過去の迷宮
― 第10話 ―

作:桐馬さん

「うう・・・なんでこの私が二度もスリッパではたかれなきゃなんないんだか・・・」

これまた瞬時に立ち直ったものの、目にうっすら涙を浮かべて恨めしそうに言う。
まあ、自業自得だと思うのよね、うん。
そしてじと目でこちらを見つつ
「って言うか、私から見ればリナの方が物騒に見えるんだけど」
「おお!その気持ち、オレもよぉぉぉっくわかる!」
やたらと力を込めて納得するガウリイ。
こらガウリイ。
そんなとこだけ力いっぱい同意するんぢゃない!
あたしの心中を知ってか知らでか。
セリスはガウリイの反応を見るなりぱぁっと顔を輝かせ
「わかる?やっぱり?リナの方が何十倍も物騒よね?」
「をい・・・」
「おう!ところ構わず魔法使いまくったりするときなんてすごいのなんの!
オレなんかしょっちゅう吹き飛ばされてるぞ!」
そこでいばるなガウリイ。
何やら通じ合ったものを見つけたように更に話を続ける二人。
「オレも慣れるまで苦労したからなぁ・・・」
「あんたも大変だったのねぇ・・・」
って・・・そこまでしみじみと言われるとすんげぇ腹立つぞ、おい。
自分のこめかみがひきつる音を聞きつつ
「あ、あのねぇ・・・」

みしりっ

軋んだ音が立つ。
見るといきなり振り下ろされたゼルのこぶしがナイトテーブルにめり込んでいる。
ゼルの顔色は元から青っぽいのに加えて何やら赤黒く・・・
いや、紫色になり。
めりこんだこぶしはナイトテーブルに穴を開けんばかりに力が込められている。
さすがにガウリイ達も何事かと会話を止めゼルガディスに視線を向ける。

そのゼルはと言うと。

何かに耐えるようにゆっくりと時間をかけてテーブルの上から持ち上げた握りこぶしをぶるぶる震わせている。
そして顔はうつむかせたまま地をはうような声でこう言った。

「クレアバイブルの話をする「今」とは一体いつなんだ・・・?」
『あっ』
あたしとセリスの声が見事なくらいに重なった。



セリスはこほんっとわざとらしい咳払いを一つ。

「えー、あー、そうそう。そうだったわね、うん」
何やら取り繕うように「そうそう」とか一人で言っている。
おい。もしかして・・・
「ねえ、セリス・・・」
「ん?何よ?」
あたしは彼女にじと目を向け
「あんた。ゼルをからかってるだけでしょ?」
「あ、わかった?」
言って悪戯っぽい笑みを浮かべるセリス。
やっぱり・・・
今にもつかみかかりそうな勢いのゼルを押しとどめるアメリア。
と、その様子を見て楽しそうにしているセリスを眺めながら
あたしは溜息一つ。
「で?実際のところ、そのクレアバイブルに書いてある内容は何なの?
そこまでわざとらしく話を逸らしてるって事は本当は手元にないか・・・」



そこでいったん言葉を切り。
少し力を込めて。



「あるいは何か重要な事が書き記されてるってことなのね?」



確認の意を込めた一言。
その一言にアメリアに押さえられていたゼルも動きを止める。

セリスはと言うと。

怯んだ様子も見せずただ今までにもよく見せている、読みとれない笑みを浮かべただけであった。
これであたしの推測が事実であったとするならば。
彼女、なかなかの役者ものである。
まあ当たらずとも遠からずと言ったところであろうか?
いずれにしても一筋縄では行かないようであるが。

さて・・・
どういう反応を見せるか。

探るような視線を向ける。

が。
意外なことにセリスは軽く肩をすくめ
「残念だけど。クレアバイブルに大した事は記されていないわ」
苦笑を漏らす。
「そう。重要な情報は何も、ね・・・」
ぽつりと付け加えるように言った。
あくまでいつもの軽い口調で。
だがあたしの目には少し違う様子に映った。
あえて言うなら・・・自嘲気味に見えたとでも言うのだろうか?

だとしたら何故?

あたしの思考もつゆ知らず。
さらっと流した様子で
「仕方ないわね・・・」
とこれまたわざとらしく呟き。
何やら懐に手を入れ探り出す。



たんっ



ナイトテーブルに軽く手をついた音が妙に響いた気がした。
あたしは思わず全身を緊張させる。
まさか・・・
彼女の右手の手のひらの下に。
ひどく古びた感じの羊皮紙が3枚広げられている。

「そう――」

小さく息を吐き。
セリスは少しばかり緊張した声で呟く。



「これがクレアバイブルの写本よ」



静かだがよく通る声であった。



「これが・・・」



その言葉にあたし達は思わず言葉を失ったのだった――







「と、驚くとでも思ったの?あんたは?」

がたたんっっ

おや?
一度驚いた様子を見せた後、すぐさま入れたあたしのつっこみになぜか椅子から転げ落ちそうになるセリス。
「って、ちょ、ちょっと待った!なんで驚かないのよ!?」
なんとか体勢を立て直しつつ。
さっきまでの落ち着いた様子はどこへやら。
思いっきり狼狽えた声を出す。
あたしはベッドの上に腰かけたまま、テーブルの上に広げられている内の一枚を手に取る。
そしてその紙をひらひらと振りつつ呆れた口調で
「当たり前じゃない。んな大事なもんを堂々と出すわけないでしょーが。
どうせ偽物かなんかじゃないの?」
「うおっ!?ちょっとっ!大切に扱ってよね!って、見せるなんて
まだ言ってないでしょ!?」
彼女は血相を変えてあたしの手からそのクレアバイブルだと言い張るものを
ひったくる。
「にせものにしちゃあえらい必死ね」
「本物よ!」
セリスは声を張り上げる。
んなこと言われてもなぁ・・・
全く信じないと言うわけではないのだが、あれだけすっとぼけてたのにいきなり本物だと言われても・・・
「怪しいですよねぇ・・・」
「たしかに」
これまたまるっきり信じてないような口調で呟いたアメリアにゼルガディスが同意する。
「そこまで言うなら三流詐欺師に騙されたふりをすると思ってちょっとの間なら信じてあげないこともないけど・・・」
言うあたしにきっ!と鋭い視線を向け
「って、全っ然!これっぽっちも信じてないわね!?その口調は!?」
「いや。だってうそくさいし」
「何ですってぇ?」
あたしの言葉にセリスは低く唸るような声を出し、ばんっと勢いよくナイトテーブルに身を乗り出したかと思うと。



「じゃああんた達は人間と魔の融合について知りたくないの!?」



―――しんっ



半ば怒鳴り声と化したセリスの発言に思わず黙る。
まさか・・・
静かになったあたしを見て、セリスは大きく息をつく。
彼女と同じく真剣な眼差しで見つめ返し




「・・・よくそこまで嘘を考えてきたわね。たいしたものよ」
「うがああああああっ!!」
あたしの冷静な一言に。
なぜかダガーを振り回して暴れ出したセリスを落ち着けるのに苦労した、
と言う事だけは言っておこう。





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