暮れ時に近い時間ということもあり薄暗くなりかけて、なかなか雰囲気 というもんができている。
ゼルガディス以外は別に宿屋で待っていても良かったのだがあたしとしてもセリスの腕前がどれほどのものか気にならなかったわけでもない。
「さて、と・・・んじゃはじめましょーか♪」
「ああ・・・」
まるで「ちょいとそこまで♪」と言った感じのセリスの軽い呼びかけに応じ、ゼルはスラリと剣を抜いた。
そしてセリスは一言、何やら思い出したように言った。
「あ、言っとくけど。剣だけね、使うのは。」
「もちろんだ。」
セリスも背負ったバスターソードを抜く。やはり彼女の身長と同じくらいのごついバスターソードは彼女には不似合いの大きさである。
あたし達は邪魔にならぬよう2,3歩さがった。
表街道の方からかすかなざわめきが風に乗って聞こえてくる。

−先に動いたのはゼルだった。

地を蹴ると同時にセリスに向かって気を放つ。
一方セリスは笑みすら浮かべ構える様子も見せていない。
おい!?何考えてる!?
これにはゼルガディスの方がわずかに同様を見せるが、かまわず突き進む。
そしてゼルの剣がセリスの右肩を薙ぐ

と思いきや。

セリスの水晶のイヤリングが微かに揺れ、そして・・・
速い!?
ゼルの剣がとらえたのは空のみで、いつの間にかセリスはゼルの背後にまわってたりする。
正直、あたしはセリスの動きが見切れなかった。
・・・・・・・・おそらくゼルガディスもそうだろう。
「ちっ・・・!」
舌打ちをしながら慌てて前に飛び退くゼルガディス。
しかしセリスは仕掛ける様子もなく、いまだにかまえず右手に剣をぶら下げた
状態でどこかあざけるように言った。
「もぉちょっと手加減した方がいいかしら?」
「ぬかせっ!!」
再度セリスに向かいゼルが疾る。
「んじゃ、ちょっとだけ遊んであげる。」
にっと笑い、初めてセリスが剣を構えた。だがそれでも剣を持つ手は右手だけである。

ぎぃんっっ!

ゼルガディスのくり出す斬撃をセリスはいともあっさり受け流す。
「ん〜、惜しいわ、ゼルちゃん♪」
全然惜しくなさそうな口調でセリスはからかうように言う。
ゼルは更に一撃。しかしセリスはへーぜんとかわす。
幾度となく繰り出されるゼルの剣技。
そう、セリスはまだ1撃も自分から攻撃を仕掛けていない
・・・・・ただ受け流しているだけ。
さすがのゼルにも焦りが見え始め、なおもセリスに斬りつける。

・・・・・・・・・・・・・・・・冗談じゃないっ

ゼルの腕が立つことくらい今まで旅をしていて見てきたから、あたしはよく知ってる。
そう・・・セリスがあまりにも強すぎるのだ。
しかもセリスの様子から見ると本人は実力を出しちゃいない。
本人の言うとおり遊んでいるのだろう。
あたしは内心舌を巻いた。
・・・・・・・・しかもやたらとゼルを挑発するようなことばっかし言ってるし。
見るとアメリアも信じられないという風に目を見開いてその光景を見ている。
「あいつ、前より強くなってるなぁ・・・」
あごに手をおきガウリイが何やら感心したように言う。
「前よりもって、あんた・・・・今がこんなんじゃ前から充分強いんじゃ・・・・」

っきぃぃぃぃぃいいいいんっっ


ひときわ大きな剣のはじかれる音に、あたしは2人に視線を戻す。

・・・・・・どうやら勝負がついたようだ。

目の前にはあたしが思った通りの情景が広がっていた。
すなわち・・・・
剣をはじき飛ばされたらしくしりもちをついたゼルの姿と、そのゼルに剣を突きつけるセリスの姿だった。
そう、全てがあっと言う間だった。
ゼルはわずかに肩で息をしているが、セリスはあんなごついバスターソードを扱いながらも息を切らすこともなく勝負がついたのだ。
セリスは先程の魔族との戦いの時と同じようにゆっくりと背中に背負った鞘にバスターソードをおさめ、地面に座り込むゼルガディスに手を貸しつつ言った。
「いやぁ、まだまだってところかしらね〜♪ま、決して弱くはなかったけど。」
あれだけの実力を見せておいて誠に説得力のないセリフである。
あたし達がかけよるとセリスの手を借り立ち上がったゼルが苦笑していった。
「あんまりフォローになってないな。」
そのたうり。
「確かに、お手合わせどころじゃないな・・・」
どこか参ったという様な口振りでゼルがはいた。
「まあ、また相手になってあげてもいいわよ?
ま、その時は私の理想の王子様(はあと)になってからね。」
「へ?」
「は?」
「な゛!?」
あたし、ゼル、アメリアの順にそれぞれ声をあげた。
お、おうぢさまて・・・・・・
一瞬あたしの脳裏をどこぞの自称平和主義者の姿がよぎったのは置いておくとして。
そんなあたし達の反応を気にする風もなくうっとりとした口調でセリスは続ける。
「やっぱし理想の王子様って言ったら『私より強い』ってぇのが絶対条件よね♪
私、それを見つける為に旅してんのよ。ま、今んところ見あたらないけど・・・・」
当たり前だ・・・・
んな、セリスみたく剣の腕が立つ人物がこの世にぽこぽこいちゃあ、それこそある意味怖い世の中である。
って、それ以前に理想の王子様で「白馬の」じゃなく「あたしより強い」って持ち出す時点で充分問題ありかと思うが。
「あ、そういう意味だったんですか。なるほど。」
何やら安心するアメリア。
や、どーでもいいけど納得するなよ・・・
「そーいえば前もそんな事言ってたなぁ。」
うや?またまた珍しく昔のことを覚えてるっぽいガウリイ。
・・・・・天変地異のまえぶれってやつか・・・・・・・?
セリスはそんなガウリイに対し、ごきげんな口調で言う。

