インバース家の人々

<終章>大団円ノ話

作:りょーさん♪

 ゼフィール・シティの一角。インバース商店は今日も大盛況である。
 店の主、インバース氏は、店の奥にどっかりと陣取り、くわえタバコで店内を見渡した。
 下の娘が長旅から帰って既に半年。
 もとからそこそこの人気店ではあったが、今や女性客のハートをがっちり掴み、ゼフィーリア1の繁盛店と言ってもいい。
 店先では、お客の笑い声が絶え間なく響いている。
 商売は好調。
 家族は揃って健康。
 ふたりの娘はますます綺麗になり、妻は変わらず若々しい。
 順風満帆、平穏無事。
 まったく結構そのもの。これで不満を言っては、罰が当たると言うものだろう。
 ではあるが、インバース氏、内心では少々退屈ぎみであった。
 かつては無数の修羅場を潜った身、平穏すぎる日々に、いささか血の騒ぎが込み上げる時もあるのである。
 ・・・・ちょいと旅にでも出てみようかなどと思うこともないではない。
 が、その度に、家族揃って味わう妻や娘の手料理を想い、躊躇する毎日であった。

 不意に、店先で、“どっ”と大きな笑い声が興った。
 毎度おなじみの娘のスリッパが、頼りない2代目に炸裂したらしい。
 見るともなくそちらを向いて、インバース氏は苦笑を浮かべた。
 ・・・・大方、また商品でも間違えやがったかな
 そんじょそこらじゃ見かけないほどの美形で、おまけに愛想が良くて親切者とくれば、女性客の評判が良いのは当然のこと。おかげで店の売り上げは数倍に膨れ上がったが、この婿殿、いささか失敗も多い。もっとも、それで苦情が来ることはなかったが。
 「ったくこのくらげぇっっ、何回言ったら覚えるのよっ!?」
 「え、これじゃなかったのか?」
 「違うにきまってるでしょっ! 奥にあるから、さっさと取ってらっしゃいっ!!」
 すぱこぉ〜〜〜んっっ!!
 お客の笑い声に混じって、小気味よい音が店内に響いた。

 ・・・・あの婿殿の頭をはたける人間が、どれくらいいるかな・・・・?
 店先の風景を眺めながら、ふとインバース氏は考える。
 ・・・・ま、世界でも数えるほどもいないだろうな
 なにせ、ひと昔前にはその筋に名を轟かせた自分と比べても互角以上。いや、それどころか、スィーフィードナイトの試練をクリアした男だ。
 彼に勝つどころか、互角に戦える人間さえいるかどうか。
 それでも、
 ・・・・うちの娘にかかっちゃ、あの様か・・・・
 そのことが愉快でもあり、同じ男としていささか情けなく思う気もある。
 商品を取りに駆け込んで来た婿に、にやりと笑いかけてみた。
 「女に惚れちまったら、男は終いだな」
 義父の言葉に、ちろっと目を向けて
 「あんたが言う台詞じゃないと思うが・・・・」
 なにやら不満げに応える。
 「ん? そりゃどーゆー」
 意味だ?と言いかけたインバース氏に、家から声がかかった。
 「ダーリン、ちょっとお買い物お願いできます〜〜?」
 「おう、今行く」
 応えて、火の付いていないタバコを懐にしまう。
 つっ、と立ち上がった義父に、婿がにやりと笑いかけた。
 「そーゆー意味だ」
 ・・・・ちっタイミングが悪いぜ
 「“惚れた弱み”はお互い様、か?」
 ひょいっと肩を竦めて、笑い返す。

 「ちょっとっガウリイ、何してんのよっ!? 早くしなさいってばっ!!」
 「ダーリン、早くきてください〜〜」
 店先と家の中から、同時に声がかかった。
 「やれやれ賑やかなこった。・・・・ま、けど、弱みを持つのも悪いもんじゃないか」
 「ああ、悪いもんじゃない」
 どちらからともなく視線を交わす。
 「じゃあ、行くか」
 「おう」
 顔を合わせ、完爾と笑った。


 義父子揃って、まさに会心の笑み。
 まずは、これにて大団円である。




(完)


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