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月曜日。 まだ貧血と吐き気が酷く、あたしは生理休暇を願い出た。 電話に出た有路さんは、快く伝言を受けてくれた。 もぞもぞと布団の中に戻りうとうとしていると、携帯が鳴った。 すぐ鳴り止んだところを見ると、メールだったらしい。 あたしは電話が好きでははいので、掛けることも受けることもあまりない。 誰からだろう。見ると地元の友達からだった。 中学の同級生が結婚が決まったので、仲の良かった娘でプレゼントをしよう、と。 普段なら仕事中の時間なので、気を使ってくれたらしい。 皆の顔を思い出し、少し気分が良くなった気がした。 今から会えるのが待ち遠しい。 と。再び鳴り出す携帯。今度は電話の方だ。 「はい。」 『夏波? 大丈夫か?』 「安積さん、どうしたの?」 『会社に行ったら休みだって言うんで、ちょっと、な。』 「大丈夫だよ。病気じゃないんだし。 それに、昨日はありがとう。ごちそうさま。 すごく美味しかった。」 『そっか。じゃ、ゆっくり休めな。 また、電話するから。』 「うん。ありがとう。」 営業に行く途中だったのか、ざわついた音がしていた。 本当に優しい人。 それでなくてもここのところ、新しい相手と言うことであたしに構い過ぎているんだから、 他の彼女から苦情が来ちゃうよ。 そんな事を思いながら、あたしは眠りに落ちて行った・・・。 携帯の着信音で目が覚めた時、時計はお昼を指していた。 「・・・はい。」 『夏波、メシ喰ったか?』 「安積さん?」 『おう。寝てたのか? メシは?』 「これから食べるわ。ありがとう、起こしてくれて。」 体を起こしながら、あたしはカーディガンを羽織ってベッドから降りた。 『今、近くに来てるんだ。 美味いパン屋があったから、サンドイッチを買ったんだけど、喰えるか?』 「え? 近く?」 ピンポーン。タイミング良く、チャイムが鳴る。 あたしは寝起きの乱れた髪を気にしながら、ドアの前に立った。 「・・・安積さん? 本当に?」 「俺だよ。」 細く明けたドアの隙間から、ビニール袋を提げた安積さんの顔。 あたしは一度ドアを閉め、チェーンを外してドアを開けた。 「大分、顔色もいいな。」 頬を撫でながら、呟くように言って、ガサリと袋が渡された。 「喰ったら寝ろよ。じゃ。」 「あ、待って。安積さんは?」 「俺は喰った。じゃ、な。」 額に軽くキスを落とすと、安積さんは行ってしまった。 その背中を見ながらあたしは、胸が痛くて堪らなかった・・・。 夜になる頃、百合ちゃんから電話があった。 「じゃ、まーちゃんの彼って、18才年上なんだ。」 『そうなの。 会社の帰りにいつも使うタクシーの運転手さんなんだって。』 「縁って、どこにあるかわからないものなのね。」 『かなちゃんは? 彼氏出来た?』 ドキン、と心臓が鳴る。 安積さんは彼なんだろうか。 でも、あたしはたくさんいる彼女の一人だし、人には内緒の付き合いだし・・・。 「・・・ボーイフレンドならいるけど、彼氏はまだ・・・。」 『まだ23才だもん、これからだよ。 まーちゃんの結婚式でいい人みつけたら?』 「そうね。」 『じゃ、日曜に里代とそっちへ行くね。プレゼントの相談しよう。』 「うん。じゃ、日曜日に。」 久し振りに聞く友達の声が、昔に戻らせる。 それがもう、結婚するような年なんだな。 相沢君はどうしているんだろう。結婚式に来るのかな? あたしをつまらないと言った彼も、今なら子供だったからと分かる。 でも、自分をつまらない人間だと思い、引っ込み思案になったのも事実だ。 「・・・もう、寝よう。」 嫌な事まで思い出してしまい、あたしは寝てしまうことにした。 夕べ飲んだ薬のおかげで、今朝はあまり酷い痛みもなく目が覚めた。 二日間休みを貰ったので、朝食を摂った後、ゆっくりと買い物に出掛けた。 安積さんと付き合う前が、こうだった。 土曜に掃除と洗濯をして、日曜に買い物。一週間分の下ごしらえをして、 その分平日はゆっくりする。 「こんにちは。」 久し振りに顔を出したコーヒーショップで、店長さんお勧めの豆を挽いてもらった。 「林さん、ちょっと見ない間に痩せたね。」 「そうですか。」 「顔がほっそりしたというか・・・。」 「そんなに丸かったですか?」 軽口を叩いてコーヒーを飲む。会計時に渡された豆はサントス。 酸味の強い豆だそうで、きっと安積さんが喜ぶだろうと思っている自分にちょっと呆れた。 近頃、安積さんのことばかり考えてしまう。 こんな日は、手のかかる料理でも作ろう。 部屋に帰って早速、豚の角煮を作ることにした。泡盛が残っていたので、沖縄風にラフテー。 黒砂糖もちゃんとあった。 ただ煮るだけなのだが、つきっきりで灰汁を掬わなくてはならないので、手がかかる。 四時間ほどかかって煮込んでいる間、本を読んだりナンプレをしたり。 煮汁が半分以下になり、仕上げのみりん。照りを出すための、あたしのオリジナル。 「久々の割には、まあまあね。」 自画自賛して、ふと時計を見ると6時半を回っていた。 ・・・安積さん、もう仕事は終わったのかな。 そう思った時、チャイムが鳴った。 「はい。」 「調子はどうだ?」 「安積さん!」 チェーンを外して、慌ててドアを開けると、仕事帰りの安積さんが立っていた。 「料理なんかしてて、もう大丈夫なのか?」 「平気。」 その途端、安積さんのお腹が、盛大に鳴った。 「・・・ご飯、食べる?」 この人には、取り繕わない自分でいたい。そのままのあたしを見て欲しい。 だから、自然体でいよう。 |