瞳語り

作:Sさん♪



 長閑な昼下がり。
 あたしとガウリイはいつものように、のほほ〜んと旅の途中。
 日没までには、次の町につけるだろう。
 ふと街道の脇に咲く小さな野花が目に入る。
「……なぁ、リナ。あの花、なんて言うんだ?」
 唐突な問いかけ。
 同じ花を見ているガウリイの顔。
「……たんぽぽよ」
 何気ない返事に感心して、可愛い花だとか、よく名前を知ってるなとか、嬉しそうに喋ってる。
 たんぽぽを知らないあんたの方が、絶対普通じゃないと思うんだけど。
 敢えて、その感想は述べなかった。
 別の事が気になってるからだ。
 最近、多いのだ。
 何気ない時にふと気付けば、同じモノを見て、同じ事を考えてる。
 まるで、あたしの心の中を見通しているかのように。
 例えば、もうすぐ町に着く。
 こんな事を思ってみる。
 今夜の宿の食事が美味しいと良いなぁ……と。
「なぁ、リナ。今日の宿の飯。美味いと良いなぁ」
 ほら、ね。
 不思議でしょ?
 魔法みたい。
 でも、ね。
 あたしも少し、解るんだ。
 例えば、ガウリイは、この後あたしの頭をかき回すわ。
「どうしたんだ?リナ。難しい顔して」
 大きな手がぬっと伸びて、あたしのゆっくりと撫でた。
 あれ?
 ちょっと違ったかな?
「頭、いじんないでって、いつも言ってるでしょう?」
 でも、次はね、絶対『そうだっけ?』って、言うのよ。
 ぽりぽり頭を掻きながら、ぱっと明るい笑顔。
「そうだっけ?」
 ね?
 やっぱ、長く一緒に居ると行動パターンは読めちゃうもんなのよ。
 でね。一つ悪戯を思いついたの。
 題して!『リナちゃんドキドキ大作戦!ちょっぴり大人になったあたしを見て☆愛のストロベリーワッフル争奪戦!ガウリイったら、お茶目さ〜ん♪』を行動に移す時が来たのよっっ!
 内容は簡単♪
 ただ単に、ガウリイが、あたしの考えを読めないように、いつもと全く違う行動をとってやろうって事。
 さて、どんな反応してくれるのか……くふふ。楽しみ。
 最近、イベント少なくて、退屈してたからなぁ♪
 あたしは隣を歩くガウリイの顔を見上げて、一人にんまりしていた。
「………リナ……その顔……」
「気色悪いっって、言うなぁぁぁぁぁっっっ!」

バキっ!

「……酷い……まだ、言ってないのに………」
 ふんだ。
 あんたの言いたい事なんて、お見通しよっ!
 はぁ……どうせ、あたしの作戦にも、解りやす〜い反応しかしてくれないんだろうな。
 ちょっぴし……寂しい。
「………ふぅ………」
「………お前なぁ……思い切り、人を殴り倒した後に、大きく溜息つきながら、遠い目なんてすんなよぉ………俺……なんか、立場ないじゃないか」
「あんたの立場なんて、最初から、全くないわよ」
「そうだと思った………」
 がっくりと項垂れたガウリイを引っ張って、あたしは町への道を、軽い足取りで歩いていった。









 宿にたどり着いて、これからがお楽しみ♪
 さて、そ〜ろそろ、作戦開始と行きますかっっ!
 万全の体勢を整えて、いざ出陣っ!
 あたしは、食堂に降りてくると、しっかりナイフとフォークを握りしめて待っているガウリイの横に静かに腰を下ろした。
 ガウリイは怪訝そうな顔であたしを見ている筈。
 ちらりと視線を走らせる。
 あれ?
 ガウリイは、ぽかんと口を開けて、呆然とあたしを見ていた。


