Je te veux
―2―


作:マックさん♪


 彼・・・安積山登は、成績がいい。
なので、受注課に申告するのもほぼ毎日で、受注課の女子社員にも人気がある。 急ぎの電話を受けたあたしが書類を持っていくと、つまらなそうに、でも、 『安積さんのなら〜』と言われるくらい。
あたしのいる営業課と違って受注課は、主な業務が書類作成なので課長以外は皆女性。
営業課は男ばかりなので、隣の課同士、付き合っている人も多いが、 安積さんは彼有り・無しに関係なく、人気がある。

そんな、選り取りみどりの人が、あたしと付き合いたいなんて・・・。
本当の訳がない。
もしかすると、『だったらいいな』と思った、想像の続きかもしれない。
その証拠に、昨日の今日なのに、安積さんの変わらない態度。
きっと他の人たちと同じように『安積さんて格好いい』と思ったりしたから、 会社の給湯室だというのに、あんな自分に都合のいい夢を見るんだ。

 折りしも今日は、バレンタインデー。
営業課25人中、女はあたしだけなので、義理よりも軽い『お茶請けチョコ』。
コーヒーに3粒づつ付けて、机を回る。
入社した3年前からの恒例行事。
ちゃんとしたチョコは、他の課や営業先でもらえるので、皆気にしない。
「お疲れ様です。」
コーヒーカップと、チョコの乗った小さなお皿。
皆、ありがとう等と言いながら、いつものお茶と変わらない反応でそれを摘む。
給湯室へ戻る寸前に見た安積さんも、皆と同じ反応。
隣に置かれた紙袋からは、ラッピングのリボンが覗いている。
・・・やっぱり、ね。あれはあたしの白昼夢で決まりだわ。

給湯室で、チョコの缶を片付ける。
丸い、大きな缶は何かにするにも困る大きさで、ちょっと考えてゴミ箱へ。
でも、チョコレート色のリボンは綺麗で、三つ編みの先に結んでみる。
オフィスでも浮かない色だから、してても平気かしら?
ちょっと浮かれて、Je te veuxにあわせて振り返った先には、安積さんが・・・いた。
「・・・皆と同じチョコで、昨日の話を忘れたかと思っていたら・・・。」
ひょい、と三つ編みを摘んで、リボンに見入る。
そして、視線を上げ、あたしの目を捉えた。
「あたしがプレゼント、ってやつか。ありがたく貰っておくよ。」
チュッ、と軽くキスをして、去り際に耳元で囁く。
「7時に駐車場で待ってる。」
瞬きひとつで静かになる給湯室。
薬缶の蓋が、カタカタ鳴り出した音だけが聞こえる。

・・・あたしはまた、夢をみていたのだろうか・・・?






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