Desire

作:千菊丸さん



Part.40 家出

それから美那子はホテルから立ち去った。
「送っていこうか?」
「ううん、いい。まだ7時だから。」
じゃあね、と言って美那子は手を振り人混みの中に消えた。
弓月はその時、少し胸騒ぎがした。
だが気に留めなかった。
弓月はホテルの部屋に戻り、眠りについた。
弓月は鬼に変化せず、無事に朝を迎えた。
その後彼はホテルを出て帰宅した。
そこで彼を待っていたものは。
花月の強烈な平手打ちだった。
「どこへ行っていた!心配したぞ!」
「兄者、話を・・」
「またあの忌まわしい娘と不埒な事をしていたのだろう!何故、何故あの娘と別れぬ?別れぬなら俺がどんな手を使ってでも・・」
「兄者、俺達は結婚する。」
「何?」
「結婚するんだ。美那子と約束した。」
花月は弓月を思い切り張り飛ばした。
「結婚だと?たわけが。許さぬぞ。」
「へえ、そうかい。」
「なんだその口の訊き方は。出て行けっ!」
「ああ、出ていくよ。こんな家、二度と戻ってやるもんか!」
その頃美那子は読書感想文を書いていた。
「はあー、やっと終わった。」
ピーンポーン
美那子がドアを開けると、そこにはずぶ濡れになった弓月が立っていた。
「どうしたの?」
「兄者と喧嘩して、家出してきた。」
それ以上美那子は訊かなかった。
両親と兄達は、突然病で倒れた祖母の面倒を見るために長崎へと向かっていた。
「とりあえずシャワー浴びて。」
それから弓月は水気を含んだ服を脱ぎ、シャワーを浴びた。
「どう、熱くない?」
美那子が風呂の戸越しに声をかける。
「ああ。」
いつも俺に優しくしてくれる美那子。
なのに。
弓月は先ほど兄が言った事を思い出した。
“またあの忌まわしい娘と不埒な事をしていたのだろう!”
兄は美那子のことに触れるといつもそう言う。
何故兄は美那子の事を目の敵にするのだろう?
弓月は複雑な思いで浴室から出た。
「浴衣は総司兄ちゃんが昔着ていたやつだけど、大丈夫?大きすぎない?」
「少しダブダブだけど・・大丈夫。」
弓月はいきなり後ろから美那子をきつく抱き締めた。
「弓・・月?」
「愛してる、美那子。」
弓月はそう言って美那子の口を塞いだ。
「弓月?」


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