 カランカランカラン……


 ガウリイの手から滑り落ちたフォークとナイフが、盛大な音を立てる。
 それを聞いて、やっと我に返ったガウリイの顔が、見る見る険しくなっていく。
 あれれ???
「…………リナ、部屋に戻るぞ」
 低い声と共に、大きな手が何の前触れもなく、にゅっと伸びて、あたしの手を掴んで立たせる。
 えっと?
 おっかしいな?
 何で、こんな展開?
「や……やぁよ、ご飯食べてないもん、まだ」
 ………もしかして、あたし……もの凄く変な格好してるんだろうか?
 スカート履き忘れたとか?
 慌てて、自分を点検する。
 別に変じゃないよね?
 柔らかな絹の白いスタンダードなブラウスに、淡い桜色のフレアスカート。膝小僧が出るくらいのミニ丈で、あたしの足が一番綺麗に見える長さである。
「飯は後だっっ!来いっ!」
「うっきゃっっ!」
 いきなし、まだ点検中だったあたしを抱え………って、お姫様だっこでも、小脇抱えでもない?自分の腕にあたしを座らせるような格好で、何だか足を隠すように腕が覆う。
 おやぁ?
 何故だか、百発百中のあたしの推理は、悉く外れまくり………
 おかしいなぁ???
 何がガウリイの気に障ったんだろう?
 怒られるような事してないと思うんだけど……
 あたしの困惑を余所にガウリイは、黙ってずんずん歩くと、あたしを部屋に連れ込んで、大きく溜息をついた。
 み……眉間に縦皺発見……
「………あの……ガウリイ?」
 あたしは恐る恐る口を開く。
 びくっ!
 思い切り、鋭い視線があたしに向けられた。
 げっ!何か、怖いんですけどぉ……
「……着替えろ、リナ」
 はい?
「足を出すなっ!足をっ!だいたい、なんだっっ!そのすけすけなブラウスはっ!下着の線が丸見えだぞっっ!」
 はうっっ!
 えっと……そうか。
 父親感覚なんだ。
 娘には一生修道女のように、肌を隠しまくった格好をさせておきたいっつーヤツ。
 くすくす。
 何だ。いつもと同じ反応じゃん♪
 ガウリイの行動が理解出来て、何となくほっとする。
「別に良いじゃない、このくらい。みんなしてるわよ?」
 安心したら、ちょっとむかついた。
「良くないっ!早く、着替えろよ?俺は外で待ってる」
 吐き捨てるように言って、彼は部屋を出ていく。
 一人になって、むかつきは倍増した。
 何だって、んな事言われなくちゃなんないんだろう?
 なんか、これじゃ、あたしの方が翻弄されてんじゃないっっ!
 ホントは、ガウリイをジタバタさせるのが目的なのにっっ!
 あああ、もう何だか無性に腹が立つ。
 ガウリイってば、家の父ちゃんより、厳しいんじゃない?
 別に滅茶苦茶派手な服装してるわけでもないのに……
 ふんだ。
 良いもんね。
 何が何でも着替えてやんない。
 ………でも、下着はまずいから……上にボレロ羽織って……
 よし!
 これで良いだろう。
 扉を開けるとムッツリとしたガウリイが、部屋の前に腕組みして立っていた。
「…………リナ……俺は着替えろと言った筈だが?」
 カチンっ!
「何よ、何よっっ!その言い方っっ!あたし、別にあんたにそんな事、命令される覚えはないわっ!」
 何様のつもりよっ!全くっ!ガウリイのくせにっっ!
「だいたいっ!あんたに何の権利があってっ!」
「リナっっ!」
 びくっ!
 な……何よ……そんな大きな声出さなくっても………
「………着替えないなら、部屋から出さない」
 低い声でそう言うと、有無を言わさずあたしをまた部屋へと入れ、戸を閉める。
 慌てて開こうとしたが、全くビクともしない。
「ちょっと、ガウリイっっ!開けてよっ!」
「ダメだっ!大人しくしてろっ!飯は持ってきてやるっ!」
 怒鳴り声の後、遠ざかっていく足音。
 うぃぃぃぃ………
 どうして、そんなに怖い声出すのよぉ………
 何か……変だよぉ……ガウリイ……
 ガウリイの剣幕に吃驚して、あたしは呪文でドアを吹き飛ばす事も忘れ、ただ呆然と立ち尽くしていた。
 どのくらいの間、放心していただろうか?
 不意に、力が抜ける。
 よろよろとベッドまで歩いて、その上に倒れるように腰掛けた。
 解らない。
 ガウリイが解らない。
 それがこんなに不安だと思わなかった。
