陽炎
〜ガウリイサイド〜

作:美桜さん


 どうして、その言葉を口にしてしまったんだろうか。
 どうして、心を揺らしながらも、自分の決めたことに従ってしまったんだろうか。
 今更、そう考えたところで元に戻るわけでもないのに、 オレは幾度と無く、自責の念とも後悔とも取れる思いに縛られ、囚われる。

 あの少女に出会う前に戻っただけだと、なんども心に言い聞かせて。
けれどもそれだけで納得ができるほど、あの少女は小さな存在ではなく。

 まるで太陽のように明るい笑みを浮かべて笑う少女。
 行動力は人並みはずれ、その魔力も、才能も、 誰もがうらやむ程のものを持っていて。
 けれどもそれをひけらかすわけでもなく、 だからこそ、自分を常に磨き、更に上を目指し。
 自分の預かり知らぬところで騒動に巻き込まれて、 その騒動を跳ね返すほどの魅力と力を兼ね備えた、小さな少女。

 もし、もう少しの時が、オレとあの少女の元にあったのなら。
オレは一生許されないようなそんな罪を犯してしまっただろう。
だから、オレは別れを選び……けれども、想いを告げずにいられなかった。

『……お前さんを……愛してるから……』

 ずっと傍に居たかった。
 傍に居て、その少女が大人になるところを 一番近くの、特等席で見守っていたかった。
 叶う事ならば、自らの手で、少女を大人へと変えたかった。

 何故、早く想いを告げなかったのだろうか。
『失くすのが嫌だったから』
 では、何故、オレは一人で居るんだ?
『嫌われたくなかったから』
 リナが、オレを愛していると、そう言ってくれたのにか?
『一度決めた事は、そう簡単に変えられないから』
 その決意が、リナを苦しめ、泣かせる結果をもたらしたとしても……?
『……』

 答えなんて、出るはずがない。
 あの時の決意が間違えていたとしても、 決してあの時に戻ってやりなおす事など、できやしないのだから。
 一人で旅をすることが、こんなに寂しいことだったなんて、 隣で笑ってくれる少女が居ないだけで、こんなに落ちつかないなんて、 そんなこと、思いもしなかった。
 お前さんを傷つけてまでも、オレが手に入れたかったものは 一体、何だったんだろうか……?

 欲しかったものは、手に入れたかったものは、 お前さんの全て……ただ、それだけだったのに……


 残暑の熱が、地面を焦がし、陽炎を生み出す。
 その揺らめく中に、愛しい者の残像を思い、そっと手を伸ばし…… 虚しく空を切るその手が、やけに悲しくて、苦しかった。







Fin.


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