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二月ももうすぐ終わりになる頃、新人が研修にやって来た。 営業の男の子と、女の子。 この女の子は、ここに居ついてくれるだろうか。 今までも、年に三回は女の子が来たが、もって一ヶ月。 話を聞くと、あたしの前の人たちもそうだったらしい。 三年も続いているのはあたしだけ、と言われた。 「どうぞ、よろしくお願いします。」 頭を下げる新人に、あたしは期待と不安半々で返事をした。 「こちらこそ、よろしくね。」 短大卒の彼女は、有路仁美といった。 二十歳になったばかりの、元気いっぱいの彼女は、一週間でここの仕事に不満を持ったようだ。 「林さん、よく嫌になりませんね。」 「営業で大変な人たちのサポートが、あたしたちの仕事なのよ。」 「それにしても、遣り甲斐がないっていうか・・・。 冗談じゃなくて、お茶汲みしかしていないじゃないですか。」 あたしは苦笑するしかなかった。 彼女の言う通り、あたしたちの仕事はお茶汲みが主な内容だ。 それから毎日の集計を入力したり、注文書を纏めたり・・・。 彼女が言ったように、つまらないと思う人もいるだろう。 でも、あたしは25人分のお茶汲みが好きだ。 それぞれの好みを覚え、カップを覚え、適温で届ける。 元気で出掛けられるように、疲れた体が休るように、と。 「やっぱり、あたしには向かないみたいです、この仕事。 課長に配属替え、お願いしてみます。」 この娘も辞めるのかな・・・。 そう思いながら、帰ってきた人たちに配るコーヒーを淹れる。 ブツブツ言いながらも彼女は、コーヒーを持って行った。 残り18人分のカップを持ち、あたしが入ろうとした時。 「やだ〜、ありがとうございます。」 出て来た彼女とぶつかってしまった。 咄嗟にお盆を自分に向けて、彼女にカップが落ちないようにしたつもりだったが、量が量なので少し被ってしまったらしい。 「キャー!」 悲鳴が響いて、皆がわらわらと出て来る。 「熱いー!」 左手の甲を抑えて泣く彼女を連れて、何人かが医務室へ向かった。 あたしは割れてカップを拾いながら、胸元から足へ、前面のほとんどがコーヒーを被っていることに気が付いた。 特に胸元と膝のちょっと上の辺りがチリチリする。 でも、ここを片付けないと・・・。 「どうした?」 顔を上げると、安積さんが居た。 「・・・コーヒー、落としちゃって・・・。」 「被ってるじゃないか!」 制服のベストに手を伸ばして、慌ててボタンを外そうとする。 「平気ですから!」 濡れて、外しにくいベストから、彼の手を退ける。 「大丈夫です。・・・ここ、お願いできますか?」 給湯室で、絞ったタオルを胸元に当てて、ゆっくりとベストを脱いだ。 ブラウスも少しはだけ、ストッキングも脱いだ。 赤くなってチリチリするものの、水膨れは免れたようで、取り合えずホッとする。 温くなったタオルを、もう一度絞っていると、有路さんが戻って来た。 左手の包帯が痛々しい。 「大丈夫だった?」 「はい、でも。痛いので今日はもう帰ります。課長もいいと言っているので・・・。」 ピョコンと頭を下げて、彼女は去って行った。 パタパタと足音が遠ざかり、途中で一度止まる。そして再び遠ざかって行く。 と。安積さんが顔を出した。 「どう? ・・・。」 「大丈夫です。」 軽く顔を顰めて上着を脱ぐと、あたしに掛けてくれた。 ・・・よく見ると、あたし、すごい格好・・・。 恥ずかしくて顔を上げられないあたしの手を引いて、安積さんが歩き出した。 「・・・後は清掃の人がやってくれると。・・・医務室、行こうか。」 「安積さん! あたし、大丈夫だから!」 手を振り解こうとするあたしに、安積さんは余計に力を込める。 「・・・大丈夫、大丈夫なんて言ってると、誰も心配してくれなくなるぞ。 少しは頼れよ。」 「誰を?」 つい、っと口から出た言葉に、安積さんは足を止めて振り返る。・・・怒ったような表情で。 「・・・それを俺に言わせたいのか・・・?」 あたしは頭を振って、そして息を吸った。 「本当に、誰に頼っていいか、分からないの。 それに、頼った途端、拒絶されるくらいなら、最初から一人がいい。」 あの、雪の日の電話の彼女たちのように。 口には出さなかったけど、伝わったのか、彼はそこに立ち尽くした。 あたしは無言で上着を返し、一人医務室へと向かった・・・。 あたしはズルイ。 その他大勢で言いといっておきながら、彼女達と同じは嫌だと言う。 本当に、あたしはズルイ女だ・・・。 |