 始めはちょっとした悪戯のつもりだったのに………
 いつも余裕綽々で、あたしの事なんか何でもお見通しって顔をしてるガウリイの慌てた顔を見たかっただけなのに……
 別に……怒らせたかったわけじゃないのに……
 女の子らしい格好をしたら、笑うかなって、吃驚するかなって、もしかしたら、可愛いって言ってくれるかなって。
 ちょっとそう思っただけなのに………
 何で、怒っちゃうのよ……ガウリイ……
 あたしには、全くガウリイの怒りの原因が解らなかった。
 こつこつこつ。
 近づいてくる聞き慣れた足音。
 思わず、硬直するあたし……
 って、何で、あたし……ガウリイを怖がってるの?
 がちゃり。
 ドアが開く。
 大きなトレイに、優に十人前はある食事。
 二人分?
 彼は黙って、それをテーブル乗せると、ベッドの側へやってきた。
 すっと手が伸びて、スカートを直す。
 さっき、座った時に、めくれていたスカート。
 あんまり自然な動きだったので、足に触れたガウリイの手も気にならない。
「………ガウリイ?」
 彼は視線だけこちらに向けて、トレイごとテーブルをあたしの前に移動させ、自分は向かいの椅子に腰を掛けた。
「ガウリイってば」
「さぁ、食おうぜ?俺、メッチャ腹減ってんだから」
 にっこりと、本当ににっこりといつもの優しい笑顔。
 あれれ?
 怒ってたんじゃあ?
「何してんだ?食わないなら、食っちまうぞ?」
 言うが早いか、目の前の食べ物をパクつき始める。
 思わず、拍子抜けしてしまう。
 一体、さっきまでの剣幕は何だったんだろう?
「………あんた、一体、何考えてんの?」
 思わず、溜息混じりのセリフが漏れた。
「何って?」
 憎らしいくらい、いつもの顔。
「さっきまで、あんなに怒ってたくせにっ!」
 怒鳴ったあたしの顔を見て、彼は笑い出した。
「何がおかしいのよっっ!」
 ああああ、もう全然っ!解んないっっ!
 一頻り、お腹を抱えて笑った後に、ガウリイは言った。
「すまん。……えっと、イヤ、怒ってたわけじゃないんだ」
 へ?
 怒って無かった?
「そのぉ……ん〜何て言えば良いのか解らんが、怒っちゃいないぞ?」
 ばつの悪い笑顔で、いつものように辿々しく言い訳してる。
 でも………
「……どう見ても、怒ってたわよ、あんた」
 そう。
 今までに見たこともない程、怒っていた。
 あたしが盗賊虐めに行くのを止める時よりも怒っていたように思う。
「あたしがあんたの事で間違うわけないわ」
 思わず、するりと出てしまった言葉。
 きょとんとしたガウリイと目が合う。
「いや……えっと、つまり……ほら、あたし達も長いつきあいだし……そのくらいの事は解るって言ってんのよ」
 なんだか、本当の事を言ってるのに、言い訳してるみたいだ。
 ガウリイってば、きっと変に思ってるに違いない。
 顔を上げると、また目が合った。
 あれ?
 笑ってる?
 しかも、極上の笑顔だ。
 あたしは何だか落ち着かなくなって、もじもじしてしまう。
 今日のあたしのガウリイ予想は、全く外れてばかりだった。
 そんなあたしの頭を、ガウリイはゆっくり撫でた。
 いつものように……イヤ、いつもより優しく……
「そうだな。リナに隠し事出来るわけないよな」
 隠し事?
 隠し事って一体、何?
 ガウリイがあたしに隠し事するなんて、思った事も無かった。
 わざわざ言わない事はあっても、絶対隠し事なんてしないって信じてたのに。
 あたしの機嫌は、目に見えて悪くなった。
「何よ……あんた、隠し事なんてしてたの……?」
 ぼそりと言いながら、彼の手を払いのける。
 ガウリイはまた小さく笑う。
 思わず、彼の顔を睨み付ける。
 其処には、全く悪びれてない笑顔。
 そう包み込むような、いつも見ている彼の顔。
 どうして?
 どうして、そんな表情で、隠し事があるなんて、言えるの?
 解んない。
 あたし、ガウリイが解んなくなっちゃったよ。
 泣き出しそうになってる自分に気付く。
 ちょっとした悪戯で、手酷いしっぺ返しをくらっていた。
 とうとう、我慢できなくなって俯くあたし。
 ガウリイの顔見てると、余計、混乱しちゃう。
