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現実感のない人って、たまに居る。 一緒に居たときは楽しいし、存在感もあるのに、いざ『バイバイ』と別れると、 途端に『本当に一緒に居たのかな』と思う人。 そして安積さんは、あたしにとって『そんな人』だった。 おまけに、展開が早いし、安積さん自身もあたし好みだったりするから、 これはあたしの妄想ってやつじゃないかと思ってしまう。 7時を5分程過ぎて駐車場へ降りたあたしは、柱の奥に立っている安積さんを見付けた。 「遅くなって、ごめんなさい。」 「いや。」 笑いながら、助手席のドアを開けてくれる。 あたしはタイトスカートに気を付けながら乗り込んだ。 「今からだと、ファミレスくらいしかないけど、いい?」 「あ、はい。」 男の人と二人きりで居ることが居心地悪くて、つい、返事が素っ気なくなってしまう。 「・・・林さん。付き合った人とかいないの?」 「居たには居たんですけど・・・。 あたしと居るとつまらないって・・・。」 オドオドして、あまり喋らなくて、一緒に居るだけで息が詰まると言われた。 学校ではそれなりだったのに、二人きりになった途端、つまらなくなった、と。 そう言ったら、安積さんは急に笑い出した。 「一回会ったくらいで決めるなんて、そいつの方こそつまらない奴だな。 林さんは、居心地のいいポジション探してるだけなのにね。」 ・・・ビックリした。 そんな事言ってもらえるとは思わなかった。 車はファミレスに滑り込み、それなりに賑わっている店内へ案内された。 「ところで。 来てくれたって事は、俺と付き合ってもいいって事?」 席に着くなり、突然切り出されて、返事に困る。 でも、この人と付き合ったら、楽しいかもしれない。 会社では分からない、以外な面がたくさんあって、驚かされてばかりだし・・・。 「・・・こんなつまらないあたしで良ければ、こちらこそお願いします。」 「ありがとう。 ・・・それからもうひとつ、誤解のないように言っておくけど、 俺、まだ誰とも結婚する気はないんだ。」 「誰とも・・・?」 その一言で分かってしまった。今までの言動が。 あたしなんかはとても平凡で、彼女がたくさんいる安積さんには、 どう言えばあたしが興味を持つか、よく分かっていたんだ。 「俺は相手には不自由しない。 でも、林さんとも付き合ってみたいんだ。」 この人が望んでいるのは、そーゆー関係有りの高校生みたいな付き合い方。 先の事は考えないで、今を楽しむだけの付き合い。 「でも、会っているときは、その人の事だけしか考えないよ。 ・・・どう? 林さん。」 あたしは目の前にいる人を見た。 外見は格好いいと思う。好みだ。 自信過剰気味な物言いも、あたしとは正反対で新鮮だし、 女子高だったから、軽い恋愛もしたことがない。 少しは男の人に慣れた方がいいのかもしれない。 何より、これは夢かもしれない。 だったら、飛び込んでみよう。 「夏波(かなみ)って、名前で呼んで下さい。 苗字で呼ばれるの、あまり好きじゃないの。」 「分かった。会社以外ではそう呼ぶよ。 ・・・皆には内緒で、ね。」 お手洗いの鏡の中には、夢の中のあたしがいた。 いつもの真面目なだけのあたしじゃなく、小さい子供が悪戯してるときみたいな顔してる。 これは夢。 だから何があっても進んでみよう。 |