Desire

作:千菊丸さん



Part5.波紋

閑静な住宅街。その一角に「渡辺」の表札がかかる、日本建築の家。
その家の台所で、この家の長女である美那子は夕食のカレーの支度をしていた。
(歳三兄ちゃんの分だけ、唐辛子をふんだんに入れて、激辛にしちゃえ。)
美那子は夕食の食事当番である。
歳三にいつもいじめ抜かれてきた美那子にとって、これは復讐する絶好の機会であった。
歳三の分のカレーに、唐辛子を入れる美那子。ほくそ笑んでいる。
「ついでにタバスコとわさびも入れちゃえ♪」
楽しそう・・。
そして夕食の時間。
「美那子の作ったカレーはうまいなぁ。これで明日の現場もIt`s O.K!」
そう言ったのは長男で大工の源三郎。
(あんたは長嶋監督か?)
ツッコミたい気持ちを抑え、愛想笑いをする美那子。
そして遂に、歳三の番。
歳三はカレーをうまそうにガツガツ喰っている。
急に、歳三が苦しみ出した。
「か、辛い〜!み、水ぅ〜うっ!」
「どうした、トシ?」
「きゅ、急に腹が・・」
美那子は笑いをかみ殺している。
実はあの時、わさびとタバスコのついでに、下剤を入れたのだった。おい、汚いぞ、食事時に・・。
歳三は慌ててトイレに駆け込んだ。
「覚えてろよ・・美那子のやつ・・」
歳三、哀れ。
夕食が終わり、美那子は日記をつけようと、2階の自分の部屋へ向かおうとした。
「美那子。ちょっと来なさい。」
総司が美那子に手招きをした。
「なあに、総司兄ちゃん?」
「あなた、帰りが遅かったでしょう。何をしてたんです?」
「な、何って別に・・」
「じぃ〜。」
総司は美那子を見つめた。
「な、何?」
ぐにゅ。
突然美那子は総司の胸を触った。美那子は総司を殴り飛ばした。
「何すんのよっ!いきなり!」
「だ、だって・・」
総司はティッシュを鼻の穴につっこみ、こう言った。
「美那子はもう・・でないんですね。」
「なっ、なんっ・・」
美那子は赤面した。脳裏にあの時の場面がまざまざと蘇る。
総司はそんな美那子を見て、こう言った。
「さあてと、歳三兄さんに言わなくっちゃ。お赤飯炊こうとっ♪」
「お、お願いっ!それだけはやめて!」
美那子は総司の着物の端をつかんだ。
歳三には、絶対に知られたくない。もし知られでもしたら、あの歳三の事だから・・
総司は、そんな美那子の気持ちが判るように、美那子を抱きしめた。
「大丈夫。言いやしませんよ。その代わり・・」
「その代わり?」
「昨日、新しいケーキ専門の喫茶店が家の近くにオープンしたんですよ。明日連れってて下さいよっ!」
総司はこう見えても甘党だ。誕生日ケーキを丸ごとたいらげたり、家中に隠してあるクッキーやチョコを全部
食べてしまうのに、太らない。虫歯もない。この事を、近所の者は、「渡辺家の七不思議」と呼んでいる。
「いいよ、わかった。明日放課後に。」
そう言って、美那子は自室で眠りについた。
ーその頃ー
人里離れたところにある大きな屋敷。辺りには霧が立ちこめ、庭には黒いバラが咲いている。
シャンデリアと英国製の家具や雑貨に囲まれた応接間で、弓月と花月は紅茶をすすっていた。
「弓月や。」
花月は弓月の傍へ寄った。弓月は怯えた。
「怯えずともよい。話をしたいだけじゃ。」
「あ、兄者。」
花月は執事にベルギー産の高級チョコを持ってこさせた。それを花月は一気にほおばる。
「ところで。」
花月はハンカチで口元を拭き、本題に入った。
「あの娘と別れよ、弓月。あの娘はわが鬼族にとって厄介な存在じゃ。」