「一つだけ。リナに隠し事してるんだ、俺。どうしても、きっかけが無くて言えなかった事。だけど、もう隠す自信ないみたいだ」
 何?
 優しい声。
 でも、何を言ってるの?
 そっと彼の顔を盗み見る。
 やっぱり、いつもと同じ、綺麗な笑顔。
「リナ……俺さ。いつもお前を見てる。だから、お前の考えてる事は、だいたい解ってるつもりだ」
 真っ直ぐな視線はあたしを捕らえて離さない。
 そう、いつも、彼の視線はあたしを追っていた。
 知ってる。
 そんな事、知ってたよ。
 あんたがいつもあたしを見てる事くらい。
 だって、顔を上げると必ず目が合ってたもん。
 だから……言葉にしない、あんたの事、解ってるつもりだった。
 でも、今は解んない。
 ガウリイは立ち上がると、あたしの横へ………ベッドに腰掛ける。
 膝の上のあたしの手をそっと包み込むガウリイの大きな手。
 何だか、恥ずかしくなってくる。
 ガウリイがガウリイじゃないみたいで……
「なぁ、リナ。お前、何で俺の思ってる事が解るんだ?」
 え?
 ん〜と。
「多分、いつも一緒に居るから」
 だよね?
「いつも一緒に居たって、解らないヤツは解らないだろう?」
 それは……その通りだわ。
 うん。そう思う。
 あたしは素直に頷いた。
「リナが俺の事を解ってくれるのは、リナが俺をいつも見ていてくれるからだ。違うか?」
 えっとぉ……
 そう……かもね?
 そうなんだ。意識した事ないけど……あたしガウリイの事、いっつも見てる。
 だから、一日に何度と無く、目が合っちゃうわけで……ガウリイだけが見てるなら、それにあたしが気付くわけもなく……
 かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!
 その事に気がついて、一気に頭に血が上った。
 あたし……ガウリイと同じように、彼の事をいつも見つめてたわけ?
 なんか………恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!
 あれ?でも……何で、恥ずかしいんだろう???
「同じように、俺もリナを見ているから、お前の事は解ってる。解った上で、隠していた事があるんだ。もう少しリナが大人になったら、言おうと思っていた事だけどな」
「あたしを解った上で、隠していた事?」
 オウム返しに問い返す。
 ガウリイは何を言い出すんだろう?
 検討もつかなくて、狼狽える。
 こんなガウリイ………あたし、知らない。
 そんなあたしを見て、彼は言う。
「すまん。怖がらせてるなぁ……だから、言えなかったんだが……」
 苦笑しながら、また、あたしの頭を撫でる。
 確かに、ガウリイは今のあたしの気持ちを理解しているんだろう。
 あたし自身にも、よく解ってないあたしの気持ちを……
「少し、長くなるかも知れんが、俺がお前を見ていた理由と、さっき怒った理由を聞いてくれるか?」
 ガウリイは、笑ってる。
 でも、真剣だ。
 それが解るから、あたしは頷く。
「初めは、目が離せなかった。心配でな……」
 ゆっくりと彼が語りだした。
 あたしの大好きな落ち着いた声で……
「無茶ばかりする小さな女の子を放っておけなかった。だけど、お前さんは、只の小さな女の子なんかじゃ無かっただろう?滅茶苦茶強い魔道士だった。俺、ホントに吃驚したんだぜ?お前が魔王を倒した時」
 大きく目を見開いて、あたしの顔を見つめる。
 戯けた表情に、ふっと笑みがこぼれる。
 それを見て、安心したように、ガウリイはあたしの膝をぽんぽんっと叩いた。
「でさ。それから、本当に目が離せなくなっちまった。次は、どんなすごい事をするんだろう。はっきり言ってわくわくしてた。だがな、それと同時にお前が怪我をする度に、死にそうな思いもしたよ」
 少し、苦しそうに眉を寄せる。
 まるで、自分が死にかかっているように……
「心配で息が止まりそうになった。……そんな時に気づいたんだ。ああ、俺はリナを失うと生きていけないんだって」
 へ?
 あんまり、穏やかにすんなり言われたので、思わず聞き逃しそうになったけど……
 今のって………もしかして………
「俺はな。リナを愛してる。だから、片時もお前から目が離せない。これが、お前をいつも見つめている理由さ」
