Desire

作:千菊丸さん



Part7.本当の気持ち

晴明と弓月との関係は、ここ数日悪化していた。
目が合えば睨み合い。口を開けば罵り合い。
そんな状態が毎日続いていた。
美那子は弓月と晴明との間で板挟みになり、疲れ果てていた。
(もう学校へは行きたくない)
美那子はその内に寝込んでしまった。
もう2人がいがみ合うのは見たくない・・。
美那子は回復しても、登校するのは早朝と夕方にあるクラブだけ。その他の時間は、兄達に勉強を教わっている。
両親も、兄達もそんな美那子の気持ちを知ってか、何も言わずにただ美那子を見守っていた。
そんなある日。
美那子はいつものように早朝の練習を終え、帰り支度をしているころだった。
美那子はさっきから視線を感じていた。振り向くと、美那子の天敵、兼山りんがいた。
「へぇ、クラブには出て授業には出ないんだぁー。」
美那子は無視した。りんは続けた。
「大江君とこの前、一緒に帰っちゃった。」
ビクッと、美那子の背中が震えた。りんは更に続けた。
「大江君ね、私みたいなのが本当は好きなんだって。渡辺さんとはお情けで付き合ってるんだって。
 あんたなんか嫌いだって。」
(本当なの弓月、もし本当なら・・何であんなことしたの?あれも遊びだったの?)
「いい気味ね、本当。」
りんはほくそ笑んだ。
美那子は、黙っている。
「あら大丈夫ぅー、いい相手でも探してあげよっかぁ?」
「・・・・ふざけんな!」
美那子はそう言ってりんを投げ飛ばした。
「あんたのいうことなんか誰が信じるか!このホラ吹き女!」
美那子は教室を後にした。
(剣道部に行って、直接弓月に聞こう・・弓月はあんな風に思っていない・・)
自分に言い聞かせながら、美那子は講堂へと走った。
講堂には、いつもの風景。練習する剣道部員。その中には、弓月もいる。
「弓月!」
美那子は弓月に声を掛けた。だが、弓月は振り向かない。
弓月の傍らに、見知らぬ少女がいた。
フランス人形のような、金の巻き毛と、青い瞳。白い肌。
弓月はその少女と楽しそうに話していた。
(弓月こっちを見てよ・・あの子は誰なの?ねぇ?)
その時。
弓月と美那子の目が合った。
「美那子。」
「ゆ、弓月。」
美那子の目に、自然と涙が溢れた。
「聞きたいことがあるの。」
「何?」
少女は、美那子に微笑んだ。
美那子は、少女に微笑み返した。
「兼山と一緒に帰ったんだって。」
「ああ。」
「その時、本当は兼山みたいな奴が好きで、あたしとはお情けで付き合ってるんだって?・・・あたしのこと、嫌い・・なんだって・・本当なの、それ?」
弓月は、黙っている。うつむいたまま、黙っている。
答えたのは、例の少女だった。
「ユズキさん、あなたのこと好きです。とってもっとっても愛してます。だから、あのオンナの言う事、
 気にしちゃイケナイネ。」
「ジャクリーヌ!」
「すいません、つい・・。」
弓月は美那子に向き直った。
「ジャクリーヌの言った事は本当だ。美那子。」
「そう・・それ聞いて安心した・・。」
美那子は弓月にもたれた。
「あたしね・・ずっとねずっとね、つらかったの・・あんたと晴明・・いや野村先生といがみ合うの見て・・ 
 喧嘩してそれ止めて、どっちの肩持つか・・迷って・・・ずっとつらかったの・・」
「美那子・・お前そんな風に・・」
弓月は前に、総司の言ったことを思い出した。
『美那子を大切にしてやって下さいね。あの子は強がっているように見えても、本当は深く傷ついているんです。』
そうだったのか。
あれは、そういう意味だったのか。
美那子、ごめん。
気づいてやれなくて、ごめん。
辛かっただろう。
苦しかっただろう。
でも、もう1人で悩まくてもいいから。
もう、安心してもいいよ。
弓月は、美那子をぎゅっと抱きしめた。
「いつまでも、俺がいるから。」
美那子の耳元にそう、囁いた。



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