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この曲を初めて聴いたのは何時の事だったのか。 もう思い出すことも出来ないくらい前のこと。 歌詞の意味は深く考えず、流れる様な曲のリズムが気に入って、 気付くと口ずさんでいる事が多かった。 ワルツのテンポが、のんびりしたあたしに合うのか、 授業中や、今は仕事中も頭の中で流れ続けていて、 キーボードをたたくリズムも自然と三拍子になったりする。 でも、それに気付いた人はなく、 あたしだけの密かな記録更新中だった。 友達も同僚も知らない、あたしだけのテーマソング。 「林さんて、ワルツを踊るみたいに動くね。」 中途採用の営業マン。名前はまだ、覚えてない。 この会社に来て一ヶ月の彼は、帰社のコーヒーを運んで行ったあたしにそう言った。 「・・・何の事ですか・・・?」 「ん? 優雅に動くね、って言ったの。」 バレた!? そう思った瞬間、恥ずかしいのと悔しいのがごちゃ混ぜになって、 あたしはお盆抱えて回れ右していた。 給湯室で、まだ湯気の立っているフィルターペーパーとコーヒーを見ていたら、 何だか泣きたくなって来た。 莫迦みたい。 当てずっぽうに言われた言葉に、赤くなったり青くなったり。 これじゃ『当たってます』と言ってるようなものだわ。 ようやく気を落ち着けて、 そろそろ帰社し始めた他の人達にコーヒーを持って部署へ戻る。 今の遣り取りを誰かに聞かれてたらどうしよう、と思ったが、 幸いと言うか、気付いた人はいない様子。 ホッとしてコーヒーを配り、給湯室へお盆を返そうとした所を、 彼に声を掛けられた。 「もう一杯、いいかな。」 「なくなっちゃったんで、少し待ってもらえるならいいですよ。」 「頼む。」 カップを受け取って、給湯室に戻る。 薬缶に水を入れて、火に掛ける。 その間にコーヒー豆の用意をしてしまおう。 フィルターにペーパーをセットして、挽いてある豆を三杯。 「林さん。」 ビクッとして、コーヒースプーンを取り落としてしまった。 ・・・豆を入れた後で良かった・・・。 振り返ると、彼が扉のところに立っている。 「今、お湯を沸かしていますから、もうちょっと待って下さいね。」 「・・・林さんてさ、今、付き合っている人、いるの?」 ヅカヅカと近寄って来て、あたしは流しに挟まれてしまった。 「あの・・・。」 「俺のほうがイイ男だから、俺と付き合わない?」 「あ・・・。」 「ね。」 無理矢理抱きしめられて、強引に口付けされる。 そしてあたしは・・・。 自信過剰なあの科白に、実は参ってしまっていた・・・。 |