 ガウリイは、まるで今日の天気の話をするように、軽くそう言ってのけた。
「そして、これが俺の最大にしてたった一つの、お前への隠し事だ」
 顔が上げられなかった。
 どうしても……
 何だか、心の中をぐちゃぐちゃに混ぜくられたみたいに、落ち着かない。
 居心地が悪い。
「………泣くなよ……リナ。………そうなりそうだったから隠してたんだぞ?俺は」
 ぽたりと、膝の上で知らず握りしめていた拳の上に、水滴が落ちる。
 あたし泣いてる?
 どうして?
「解んない。ガウリイ……解んないよ……じゃ、どうして、今言うの?そんな事……あたしはどうしたら良いの?」
 自分でも、情けないくらいの涙声。
 ぐいっと手の甲で、涙を拭う。
 その手をガウリイの大きな手が取った。
「あのさ。ただ俺が我慢の限界だったっつー事なんだ。お前が今日スカート履いて降りてきた時に解ったんだ。お前はもう子供じゃない。だから、決心した。お前に隠し事はよそうって」
 顔をあげるとガウリイのいつもの笑顔。
 いつもと同じ笑顔。
 本当に、そんな事を言ってるとは思えない程、いつもと一緒………
 ガウリイにとって、それは突然の事ではなく、日々思っていた事だと言う事が、あたしには解る。
「……じゃ、なんでスカート……怒ったの?」
 あたしの質問に、ガウリイは困ったように、頭を掻いた。
 それから、そっぽを向いて、照れたように言った。
「お前のスカート姿が……あんまり可愛いから……他のヤツに見せたくなかった」
 ぶっきらぼうな物言い。
 でも、嘘じゃない。
 解る。
 だって、ガウリイの事を一番よく見ていて、知っているのは、あたしなんだから。
 そして、そう言って貰えた事がとても嬉しかった。
「………ごめんな。変な事、突然言って。でも、それでお前が変わる必要はないから。お前はお前のペースで進めばいい。いつか、他の男を好きになって、俺から離れていくのか、このまま俺の側に居てくれるのか……今すぐに決めなくて良いから。ゆっくり、考えてくれよ。お前の答えが出るまで、俺はずっと側に居る」
 あたしは一番恐れている事を口にする。
「じゃ……まだ一緒に居てくれるの?」
「当たり前だろ?それとも、こんな風にお前の事を想っている俺は嫌いか?」
 あたしは首を横に振った。
 ガウリイはまた、晴れた日の青空のように笑う。
「じゃ、今まで通りで良いよ。俺はいつもお前を見てる。お前もいつも通り、俺を見ててくれくれれば良い」
 今まで通り?
 そのまんまで良いの?
 何にも変わらない?
「何にも変わらないで、お前はそのままで良いんだ。俺が好きなのは、ありのままのお前なんだから」
 また、ガウリイはあたしの気持ちが解ってるように、そう言った。
 変わらなくて良い。
 いつか、自分の気持ちに整理がついたら……
「いつか、お前の気持ちに整理がついたら、その時に教えてくれ」
 また、ぱふぱふっとあたしの頭を叩いて、ガウリイはそう言った。
 きっと、その時が来たら、ガウリイには何も言わなくても解って貰える気がする。
 そう思ったら、何だか肩の荷が下りた気がした。
「よしっ!もう、この話は終わりっ!飯にしようっ!腹減って死にそうだ、俺」
「うん」
 そうして、何事も無かったように、あたし達の関係は続く。
 いつか……たぶん、そう遠くない未来に、あたしはガウリイを喜ばしてあげられるだろう。
 そう遠くない……いつか。
 ガウリイは、そんなあたしの気持ちが解ってでもいるように、いつもの優しい視線で、あたしを見つめてくれていた。
 でも………ちょっとずるい……
 ガウリイはあたしの気持ちが、あたしよりも良く解ってるみたいなのに……どうして、あたしの推理ははずれちゃうんだろう?
 それが、あたしには謎だった。
「リナより、長く生きてる分だよ」
 ガウリイは笑いながら、食後のコーヒーを飲んでるあたしの頭を撫でた。
 ………………………
 もしかして、こいつテレパシーでも使ってるんじゃあ?
 全てを見通す蒼い瞳は、くるくると瞬いて、笑った気がした。


end.


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