一人過ごす夜に

作:牛乳パックさん



・・・寝苦しい・・・



安宿のベットの上、リナは無意識に身をよじった。
肌ににじむ汗が気持ち悪い。


じっとりとからみついてくるような真夏の湿気



一度、二度、転々と寝返りを打つ。
でも、そんなことではそれは去ってはくれなくて。


夢うつつのまま冷気呪文を唱える
しかし、そんな呪が形をなすわけはなく

何度めかの失敗の後、ついに、彼女は眠りの淵から呼び戻された。

目をこすり、渋々ながらに起きあがる。

今日はこれでもう二度目になる。




あきらめて立ち上がり、リナは窓を開けた。
吹き込んだ風が、一時、部屋の籠もった空気を振り払う。

見上げた空は、一面の星







さて・・・どうしようかな・・・


風を感じなくなると、とたんにまた熱気が押し寄せ始める。

今日の暑さは半端ではない。


無駄だとは思うけれど、もう一度冷気の呪文をかけて寝るしかないか。



ため息をついて、またベットへと歩き出したところで・・・・リナはある音に気がついた。




かたり

ぎしっ



ベットが軋む、鈍い音
壁に耳を近づけてみる。
予想に違わず音源は隣の部屋だった。

確かに聞こえる音、そして、感じる人の気配。





・・・あいつもやっぱり眠れないんだ・・・



隣の部屋の相棒のことを考え、リナの顔に笑みが浮かぶ。



あんなに暑苦しい髪をしている癖に、
彼は暑さにも寒さにも妙に強くて、
いつもぶつぶつわがままを言う自分の方を飄々と見ていた。


なぁんだ


平気ぶってはいても、やっぱり彼も暑いときは暑いんだと、
気付かされた当たり前と言えば当たり前な事実に、
リナはしばらくくすくす笑いが止まらなかった。




そう、わがままを言うのは、
文句を言うのは、
いつも支えて貰うのは、
あたしの方だったから。





記憶の回想と連想は、
リナの脳裏にある冬の日の映像をよみがえらせる。



あれは半年ほど前
通りすがりの街でのこと。

ふいの吹雪に捕まり足止めされて、


小さな宿屋の薄布団で夜を過ごしながら

あまりの寒さに凍えて、
眠れぬ夜、たった一人震える自分に、
どうして気付いたものか、
毛布と温めたミルクを持ったガウリイが部屋のドアを叩いてくれた。


寒かったろうと着せ掛けてくれた毛布が、
寄り添い、抱かれた肩から分けてくれたぬくもりが、
そっと渡してくれた温かいミルクが、

彼の存在それ自体が、いつの間にかほんのりと心に灯をともした。


あの時、あたしは彼に言えただろうか





「ありがとう」と



あの後、いつの間にかお互いに寄りかかりながら眠ってしまって、

朝起きて、隣でもつれあうように眠るガウリイを見つけ、
照れ隠しも手伝って呪文で吹き飛ばしたのだけは覚えている。


自分のいじっぱりさ加減に嫌気がさすのはこんな時




体が冷えたときではなく、
心が少し冷たくなったとき。

ガウリイはいつも気付いてくれた。


あの夜与えてくれたぬくもりのように、

辛いとき
悲しいとき
泣きたいとき


いつも側にいて
心を分かち合ってくれる



涙も出ないほど、心が凍り付くとき
肌から伝わってくるような暖かさが氷を溶かす



凍った心が一瞬解ける狭間
最近
あたしはずいぶん素直に「ありがとう」を言えるようになった。





がたん




また、音がする

まだ眠れないらしい



もう一度リナはクスリと笑うと、ブランケットと枕を持ってドアを開けた。


今日はあたしの方が出張しようか
温めたミルクと毛布ではなくて、
冷気呪文をお土産に、
共に眠れない夜を過ごすために


そして、いつかは自分が彼を支える日のために




なんだか、あの時の礼を今ならば言える気がした。




ドアをノックすると、
やはり帰るいらえの声。




一つ息を整えると、リナは部屋のドアを押した。





Fin.


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