INN
〜宿屋にて〜


作:みづさん♪


「リナ………オレと、その、えーーっとアレだ、アレ! ………あれ? 」

 何が言いたいのか、この男は。

「………っと、そうだそうだ思い出したぞっ!」

 ………うそばっかし。あんたがそう言って思い出したことなんて、これっぽっちも無かったじゃない。

「こほん。ーーーーーリナ」

 何よ。急に改まっちゃって。

「お前さんの郷里(くに)のゼフィーリアへ行くって言ったのは、だな」

 はいはい、葡萄が食べたかったからでしょ。あ。でも、収穫したばっかりだから、葡萄酒は去年の収穫分で作ってあるやつよ? ………葡萄は今年のだけど。

「別に葡萄が食べたかったわけでも、酒が呑みたかったわけじゃなくて」

 あっそう。じゃあ食べなくていーわよ。あたしが全部美味しくいただいちゃうから♪♪ よっしゃっ、葡萄独り占めっ!!

「いや、食いたいし酒も呑みたいんだが」

 どっちなのよ………。

「ーーーーーだから! ああもう、何でこう、お前さんに話をしようとすると、横道にばっかりそれるんだよ!」

 逆ギレするなあぁっ!!
 あんたが勝手に一人でどんどん脱線してるんでしょーが!
 何なのよさっきから。

「リナ」

 だから、何。

「挨拶に行くんだ」

 ーーーーーーーーーーは?

「ゼフィーリアに、オレは挨拶しに行くんだ」

 あいさつ?
 どこに?
 何で?????

「ほら、オレは一応、今までお前さんの保護者やってただろ?」

 自称だけどね。

「だから、お前さんの家族に挨拶しとかなきゃまずいじゃないか」

 んなこと気にするよーな家族じゃないんだけど。
 っていうか、むしろ、とーちゃん辺りが大騒ぎしそーなんでやめて欲しいんだけど………事情を話すと長くなっちゃって面倒だし。

「葡萄もそうだが、何日か泊まらせてもらうことになるだろ?」

 ああ、そういうこと。ガウリイにしちゃ、気がきいてるじゃない。感心感心。

「あと」

 あと?

「お前さんをオレに下さい、って挨拶もしとかなきゃならないし、な」

 …………………………
 …………………
 ……………
 は?

「よし、練習終わり! これならいくら何でも分かるよ、な?」

 ………………………




 ごそごそと微かに衣の擦れ合う音。ベッドにもぐりこんだのだろう。
 あたしもそろそろ休もうと、魔法書を閉じた、その時に。

コンコン

 壁を叩く音。
 そして、一枚の壁を隔てて反対側にかろうじて届くほど微かな、でも聞き慣れた声。

「おやすみ、リナ……………」




 あたしは黙ってただ、苦笑するしかなかった。
 だって、それはあまりにも嬉しそうな声だったから。
 声に出すと向こうに聞こえてしまいそうで、さっきと同じように心の中で呟いた。





 ………明日、楽しみにしてるわよ?





Fin.

リクエスト内容は、「幸せそうなガウリイとそれを見て苦笑しているリナ」でした。
壁に向かって練習中だったガウリイ君。翌日無事伝えられたでしょうか?(笑)


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