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電車の時間の関係で、約束の時間より早く着いてしまった。 待ち合わせの喫茶店は、今流行りのカフェだった。 普通のコーヒーはないものの、ミルクやフレーバーは種類が豊富で、 ちょっと面白い所だった。 あたしは飲んだ事のない物を飲んでみようと思って、 キャラメル・フレーバーのカフェ・オ・レを頼んでみた。 ・・・次回は別の物を頼もう・・・。そんな味だった。 席に着いて、鞄からナンプレの雑誌を出す。・・・あたしの究極の暇つぶし。 9×9のマスに、1から9までの数字を縦横、重複しないように入れる。 その中の3×3のマスにも、1から9までの数字を入れる。 そういう簡単なようで、結構頭を使うゲームだ。 「待った?」 声を掛けられて、ふと顔を上げると、安積さんが向かいの席に座っていた。 「ううん。全然。これ、やってたから。」 本を閉じて、表紙を見せる。安積さんは笑いながら時計を指した。 「遅刻したから、怒ってるかと思ってた。」 「遅れようと思ったわけじゃないでしょ? なら、怒るなんて・・・。」 「でも、映画には間に合わないな。 次の上映時間まで、どこかで時間を潰すか。」 結局、駅ビルの中を見て歩いた。 雑貨屋さんや本屋さんで、あたしは少々買い物をした。 安積さんは『買ってやるよ』と言ったのだが、その言葉だけありがたく頂いてお断りした。 自分の買い物は、自分で。 この辺も『可愛くない女』なのかもしれない。 「チケット代、払わせて。」 「俺が誘ったんだから、オゴリでいいんだよ。」 「でも・・・。」 「じゃ、中で食べるポップコーンとコーラ、買って。」 映画館へ入っても、そんな遣り取りをした。 可愛げはないかもしれないが、やっぱりこう言う事は譲れない。 「それだけじゃ、少なすぎる。」 「・・・見終わってからの喫茶店代。」 「・・・分かった。」 ほとんど等価交換みたいな気もするけど、出来れば対等でいたいから。 あたしはポップコーンとコーラ、自分用のコーヒーを持って、安積さんが待つ席へと着いた。 映画は面白かった。 連続するアクションはドキドキするほどスピード感に溢れ、 その中で出会った男女が協力して事件を解決して、大団円のラストを迎える。 月並みと言えばそれまでだけど、あたしはとても満足した。 座ったままエンドロールを全部見て、そして二人で立ち上がった。 既に人はまばらで、空いた通路をあたしたちは、ゆっくりと歩いた。 疲れきって、そのまま眠り込んでしまいそうなあたしの背中を、 安積さんはペチペチと叩いて言った。 「送ってくから、寝ないでシャワー浴びて来いよ。」 「んー・・・。」 「ほら。」 腕を引かれて、仕方なく起きる。 まだ慣れない体は、それだけで痛んだ。 顔を顰めたあたしに、安積さんは苦笑した。 その表情は、今日観た映画の主人公と、ちょっと似ていた。 「・・・今日はありがとう。 久し振りに大きなスクリーンで見られて、楽しかった。」 そう言ったら、一瞬ポカンとした後、嬉しそうに笑った。 あたしはどうも、的外れな事を言ってしまうらしい。 でも。それでも。 笑ってもらえたなら、嬉しい。 |