Je te veux
―13―


作:マックさん♪


 朝起きると瞼が腫れていた。
鏡を見ると案の定、瞼が腫れて目も真っ赤で、いかにも泣いた顔だった。
でも、どんな顔でも仕事は仕事。
あたしは化粧で隠せるだけ隠して、部屋を出た。

 出社してまず、総務で制服を受け取る。
先週末、コーヒーを溢して汚してしまったのでクリーニングに出してもらったのだ。
それから営業部へ行くと、既に皆は出た後で、あたしはホッとして席に着く。
机には、書類の山が3つ。
データ入力だけなので有路さんに出来ると思ったのだが、流石に全部は無理だったようで、 あたしは朝からパソコンに向かうことになった。
コーヒーも、あたしが休んでいる間にサービス会社が入ったらしく、 部屋の隅に機械が置いてあり、各々自由に飲んでいるようだった。
「もう、具合はいいんですか?」
目の前にコーヒーの紙コップが出されて顔を上げると、有路さんがニコニコと立っていた。
「ありがとう。
 有路さんも、火傷は大丈夫だった?」
「はい。・・・それに・・・。」
ふ、と小声で顔を寄せ、彼女はヒソヒソと耳打ちした。
「佐川さんが電話くれたんですよ。
 大丈夫? って・・・」
嬉しそうに言う彼女に、あたしはちょっとびっくりした。
もしかして、佐川さんも安積さんと同じで、彼女がたくさんいる人なのかしら。
もっとも、『お前だけ』と言って複数の人と付き合っているなんて話はよく聞く。
安積さんみたいに公言してる人が珍しいだけで、男の人って皆そうなのかしら?
でも、生物として男の人は、たくさんの女の人と付き合いたいものなのかもしれない。
「それでですね、林さん。林さんって、佐川さんと同期でしたよね。
 それで、佐川さんのこと、色々教えてもらえないかなー、なんて。」
「いいわよ。でも、休み時間にね。」
「はい、ありがとうございます!」
元気良く返事をする彼女。その背中を見ながらキーボードに向かう。
 それにしても佐川さん・・・。こんな近くで二股する気だったのかしら・・・?
そう思いながら打ち込みをしているうちに、いつしか書類のことだけに没頭していった・・・。

 「はい、お昼。」
ふと、ディスプレイとの間にビニール袋が出される。
「熱心なのはいいけど、昼メシ忘れちゃいけないな。」
「安積さん、どうして?」
周りを見回すと、有路さんまでいない。
「夏波とメシ喰おうと思ってさ。
 有路さんなら、佐川がメシに連れてったぜ。」
いつもは営業に出たまま、出先で食べることの多い人なのに、何でだろう。
「ダイエットでもしてるのか?」
なかなか袋を受け取らないあたしに、安積さんが笑いかける。
「そのウェスト好きだけど、ダイエットの必要まではないと思うぞ。
・・・それに、食べすぎたんなら、俺と楽しい運動すればいいじゃないか。」
「楽しいのは、安積さんでしょ?
 でも、ありがとう。時間、忘れてた。」
コンビニのサンドイッチとカフェ・オ・レをありがたく頂いて、安積さんと食べることにした。
機械のコーヒーを2つ持って来て、簡単の書類を退けていただきます。
「佐川さん、有路さんと付き合うのかしら。」
「そうかもな。・・・なあ、夏波。
 夏波は俺とシテて、楽しくないのか?」
いきなり真顔で聞かれて、あたしは困ってしまう。
でも、こんな真面目に聞かれたなら、ちゃんと答えなくちゃいけない気になる。
「・・・楽しいとか以前に、良く覚えてないし恥ずかしいし慣れないし・・・。
 体が痛くて、動けなくなっちゃうの・・・。」
だから、好きな人としかしたくない。他の人となんて、とても無理。
そう言いたいのをカフェ・オ・レと一緒に飲み込む。

 一晩泣いて、分かった事。あたしは、安積さんが好き。
だからきっと、何をされても許してしまうんだわ。
あたしを見てくれるだけで嬉しくて、それまでと同じように受け入れてしまう。
『都合のいい女』なのだろうな、と思う。
それが安積さんにも分かっているから、笑顔で近付いて来て無茶を言うんだわ。
 男の人の考えることは、所詮女であるあたしには分からないのかもしれない。
だから決めた、泣き明かして。
あたしは、あたしの意思で、あたしのままここに居る。

 「土曜日さ、空いてたら昨日言ってた奴と一緒に、映画でも観ないか?」
「・・・いいよ。」
あたしは、安積さんの顔が見られなくて、下を向いたまま答えた。
顔を見たらきっと、『泣きそうな困った顔』をしているのがバレてしまうから。
「いい奴だよ。
 高校で世界史を教えているんだ。
 昔から歴史が好きな奴でさ、植民地支配の・・・。」
続くその人の話を聞き流して、あたしはサンドイッチを飲み込んでお昼を終えた。
「・・・ご馳走様でした。
 あたし、歯を磨いてくるから、ゴメンね。」
急に立ち上げるあたしに、話しを止めた安積さんを残し、あたしは廊下へ出た。


  安積さんはきっと、自分が残酷なことをしているとは気付かない。
  だってそれは、あたしが安積さんを好きだから。・・・それだけだから。






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