Je te veux
―9―


作:マックさん♪


「佐川も見る目ないな。」
あたしの火傷に薬を塗りながら、笑いを堪えるような声音で言った。
「三年も同じフロアにいて、こんなに気が強いのに気が付かないなんてな。」
「・・・あたしの何処が、気が強いのよ・・・。」
疲れて動く気にもなれないあたしは、それでも反論してみる。
「強いだろ? 映画の時も、今日会社でも。
・ ・・ま、俺は気の強い女は、嫌いじゃないぜ。」
言いながら、余計な所まで伸びた手を叩くと、案外素直に諦めた。
流石にこれ以上は、あたしの体力が持たない・・・。
「・・・で? そろそろ合鍵をくれる気になった?」
この前、やっぱり部屋でシタ時。帰る時にあたしを起こすのが、大変だったらしい。
それから何回か、合鍵が欲しいと言われている。・・・が。
「あたし、実家にも合鍵渡してるからダメ。
 それに、他の女性たちにも貰ってるんでしょ?
 だったら、あたしの部屋の鍵くらいなくても・・・。」
「ヤキモチ?」
「そんなんじゃないわよ!」
ドキッとした。でも、そんなこと、言える訳がない。
「大体、お母さんと鉢合わせでもしたらどうするつもり?」
「ここから帰る時以外、使わないから平気さ。」
安積さんは、泊まる事は出来ないと言った。
他の女性の所にも、泊まったことは無い、と。
その言葉に、一線を引かれて牽制されているような気がする。
だから、それ以上踏み込まないように、自分に言い聞かせる。
なのにこの男性は、あたしの努力を無駄にする・・・。
「なあ、ダメか?」
「・・・明日、作ってくるわ・・・。」
「じゃ、一緒に行こう。迎えに来るよ。」
まただ。近づけないようにしているくせに、自分は寄って来る。
それとも、『大人の付き合い』って、こういう事なのかな・・・。

 「あれ? 林さん。」
「・・・佐川さん。」
 鍵屋さんから出た所で、佐川さんに出くわしてしまった。
「それ、鍵?」
「あー・・・。失くしちゃって。」
慌てて鞄に仕舞ったのに、見られてしまったらしい。
「やっぱり、彼氏が出来たの?」
「そういう訳じゃないんですけど・・・。」
路肩に停まっている車から、安積さんが見ているのが分かる。
その車に乗り込むことも出来なくて、あたしは佐川さんを振り切る為に歩き出した。
「じゃ、また。月曜日に。」
早く離れたいのに、佐川さんは付けてきた。
「ねえ、これから暇だったら、お茶でも飲まない? オゴるよ?」
「奢られるのも嫌いですし、人と待ち合わせていますから。」
泣きたい気分で断るも、佐川さんは気にしていない様子。
・・・やっぱり、営業の人って押しが強いんだ、と、頭の何処かが考える。
「林さん。」
「佐川さん、いい加減にして下さい。
 あたし、急いでるんです。
 用があるなら、月曜日に会社で話して下さい!」
言い切って、呆然としているのを残し、歩き出す。
角を曲がり、追い着いた安積さんの車に乗り込んだ。
「・・・はあー・・・。」
思わず溜め息。
「何処かでお茶でも飲むか?」
「うん、ありがとう。」
シートに体を沈めると、あたしは目を瞑った。
・・・人の話を聞かない人との会話は疲れるわ・・・。

 「着いたぞ。」
ずっと閉じたままだった目を開けると、薄暗い駐車場。
「ここは・・・?」
「ラブホテル。お茶も飲めるし、話も出来る。」
「そうじゃなくて、なんで?」
彼は何も言わないで先に行ってしまう。
流石にこんな所で一人残されるのも嫌なので、あたしも慌てて車を降りた。
無言で先を歩く安積さんに着いて行くと、部屋に入ってあたしを振り返った。
「風呂。入って来い。」
何か怖い雰囲気で、安積さんはあたしをバスルームに押し込めた。
何が起こっているのか、分からない。
分からないけど、安積さんが怖い。
途方にくれているとガチャリとドアが開き、安積さんが顔を出した。
「安積さ・・。」
「まだ入っていなかったのか。
 一人で入れないなら、俺が洗ってやるよ。」
言うなり、乱暴に服を脱がされて、頭からシャワーを掛けられた。
何度も何度も往復するスポンジに、体が痛くなりかけて頃、安積さんがポツリと呟いた。
「・・・あいつの・・・煙草の臭いなんか、させてんなよ・・・。」


 何で? 何でそんな事言うの?
あたしはその他大勢なんでしょ? 他にも彼女がたくさんいるんでしょ?
 言いたくても言えなくて、シャワーに紛れて少しだけ泣いた・・・。






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