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ねぇ、気付いてる? 宿屋の一階、夜ともなればかなりガラの悪くなる、そんな場所。 流れの傭兵だとか、宝探し屋だとか。 つまりはあたしたちとよく似た人種が集まる、そんな場所に、あんたがしぶい顔するの分かってて 降りてく理由。 「どーしてそう無防備なんだ・・・・・おまえさんは・・・・・・・・・・」 ため息みたいに言われたせりふ。 ほんとにあんたってくらげね。 あたしが今何歳だか知ってて、そーゆーこと言うの? わかんないわけないじゃない。 もう十八なのよ? 異性に夢見る年じゃあないのよ? 自分で言うのもなんだけど、かなりいいセンいってるあたし。 夜中に、取った部屋からおりてくるあたしみたいな女を見て、男がなに考えるかなんて。 火を見るよりも明らかでしょう? でも。 そんなセリフを吐くってことは、あんたが少なからずあたしを意識してる証拠。 ま、男って人種は、好きじゃあなくてもイロイロできちゃうらしいけど。 それにしたって、保護者だとか言われちゃって完璧に意識もされないよりはまし、かな。 ナンパされて、ご飯につられてついてくふりするのも。 知らないフリで繁華街歩くのも。 露出度高いドレス着たりしてみるのも。 「・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・・・・・・」 いっつも、何か言いたそうにして、でも何も言わない。 馬鹿ね。 ぜんぶ、あんたへのあてつけに決まってるでしょ? 子ども扱いしてくれた罰よ? 自業自得なんだからね。 「ガウリイ」 無垢な笑みなんか浮かべて、あたしはすでに開いているドアを軽くノックして見せた。 「入っていい?」 「・・・・・・あけてから聞くなよ」 「ごめんごめん」 まだ保護者でいたいなら、と、お望みどおりの子供の笑顔を浮かべてやる。 こいつの努力を見ないうちは、おとなになんかなってやらないわ。 「何か用か?・・・・・こんな時間に」 「別にー?」 意味なんかない。 でも、理由はある。 心のなかでくすくすと笑いながら、あたしはまじめな顔でつぶやいた。 「理由がなきゃ、きちゃいけない?」 「・・・・・・・・もう寝ようかなーと思ってたんだが」 「あたしはまだ眠くないの!」 「・・・・・・・・・・・おいおい」 わがままなせりふに、ガウリイは苦笑を浮かべた。 けどもちろん、それだって計算のうち。 忘れてるみたいだけどね。 あたし、頭いいのよ? 駆け引きなんか、お手のものだわ。 「ここからしばらく行ったところにね、おいしい料理食べさせてくれるレストランがあるのよ」 「へぇ。じゃあ、ここをでたら、その店のある町に行くのか」 「そーしよっかなーと思ってる。珍しいくらい最近は平和だしねー」 「ほんとにな」 「ま、嵐の前の静けさってやつなんでしょうけど」 「おまえさんといると、ほんとに退屈だけはしないよなぁ・・・・・・・・・・」 「いーじゃない。長く平和やってると、ありがたみも薄れちゃうわ。ほどほどの刺激は必要よ」 「・・・・・・・・・・・ほどほど、ねぇ」 「何か言いたそうね?」 「いーや、べつに」 ねぇ。 あたしほんとは知ってるの。 風呂上りの姿で、男の部屋になんかのこのこやってきたあたしに、 あんたが困惑したような表情で、耳をすこしだけ赤く染めてること。 どうして我慢しちゃうのかな。 あたしがまだ子供だと、本気で信じてるせいなのかな? だとしたら、そう見せてるあたしにも責任はあるんだろうけど。 でもだからって、こっちからアプローチするってぇのも、なんか悔しくってやなの。 堂々巡りね。 ねぇ。 それでも。 期待していいかな? いつか、ちゃんとしたことばをくれること、その日が来ることを。 それまでは。 子供のふりして、ときどきせわしなげに、あんたの理性を突っつきながら。 ゆっくり見つめててあげるから。 夜もふけて、そろそろ眠くなってきたから、とあたしが彼の部屋を出たその後に。 ガウリイがつぶやいたせりふを、だからあたしはいつも聞けないでいる。 「まだ・・・・ふんぎりがつかないんだ」 ふぅ、と吐かれる息は重い。 「もうすこしだから」 だからそれまで、子供のフリで待っててくれよ、と彼はつぶやく。 これじゃあどっちが子供だか、わかりゃしないな、と苦笑しながら。 そんな、ことの顛末を知らないあたしと。 妙にかたくななガウリイと。 ふたりの行き着く先がどこになるのか。 それはきっと、今のところは。 神のみぞ、知るーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<了> |