Je te veux
―5―


作:マックさん♪


 平日はただの同僚。目が合っても感情を込めない。
それが、あたしたちのルール。
 あたしは、自分にこんな才能があったとは思わなかった。
新しい楽しみに、つい指がリズムを刻む。
「林さん、毎日楽しそうだね。」
同僚の佐川さんが、入力書類のついでに声を掛けていく。
「そう見えますか?」
「うん。彼氏でもできたの?」
「ハズレです。自分の隠れた才能に気が付いたんです。」
佐川さんが笑いながら席に戻る。
・・・傍から見てもあたし、楽しそうに見えるんだ。
またちょっと、嬉しくなった。


 週末。土曜の夜に、安積さんは突然やって来た。
約束をしていた訳ではないのでびっくりしたが、昼間部屋の掃除をしておいて良かったと、 あたしは彼を部屋へ招き入れた。
「・・・何て言うか・・・。」
「何もない部屋でしょ?」
狭い部屋の入り口で、安積さんは立ち尽くしていた。
友達や、たまに来る親にも言われる程、何もない部屋。
ベッドにテーブル、ボックス型本棚とテレビ。
クロゼットの中には、服もバッグを納まってしまう。
 ベッドの上からクッションを幾つか取って、安積さんに渡す。
「あんまり物があるのって、苦手なの。
・・・コーヒー、飲む?」
もう、夜も10時を回っていたので、きっと御飯は食べているのだろう。
彼が頷きつつ腰を降ろしたのを見て、あたしはキッチンへ立った。
玄関に併設されている、小さなキッチン。彼がいるだけでいっぱいの6畳間。
あまりにも平凡で面白みのないこの部屋は、まるであたしみたいだ。
「明日、出掛けないか? 見たい映画があるんだ。」
「どんなの?」
「アクション物。」
「それなら見たい。」
そう言ったあたしに、安積さんはにこやかに言った。
「本当にアクション物だから、恋愛は絡んでいない話だぞ。」
「うん。ロマンチックなのは苦手。
 ボンド・シリーズみたいなのならいいけどね。」
「・・・夏波はそういう映画が好きなのか?」
「うん。アクションとか、コメディーとか。」
お喋りしながらコーヒーを淹れて、お盆にカップを2つ。

今のあたしたちみたいで、ちょっと笑えた。
ひとつひとつがあって、決してくっつかない。
きっとそれが、一番いい関係でいられる距離なのかもしれない。
「ラブ・ロマンスに誘ったら行くか?」
「・・・他の女性と行ってね。きっと途中で眠っちゃうから。」
コーヒーを置いて向かいに腰を下ろすと、何が可笑しいのか、安積さんが笑った。


 午前2時。
玄関での会話は、自然小声になる。
「じゃ、明日10時に、駅ビルの喫茶店で。
・ ・・鍵とチェーン、忘れずに掛けろよ。」
「分かってる。・・・おやすみなさい。」
返事の代わりに、額にキスを落とし、安積さんは帰って行った。
あたしが鍵を閉め、チェーンを掛けたのを確認してから。
 部屋の中に、彼の居た跡はない。
流しに置かれた2つのカップだけが、夢じゃないと言っていた。


 このままでいよう。
本気にならないように、自分に言い聞かせた。






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