Je te veux
―6―


作:マックさん♪


 電車の時間の関係で、約束の時間より早く着いてしまった。
待ち合わせの喫茶店は、今流行りのカフェだった。
普通のコーヒーはないものの、ミルクやフレーバーは種類が豊富で、 ちょっと面白い所だった。
あたしは飲んだ事のない物を飲んでみようと思って、 キャラメル・フレーバーのカフェ・オ・レを頼んでみた。
・・・次回は別の物を頼もう・・・。そんな味だった。
席に着いて、鞄からナンプレの雑誌を出す。・・・あたしの究極の暇つぶし。
 9×9のマスに、1から9までの数字を縦横、重複しないように入れる。
その中の3×3のマスにも、1から9までの数字を入れる。
そういう簡単なようで、結構頭を使うゲームだ。

 「待った?」
声を掛けられて、ふと顔を上げると、安積さんが向かいの席に座っていた。
「ううん。全然。これ、やってたから。」
本を閉じて、表紙を見せる。安積さんは笑いながら時計を指した。
「遅刻したから、怒ってるかと思ってた。」
「遅れようと思ったわけじゃないでしょ? なら、怒るなんて・・・。」
「でも、映画には間に合わないな。
 次の上映時間まで、どこかで時間を潰すか。」
 結局、駅ビルの中を見て歩いた。
雑貨屋さんや本屋さんで、あたしは少々買い物をした。
安積さんは『買ってやるよ』と言ったのだが、その言葉だけありがたく頂いてお断りした。
自分の買い物は、自分で。
この辺も『可愛くない女』なのかもしれない。
「チケット代、払わせて。」
「俺が誘ったんだから、オゴリでいいんだよ。」
「でも・・・。」
「じゃ、中で食べるポップコーンとコーラ、買って。」
映画館へ入っても、そんな遣り取りをした。
可愛げはないかもしれないが、やっぱりこう言う事は譲れない。
「それだけじゃ、少なすぎる。」
「・・・見終わってからの喫茶店代。」
「・・・分かった。」
ほとんど等価交換みたいな気もするけど、出来れば対等でいたいから。
あたしはポップコーンとコーラ、自分用のコーヒーを持って、安積さんが待つ席へと着いた。

 映画は面白かった。
連続するアクションはドキドキするほどスピード感に溢れ、 その中で出会った男女が協力して事件を解決して、大団円のラストを迎える。
月並みと言えばそれまでだけど、あたしはとても満足した。
座ったままエンドロールを全部見て、そして二人で立ち上がった。
既に人はまばらで、空いた通路をあたしたちは、ゆっくりと歩いた。


 疲れきって、そのまま眠り込んでしまいそうなあたしの背中を、 安積さんはペチペチと叩いて言った。
「送ってくから、寝ないでシャワー浴びて来いよ。」
「んー・・・。」
「ほら。」
腕を引かれて、仕方なく起きる。
まだ慣れない体は、それだけで痛んだ。
顔を顰めたあたしに、安積さんは苦笑した。
その表情は、今日観た映画の主人公と、ちょっと似ていた。
「・・・今日はありがとう。
 久し振りに大きなスクリーンで見られて、楽しかった。」
そう言ったら、一瞬ポカンとした後、嬉しそうに笑った。


 あたしはどうも、的外れな事を言ってしまうらしい。
でも。それでも。
笑ってもらえたなら、嬉しい。






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