「俺は美那子と別れない。」
花月は勢いよく立ち上がった。その拍子に、安楽椅子がひっくり返った。
花月は怒りに燃えていた。いままで兄に逆らうことのなかった弟が、初めて兄に、この兄に逆らった。
しかも弟はあの忌まわしい娘と・・
「兄者、信じてくれ。」
「ならぬ、ならぬぞ。ここまで大事に育ててきたのは誰だと思うておる!」 「兄者の言いなりになっただけだ。」
花月の堪忍袋の緒が切れた。花月は弓月を鞭で打ち据えた。
弓月は、痛みに耐えた。兄に逆らったのは今回で初めてだ。
見かねた執事と婆やが花月と弓月を引き離した。
「旦那様、旦那様おやめ下さい!」
「ええい離せ、離せというに!」
やっとのことで2人はそれぞれの部屋に入った。
婆やは弓月の背中の傷を見た。
透き通るような白い背中に血が滲んでいる。
「ああ坊っちゃま、可哀相に。」
「兄者の気まぐれは、いつもだから。」
「でも・・」
「あんまり深くないから・・ッ」
婆やは傷の手当をした。
「旦那様、今日はお体の調子が悪かったので機嫌が悪かったのですよ。ああ、これでは跡が残りますね。」
「すぐ消える。それに髪で隠せるから。」
「では、私はこれで。」
婆やが部屋を去ると、弓月は床に就いた。
翌日、美那子と弓月が登校すると、周りの視線が2人に集中している。
どうやら何かあるらしい。
(何だろ・・嫌な予感がする・・。)
教室で自分の席についても、針のような視線を感じる。
「美那子・・これ。」
美那子の親友・雪村さなえが美那子に1枚の写真を見せた。
「・・・・っ」
その写真は、紛れもなくあの時の写真だった。
「これ、みんなの机の中に置いてあったの・・私、他の写真焼却炉に捨てたけど・・村山君が・・」
「村山?あいつ秋山の取り巻きじゃない。最悪・・。」
「美那子、私は気にしてないよ。みんな面白がってるだけだって。」
「うん・・さなえ、知らせてくれてありがとう。」
「じゃね。頑張って。」
美那子は麗一の元へ歩み寄った。
「村山。」
「あれぇ渡辺さーん、来てたの?」
「当たり前でしょ。」
「ネガ欲しいの、だったらここにあるよ。」
麗一は机を指さした。美那子はネガを慎重に取った。
「これは預かっておく。」
と言って美那子は麗一のもとを去った。美那子は知らなかった、若王丸と麗一の企みを・・。
昼休み。
美那子はネガを焼却炉に捨てた。炎に包まれ、灰になるネガを、美那子はじっと見つめていた。
「ひでーことすんな、村山。猿より劣るぜ。」
遮那王は美那子から話を聞き、怒りまくっていた。
「あんな奴ら、ほっとけばいいわ。相手なんかしてたら、時間のムダよ。」
「雑魚は適当にあしらっておけばいい。」
弓月はあんまり気にしていないようだ。
遮那王は呆気にとられた。こいつら、冷静だなぁ・・。特に弓月は。
「でもね、」
美那子は周りに聞こえないように声をひそめた。
「本当に恐ろしいのは、親分よ。」
「秋山?」
「ええ、あいつまだあたしに負けたこと恨んでいるみたい。だから遮那王、あんたも油断しちゃ駄目よ。あいつは
しつこいから。それと、村山も。あいつは根がしぶといからね。」
「おうともよ。」
「美那子、男子はともかくとして女子に気をつけろ。」
「うん。特に兼山はね。」
昼休みが終わり、遮那王、弓月、美那子はそれぞれ各自の席についた。
(絶対に負けるもんか・・絶対に!)
美那子はこぶしをぎゅっと握りしめた。



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