Je te veux
―1―


作:マックさん♪


 この曲を初めて聴いたのは何時の事だったのか。
もう思い出すことも出来ないくらい前のこと。
歌詞の意味は深く考えず、流れる様な曲のリズムが気に入って、 気付くと口ずさんでいる事が多かった。
ワルツのテンポが、のんびりしたあたしに合うのか、 授業中や、今は仕事中も頭の中で流れ続けていて、 キーボードをたたくリズムも自然と三拍子になったりする。
でも、それに気付いた人はなく、 あたしだけの密かな記録更新中だった。
友達も同僚も知らない、あたしだけのテーマソング。


 「林さんて、ワルツを踊るみたいに動くね。」
中途採用の営業マン。名前はまだ、覚えてない。
この会社に来て一ヶ月の彼は、帰社のコーヒーを運んで行ったあたしにそう言った。
「・・・何の事ですか・・・?」
「ん? 優雅に動くね、って言ったの。」
バレた!?
そう思った瞬間、恥ずかしいのと悔しいのがごちゃ混ぜになって、 あたしはお盆抱えて回れ右していた。
 給湯室で、まだ湯気の立っているフィルターペーパーとコーヒーを見ていたら、 何だか泣きたくなって来た。
莫迦みたい。
当てずっぽうに言われた言葉に、赤くなったり青くなったり。
これじゃ『当たってます』と言ってるようなものだわ。

 ようやく気を落ち着けて、 そろそろ帰社し始めた他の人達にコーヒーを持って部署へ戻る。
今の遣り取りを誰かに聞かれてたらどうしよう、と思ったが、 幸いと言うか、気付いた人はいない様子。
ホッとしてコーヒーを配り、給湯室へお盆を返そうとした所を、 彼に声を掛けられた。
「もう一杯、いいかな。」
「なくなっちゃったんで、少し待ってもらえるならいいですよ。」
「頼む。」
カップを受け取って、給湯室に戻る。
薬缶に水を入れて、火に掛ける。
その間にコーヒー豆の用意をしてしまおう。
フィルターにペーパーをセットして、挽いてある豆を三杯。
「林さん。」
ビクッとして、コーヒースプーンを取り落としてしまった。
・・・豆を入れた後で良かった・・・。
振り返ると、彼が扉のところに立っている。
「今、お湯を沸かしていますから、もうちょっと待って下さいね。」
「・・・林さんてさ、今、付き合っている人、いるの?」
ヅカヅカと近寄って来て、あたしは流しに挟まれてしまった。
「あの・・・。」
「俺のほうがイイ男だから、俺と付き合わない?」
「あ・・・。」
「ね。」
無理矢理抱きしめられて、強引に口付けされる。
そしてあたしは・・・。

 自信過剰なあの科白に、実は参ってしまっていた・・・。






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