Je te veux
―12―


作:マックさん♪


 小さなテーブルは、二人分の食事を並べるといっぱいになった。
大根のお味噌汁、ほうれん草のお浸し、そして山盛りの角煮。
茶碗を手に持っていても、テーブルが狭い。
「これが今作ってたヤツか?」
「うん。」
一口食べて、安積さんが不思議そうな顔をした。
それが妙に幼く見えて、あたしは笑いながら言った。
「沖縄風に、黒糖を使ってるの。日本酒の変わりに泡盛も。」
あたしがそう言う間にも、気に入ったのか次々を口に運ぶ。
見る見る空になるお皿に、あたしは嬉しくなった。
「あ、悪い。喰い切っちまった。」
「大丈夫。まだあるから持ってくるね。」
「ついでに飯もお替り。」
茶碗も受け取って、台所へ。
食べてくれる人がいる食事は久し振りで、楽しかった。
 お鍋に残っていたお肉を全部皿に盛り、ご飯もよそって部屋へ戻った。
「何処でこんな料理、覚えたんだ?」
「短大の時の友達に沖縄出身の娘がいて、その娘に。」
「へえー・・・。」
取り止めのない話をしながら食事を終え、コーヒーを飲んでいる時だった。
ピンポーン。
こんな遅くに誰だろうと、スコープを覗いた。
「・・・佐川さん。」
「林さん、いるんでしょ?」
台所と部屋の境の扉を閉めるあたしに、安積さんが言う。
「俺が出るか?」
「ううん。大丈夫。」
「・・・じゃ、チェーンは外すなよ。」
心配そうな顔に頷いて、あたしはドアの鍵を開けた。と。
いきなりドアが引かれ、あたしは驚いてドアから手を離してしまう。
その、チェーンの分いっぱいに開かれたドアから、佐川さんは顔を覗かせた。
「林さん、2日も休むから心配したよ。」
「あ、ありがとうございます。もう、平気ですので、明日には仕事に出ますね。」
「こんな所で立ち話も何だからさ、中へ入れてくれない?」
ガチャガチャと鳴るチェーン。なんか、怖い。
「あの、もう遅いですし・・・。」
「遅いから、近所迷惑になるでしょ? ね?」
佐川さんは、口調は優しいのに強引だ。あたしはその強引さが、生理的に苦手だった。
同じ『強引』でも、安積さんのは困るような嬉しいように感じるのは、やっぱり好きだからだろうか。
「ねえ、林さん。」
「困ります。」
流石にこれ以上はどうしようかと思った時、ポンと肩を叩かれた。
「佐川。本当にこれ以上困らせるなよ。」
「安積! お前、何で・・・。」
呟くようにそう言って、安積さんを、そしてあたしを見た。
「・・・何だ、そういう事か。」
そう言うと、佐川さんはドアから体を離した。
「じゃ、また明日、会社でな。」
「おう。」
パタンとドアが閉まり、足音が遠ざかる。
それが聞こえなくなってようやく、あたしは安積さんを振り向くことが出来た。
「安積さん、何で・・・?」
「たまには頼れって言っただろ?
 それに、そんな泣きそうな顔で困っていたくせに・・・。」
「でも、これじゃ会社にバレちゃうよ。」
「それは・・・。」
明らかに困った顔で、安積さんが呟いた。
そこまで考えてなかったらしいけど、あたしは今までの気分が下がっていくのが分かった。
「・・・明日、佐川さんに口止めしなくちゃ、ね。」
「俺がするから、夏波は佐川には近付くな。」
「何? それ。」
「お前みたいに男慣れしてない女は、対処出来ないだろ。
 だから、俺が・・・。」
「遊びだから気にするな、って?」
言った途端、安積さんの手が振り上がり、そして握られた。
あたしはそれを顔を背けずに見ていた。
「夏波・・・。」
いきなり抱きしめられて、キスされて、息も奪われる。
苦しくて苦しくて、涙が滲むまでそれは続いた。
「・・・夏波は、少し男に慣れた方がいい。
 俺の友達でいいヤツ、紹介してやるよ。
 だから、佐川には近付くな。あいつだけは止めとけ。」
一気に頭が覚めた。背中が妙に冷たい。はを喰いしばってないと、体が震え出しそう。
安積さんはあたしを莫迦にしたいのか、それともそんなに邪魔なのか。
「夏波?」
「そんなに嫌なのに、何で出てきたの?
 あたし一人でも大丈夫だったのに。」
「でも、あんな泣きそうな顔してたら、男なら誰だって・・・。」
「もう、帰って。お願い。」
「夏波。」
「お願い・・・。」
あたしのせいなんだ。あたしが困っていたからなんだ。
でも、そんなに会社で噂になるのが嫌なら、放っておいて欲しかった。
声なんかかけないで、助けてなんてくれないで。
このまま。ただこのまま、もう少しだけ。
一緒にいて楽しい付き合いをしたかっただけ。
新しい彼氏を紹介してもらわなくたって、ストーカーになったりしないし、自殺なんかも考えない。
まして、他の女性たちと別れて欲しいとか、結婚を迫ったりしない。
 悔しくて、苦しくて、安積さんが帰ったのも気付かず、玄関先に蹲って泣いていた。


   こんな扱いをされても、あたしは安積さんが好きだった。
  嫌いになれたら楽なのに、それさえも出来ない自分がいた・・・。






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