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彼・・・安積山登は、成績がいい。 なので、受注課に申告するのもほぼ毎日で、受注課の女子社員にも人気がある。 急ぎの電話を受けたあたしが書類を持っていくと、つまらなそうに、でも、 『安積さんのなら〜』と言われるくらい。 あたしのいる営業課と違って受注課は、主な業務が書類作成なので課長以外は皆女性。 営業課は男ばかりなので、隣の課同士、付き合っている人も多いが、 安積さんは彼有り・無しに関係なく、人気がある。 そんな、選り取りみどりの人が、あたしと付き合いたいなんて・・・。 本当の訳がない。 もしかすると、『だったらいいな』と思った、想像の続きかもしれない。 その証拠に、昨日の今日なのに、安積さんの変わらない態度。 きっと他の人たちと同じように『安積さんて格好いい』と思ったりしたから、 会社の給湯室だというのに、あんな自分に都合のいい夢を見るんだ。 折りしも今日は、バレンタインデー。 営業課25人中、女はあたしだけなので、義理よりも軽い『お茶請けチョコ』。 コーヒーに3粒づつ付けて、机を回る。 入社した3年前からの恒例行事。 ちゃんとしたチョコは、他の課や営業先でもらえるので、皆気にしない。 「お疲れ様です。」 コーヒーカップと、チョコの乗った小さなお皿。 皆、ありがとう等と言いながら、いつものお茶と変わらない反応でそれを摘む。 給湯室へ戻る寸前に見た安積さんも、皆と同じ反応。 隣に置かれた紙袋からは、ラッピングのリボンが覗いている。 ・・・やっぱり、ね。あれはあたしの白昼夢で決まりだわ。 給湯室で、チョコの缶を片付ける。 丸い、大きな缶は何かにするにも困る大きさで、ちょっと考えてゴミ箱へ。 でも、チョコレート色のリボンは綺麗で、三つ編みの先に結んでみる。 オフィスでも浮かない色だから、してても平気かしら? ちょっと浮かれて、Je te veuxにあわせて振り返った先には、安積さんが・・・いた。 「・・・皆と同じチョコで、昨日の話を忘れたかと思っていたら・・・。」 ひょい、と三つ編みを摘んで、リボンに見入る。 そして、視線を上げ、あたしの目を捉えた。 「あたしがプレゼント、ってやつか。ありがたく貰っておくよ。」 チュッ、と軽くキスをして、去り際に耳元で囁く。 「7時に駐車場で待ってる。」 瞬きひとつで静かになる給湯室。 薬缶の蓋が、カタカタ鳴り出した音だけが聞こえる。 ・・・あたしはまた、夢をみていたのだろうか・・・? |