Desire

作:千菊丸さん



Part2.兄弟&兄妹

「はあ・・。」
ここは、放課後の教室。誰もいない空間で、ため息がむなしく響く。
大江弓月は、悩んでいた。この少年は、思い悩む姿も美しい。
というのも、兄の花月が明日、この学校の視察の為にやって来るのだ。
弓月は、赤ん坊の頃から花月によって育てられた。花月は厳しく気性が激しい性格で、幼い頃から弓月は外で遊ぶこともなく、自分の部屋で暇をつぶしていた。また、学校に上がる年頃になると、花月が自ら勉強を教えた。問題がなかなか解けないでいると、花月は必ずヒステリーを起こした。
2人に両親は、いない。飛行機事故で死んだ、流行病で亡くなった、保険目当てで殺された・・など噂が立ったが、未だに本当のことは判らない。多分、生きているかもしれない。
花月の他に、兄弟はいなかった。弓月が最も尊敬し、また恐れているのは花月だった。
弓月は密かに美那子を想っていた。美那子がいると、なんだか心が安らぐのだ。美那子がいないと、心にぽっかり穴が開いたようになって、胸が苦しくなる。弓月はまたため息をついた。
―その頃、美那子は兄の歳三とTVのチャンネル権の事でもめていた。その横で、総司と母の千恵子が何かを話していた。
「今日は俺の番だっ!どけ美那子!」
「うるさいバカ兄貴!」
美那子はそう言いながら、兄の手からリモコンを奪い、メロドラマの再放送を見た。
歳三はその横からタックルをかました。
美那子は右フックで反撃した。こうなるとドラマどころではない。
2人は格闘ゲームさながらに戦いを繰り広げた。歳三は美那子を壁に投げ飛ばした。美那子は立ち上がり、歳三を背負い投げた。すると歳三は木刀を持って応戦してきた。美那子は靴べらの先を歳三の頭に振りかざした。歳三は木刀で美那子の靴べらを弾き飛ばした。靴べらは真っ二つに折れた。する歳三の頭上に扇子が飛んできた。
「おやめなさいよ、2人共。」
扇子を投げたのはこの家の次男、総司だった。どうやら2人が喧嘩するのを見かねてやったようだ。
「だって総司兄ちゃん〜」
「はいはい、話はあとで聞きますよ。」
ピンポーン
「おや、誰かが来たようですね。」
そう言って総司は玄関のドアを開けた。弓月が立っていた。
「弓月!どうしたのこんな時間に?」
美那子は歳三を突き飛ばし、弓月に駆け寄った。すると弓月は、顔を真っ赤にした。
なにやら言いたいことがあるらしい。
「あ、あのっそのっ・・実は・・」
「なあに?」
美那子は弓月の顔を覗き込んだ。弓月は更に顔を真っ赤にした。
「兄者に・・お前を・・紹介・・したい・・。」
今度は美那子は真っ赤になる番だった。
弓月が弓月のお兄さんに私を紹介する・・ってことは・・
弓月は真っ赤になってうつむいた。どうやら照れているらしい。美那子は悟った。
「あん?何だこいつ。」
歳三が美那子を押しのけて弓月に歩み寄った。どうやら弓月に興味があるらしい。
総司は何やら嬉しそうにしている。
「何だ?どうした総司?」
混乱する歳三。
「兄さん、良いニュースがあるんです♪」
「・・・ってぇことはおめぇ・・」
歳三は美那子と弓月を交互に見た。その目は険しい。
「私の彼氏でーす!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ね、良いニュースでしょう?何とか言って下さいよ〜、あっ、もしかしたら照れてるんですか?
 可愛いなぁ♪」
「やかましい!俺の耳元でごちゃごちゃ言うな!美那子ーっ!」
どうやら歳三は怒っているらしい。
「なあに、何か用?」
「俺は認めねぇぞ!こんな奴!」
「別にいいもん、兄ちゃんに認めてもらわなくても。」
「このっ・・」
「何よ。」
弓月は歳三に見覚えがあった。歳三は、弓月が所属している剣道部の師範だった。
よりにもよってこの人が美那子の・・
もう、考えたくなかった。
「やれやれ、大人げないなぁ兄さんは。」
いつの間にか弓月の傍らに総司がいた。歳三と美那子はまた争っている。
「あれでも美那子の事心配してるんですよ。だから」
総司は弓月に向き直った。弓月を真っ直ぐに見ている。
一瞬背筋がゾクッとしたのを弓月は感じた。
「美那子をおねがいしますね。あの子は強がってるだけで本当は傷ついてる所もあるんです。
 大事にしてやって下さいね。さもないと・・」
(こいつ、何者?)
弓月は総司に威圧感を感じた。自分の兄が時折見せるものと同じ。
「妹を傷つけたら許さないから。」
そんな声が聞こえてきそうな気がした。
弓月は総司の迫力に押され、「ああ。」と答えた。
(侮れない・・)
「さもないと、あなたの髪を坊ちゃん刈りにしますよ♪」
弓月は拍子抜けした。



Part.1へ戻る / 貰いモノは嬉し!へ戻る