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「佐川も見る目ないな。」 あたしの火傷に薬を塗りながら、笑いを堪えるような声音で言った。 「三年も同じフロアにいて、こんなに気が強いのに気が付かないなんてな。」 「・・・あたしの何処が、気が強いのよ・・・。」 疲れて動く気にもなれないあたしは、それでも反論してみる。 「強いだろ? 映画の時も、今日会社でも。 ・ ・・ま、俺は気の強い女は、嫌いじゃないぜ。」 言いながら、余計な所まで伸びた手を叩くと、案外素直に諦めた。 流石にこれ以上は、あたしの体力が持たない・・・。 「・・・で? そろそろ合鍵をくれる気になった?」 この前、やっぱり部屋でシタ時。帰る時にあたしを起こすのが、大変だったらしい。 それから何回か、合鍵が欲しいと言われている。・・・が。 「あたし、実家にも合鍵渡してるからダメ。 それに、他の女性たちにも貰ってるんでしょ? だったら、あたしの部屋の鍵くらいなくても・・・。」 「ヤキモチ?」 「そんなんじゃないわよ!」 ドキッとした。でも、そんなこと、言える訳がない。 「大体、お母さんと鉢合わせでもしたらどうするつもり?」 「ここから帰る時以外、使わないから平気さ。」 安積さんは、泊まる事は出来ないと言った。 他の女性の所にも、泊まったことは無い、と。 その言葉に、一線を引かれて牽制されているような気がする。 だから、それ以上踏み込まないように、自分に言い聞かせる。 なのにこの男性は、あたしの努力を無駄にする・・・。 「なあ、ダメか?」 「・・・明日、作ってくるわ・・・。」 「じゃ、一緒に行こう。迎えに来るよ。」 まただ。近づけないようにしているくせに、自分は寄って来る。 それとも、『大人の付き合い』って、こういう事なのかな・・・。 「あれ? 林さん。」 「・・・佐川さん。」 鍵屋さんから出た所で、佐川さんに出くわしてしまった。 「それ、鍵?」 「あー・・・。失くしちゃって。」 慌てて鞄に仕舞ったのに、見られてしまったらしい。 「やっぱり、彼氏が出来たの?」 「そういう訳じゃないんですけど・・・。」 路肩に停まっている車から、安積さんが見ているのが分かる。 その車に乗り込むことも出来なくて、あたしは佐川さんを振り切る為に歩き出した。 「じゃ、また。月曜日に。」 早く離れたいのに、佐川さんは付けてきた。 「ねえ、これから暇だったら、お茶でも飲まない? オゴるよ?」 「奢られるのも嫌いですし、人と待ち合わせていますから。」 泣きたい気分で断るも、佐川さんは気にしていない様子。 ・・・やっぱり、営業の人って押しが強いんだ、と、頭の何処かが考える。 「林さん。」 「佐川さん、いい加減にして下さい。 あたし、急いでるんです。 用があるなら、月曜日に会社で話して下さい!」 言い切って、呆然としているのを残し、歩き出す。 角を曲がり、追い着いた安積さんの車に乗り込んだ。 「・・・はあー・・・。」 思わず溜め息。 「何処かでお茶でも飲むか?」 「うん、ありがとう。」 シートに体を沈めると、あたしは目を瞑った。 ・・・人の話を聞かない人との会話は疲れるわ・・・。 「着いたぞ。」 ずっと閉じたままだった目を開けると、薄暗い駐車場。 「ここは・・・?」 「ラブホテル。お茶も飲めるし、話も出来る。」 「そうじゃなくて、なんで?」 彼は何も言わないで先に行ってしまう。 流石にこんな所で一人残されるのも嫌なので、あたしも慌てて車を降りた。 無言で先を歩く安積さんに着いて行くと、部屋に入ってあたしを振り返った。 「風呂。入って来い。」 何か怖い雰囲気で、安積さんはあたしをバスルームに押し込めた。 何が起こっているのか、分からない。 分からないけど、安積さんが怖い。 途方にくれているとガチャリとドアが開き、安積さんが顔を出した。 「安積さ・・。」 「まだ入っていなかったのか。 一人で入れないなら、俺が洗ってやるよ。」 言うなり、乱暴に服を脱がされて、頭からシャワーを掛けられた。 何度も何度も往復するスポンジに、体が痛くなりかけて頃、安積さんがポツリと呟いた。 「・・・あいつの・・・煙草の臭いなんか、させてんなよ・・・。」 何で? 何でそんな事言うの? あたしはその他大勢なんでしょ? 他にも彼女がたくさんいるんでしょ? 言いたくても言えなくて、シャワーに紛れて少しだけ泣いた・・・。 |