「そぉよー♪大丈夫、あんたも候補に入れてあるから。」

でっ!?
がしゃんっ
セリスに飛ばされた剣を拾ったゼルが、再びそれを地面に落とし、激しく音を立てる。
「ガウリイさん!!どーゆーことなんです!?」
いつの間にかガウリイの目前に詰め寄りアメリアが声を荒げる。
しかしガウリイは訳の分からないと言った様子で
「え・・・・?や、何がだ?」
・・・・やっぱしくらげだわ、こいつ・・・・・・
「とぼけたって無駄です!さっきからおかしいと思ったら・・・・
やっぱりそぉゆう関係だったんですね!?」
「いや、だから・・・何だって・・・・?」
ガウリイは困惑したようにセリスに視線で助けを求める。
セリスはそんなガウリイを見て、にやりと意地悪そうに笑った。
あたしにはその笑いがこう意味しているように見えた。
すなわち・・・・・・・・


「助けて欲しいなら、あとでなんかおごれっ」と。


どうやらそう言う感じの意図だったらしくガウリイはこくこくとうなずく。
そんなガウリイの反応に満足そうな浮かべあたし達に視線を戻し
「ま、今のは冗談よ。だってガウリイ、私より強くないもん。」
さらっとセリスが言ってのける。
って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ぬわんですってぇえぇええええぇええええ!!!!!!!!!!!!」

更なる爆弾発言に対するやたらとでかいあたしの驚愕の叫びが、裏街道にこだました。



「で?・・・・・さっきの話の続きだけど・・・・・・・・・・・」
ゼルとセリスの勝負が終わりなんやかんやと言ってると、とっぷり日も暮れてしまったため地面にひっくり返っているアメリアと何やらぶつぶつと言ってる
ゼルガディスをなんとかひきずって再びさっきの宿屋に戻ったのだ。
そして料理の注文を終え、さっきの問題発言について口を開いたあたしに
「ああ、ガウリイより私が強いって?本当だけど?
現にガウリイは私に勝てたことがないもの。・・・・・・・・・・・・今のところは、ね。」
セリスは先程ゼルへ向けたのと同じ不敵な笑みをガウリイに向けて意味ありげな言い方をする。
や・・・・・・・・・そんなあっさり言われても・・・・
「強い、とは思ったけど・・・・まさかこれほどまでとはね・・・・・・・・」
あたしはなんとか動揺を隠そうとしながら言う。
ちなみにアメリアは机に突っ伏しており
「どおりでな・・・旦那にかなわない俺が、お前にかなうはずもない・・・・」
ゼルも平然を装おうとしているらしいのだが、コーヒーを飲む手が思いっきし震えてたりする。
しかし・・・・ゼルの言うとおり、どおりでゼルがかなわないはずである・・・・
ガウリイですら勝てないような力量だとは・・・・・
「でしょ?んでもってこんなに美人で華奢で剣も使えて、ちょびーっとだけでも魔法も使えるとなれば!魔族じゃなくてもほっておかないでしょ?」
・・・・・前半部分はともかくとして。
どうやら本当に本人の言うとおり、いや、あたしの予想を遙かに上まわる使い手らしい。
「ま、今まで出会った人の中で一人だけ、私と決着のついてない人がいるわ。
あいにく『王子様』じゃあなかったけど。」
「なんだって!?」
これにはさすがのガウリイも驚きの声をあげる。
ちなみに、その隣でゼルがむせているのは言うまでもない。
「その人って一体誰なの?」
ちょっぴし聞いてみたくないような気もしたが、あたしは尋ねた。
「ん〜、それは秘密♪」
何やらやたらと嬉しそうにセリスはどこぞで聞いた事のあるようなセリフまわしを言う。
そしてそのにこにこしたままでぽんっと手を打ちセリスは言った。
「ってな訳で!しばらくあんた達と旅するから。そこんとこよろしく。」
「ってな訳でって・・・・・・どこにその言葉が続いてんのよ・・・・・・・・・」
全然つながりのないセリスの発言に思わずあたしはつっこむ。
まー、そうなるかなぁとはうすうす思ってたけど・・・・
でも昼間の魔族のことと言いこの人と言い・・・・
・・・・・何やらまたやっかいなことに巻き込まれているようである。
あたしはこれからのことを思い、ひそかに溜息をついた。




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