|
「じゃ、行って参ります。」 「行って来る。」 「ばあちゃんのこと、よろしくお願いします。」 深々と頭を下げる水都に、干城は浴衣の袖を引いて言った。 「大丈夫だよ。ほら、早く。」 「でも・・・。」 寝たきりの祖母を置いて行く事を躊躇する水都に、干城の母は笑って手を振った。 「安心して行っておいで。」 「ほら、な。」 「・・・じゃ、行って参ります。」 ようやく笑って歩き出す水都の手を握り、干城も歩き出す。 「頑張ってね!」 「かあさん!」 後ろから掛けられた声に、干城は振り返って怒鳴り返した。 そんな母子をニコニコと見ながら、水都は手を繋いだまま歩き続ける。 寝たきりの祖母の世話をしている水都は、学校と買い物以外、出掛ける事は、まずない。 唯一、昔から行っている夏祭りだけは、干城と二人で出掛けるのだ。 「・・・ねえ、干城。」 「ん?」 「あたし、もう高校生だし、転ばないよ。手、離して。」 この春、高校に入学ってから、流石に恥ずかしくなったのか、水都は手を繋いで歩くのを嫌がるようになった。 だが、干城は放すつもりは毛頭無く、かえって強く握り締める。 それは、毎朝学校へ行く時も同じだった。歩いて15分の県立高校。 一年しか同じ学校に通えないのだからと、干城は毎朝手を繋いで登校する。 「ねえ、干城。」 「ヤ、だね。水都と手を繋ぐなんて、朝くらいしかないのに、折角のデートなんだから、勿体無い。」 「デートって・・・。」 「俺たち、婚約者だろ?」 「・・・。」 恥ずかしい事をさらりと言われ、水都は黙ってしまう。これも、日課。 その為、この近辺で二人のことを知らない者は居ないと言える。 「ほら、見えてきたぞ。」 促されて顔を上げると、毎年見慣れた屋台とやぐら。 でも、一年振りのそれは、やはり何処か懐かしい。 「・・・やっぱり初めはアレか?」 「そうね。アレじゃなきゃね。」 顔を見合わせて、アメリカン・ドッグの屋台に向かう。 屋台のお兄ちゃんも顔を覚えていて、端数はおまけ、と言ってくれたりする。 わたあめ、ラムネ、串饅頭。童心に返って食べ歩く。 「あ、あった。」 ようやく手を離して、干城は一台の屋台に近づいた。 幼い子供が群がるそこは、おもちゃを置いている屋台。 今年も、色取り取りの指輪が並んでいた。 「おっちゃーん。ひとつ、おくれ。」 「何だ、兄ちゃん。今年もか。」 笑いながらお金を受け取り、水都に顔を向けた。 「お姉ちゃんも久し振りだな。」 「こんばんは。今年もお元気そうで。」 和やかに話す二人の下で、干城は眉を寄せ、真剣な顔で指輪を見ている。 「水都。これとこれ、どっちがいい?」 黄色とピンク。両手に持って、干城は水都を振り返る。 「んーと、黄色。」 「よっし。んじゃ、これな。」 ピンクの指輪を戻し、黄色のそれを水都の手を取りはめる。 右手の小指。 おもちゃの指輪が薬指に合わなくなって久しい。 「ありがとう。」 それでも気持ちが嬉しくて、水都は素直に礼を言った。 「姉ちゃん。そんなおもちゃでお茶を濁すような男は止めて、おっちゃんの息子ン所へおいで。」 笑いながら言うおじさんに、干城は本気の目で睨む。 「おっちゃん。俺まだ、高校生なんだぜ? そんなに本物やれる訳ないじゃないか。」 「あんちゃん、まだ高校生だったんか。てっきり社会人かと思ってたわ。」 「それに、10年前から水都は俺の婚約者なんだから、変なコナかけないでくれ。」 言いながら、水都の肩に手を回した干城は、そのまま手を振って歩き出した。 「また、来年な!」 境内を過ぎ、祭の喧騒がなくなる頃。
おわり |