2.5
日常の中の疑問


作:マックさん


 「おやすみ、水都。」
 そう言って、軽くキスをする干城。
口と口とは言え、あいさつのキスだと思う。

 いつからだろう・・・?
干城とキスしても平気になったのは。
それより、安心できるようになったのは。
ファースト・キスがいつだったかなんて、正直覚えていない。
気が付いたら『ほっぺにチュッ』から『唇にチュッ』が普通だった。
覚えている限り遡っても、小学校4年生の時にはキスしていた。
 あれは調理実習でマドレーヌを焼いた時。
料理は得意だけど、お菓子はちょっと・・・、な出来栄えのそれを、笑って受け取ってキスしてくれた。
そして食べ終わった後にも「ごちそーさん、美味かった」とキスしてくれた。
とても嬉しかったけど、それに対してのリアクションはなかったと思うの。
なので、多分その時にはもう、していたんだと思う。


「・・・どうした? 眠れないのか?」
一生懸命考えているあたしに気付いて、干城が声を掛けてくる。
「そーゆー訳じゃないから、仕事してていいよ。」
「そー言われてもなあ・・・。」
パソコンの電源を切って、ベッドサイドに来る干城。
「明るいと眠れない、って訳じゃないよな。」
「違うってば。ちょっと考え事。」
「そんな真剣な顔で、何考えてたんだか。」
あたしの眉間を突付いて笑う。


・・・あたし、干城のこの『仕方ないなあ』って感じの笑い方、一番好き。
素直に甘えてもいいんだ、って思える笑顔。


「で? 何? 一緒に考えようぜ。」
・・・ああ、又。この人はあたしを甘やかす。
「初めてキスしたのが何時だったか、思い出せないの。」
「何だ、そんな事。」
「干城、覚えてるの?」
上半身を起こして、ベッドの端に腰掛けた干城ににじり寄る。
「勿論。・・・教えて欲しい?」
うんうんと頷くあたしに、干城はニッコリと言った。
「じゃ、『お願いのキス』。」
うっ・・・。
流石に自分からするのは、ちょっと・・・。は、恥ずかしい・・・。
「ホラホラ、教えて欲しいんだろ?」
ううう・・・。恥ずかしいけど、仕方ない・・・。


 チュッ!


「こら。」
不満顔で睨んでくる・・・。
「何でほっぺたなんだよ。」
「無理だよお。」
あたしが困っていたら、いきなりキスされた。
いっぱいいっぱい。子供がお母さんにするように、顔中に軽くキスの嵐。
「・・・ん、もう! いいでしょ!」
「つれないなあ。最初は水都からだったのに。」
「えー! 嘘ばっかり!」
「本当、本当。初めて指輪を贈った時に『ありがとー』、チュッ、ってな。」
・・やっぱり覚えていない・・・。
「忘れたか? 夏祭りで指輪買ってはめてやったら
『おにいちゃん、ありがとー』って抱き着いて来て、ちゃんと唇にしてくれたんだぞ。」
・・・夏祭りで、初めて、って・・・。
あたし、まだ幼稚園に行ってたような気がするけど・・・。
「黄緑色の金魚帯が可愛かったぞ。」
「ん、な昔の事、覚えている訳ないでしょ!」
くるりと布団を被って、干城に背を向ける。
声を殺して笑っているのが、ベッドの揺れで分かる。
・・・悔しいっ!
 何で干城には適わないんだろう。
悔しいから、明日の朝起こすとき、キスのついでに鼻つまんじゃお。
きっと、苦しくて目を覚ますぞ。
 あたしは、その場面を頭に描いて目を閉じる。
やっぱり、もう眠い。
閉じた瞼は開こうとしても、全然動かない。
  干城! 明日の朝、みてなさいよ!
心の中で毒付いて、あたしは眠りに落ちていった・・・。



 朝。起きて最初に、隣のベッドを見る。
布団を掛けた胸が、静かに上下して、呼吸しているのが分かる。
 今日も生きている。今日もここにいる。
 じいちゃんやばあちゃんみたいに死んでしまったり、
お母さんみたいにいなくならない。
干城はいつも側にいてくれる。
分かっているけど、毎朝起きる度に確かめてしまう。
もう、置いて行かれるのは嫌だ。あんな想いは、もうしたくない。

 そっとベッドを抜けて着替える。一日の始まり。
 お湯を沸かしてコーヒーを淹れて。
朝ごはんはパンがいいかな。トーストにバターと、スクランブルエッグ。
プレーンオムレツのがいいかな。
 慌ただしく始まる、いつもの朝。もう、考えてる暇はない。
整ったテーブルに満足して、エプロンを椅子に掛けるとあたしは、寝室のドアを開けた。


「おはよう、干城!」





おわり


素材提供:evergreen
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