Desire

作:千菊丸さん



Part15.月光

美那子はプールで練習していた。
「渡辺、またタイム伸びたな。」
「ありがとうございます。」
「この調子で頑張れ。」
美那子はまたプールへと戻っていった。
それを他の水泳部員が遠巻きに見ている。
その目には嫉妬と憎悪が含まれている。
彼女たちは美那子達と同じ1年。
だが、彼女たちは補欠。
美那子はレギュラー。
同じ頃に入部したというのに、レギュラーになれたのは美那子だけ。
何故あの子だけ・・
悔しい・・
憎い・・
そんな彼女たちの気持ちが、美那子にひしひしと伝わってくる。
(あなたたちの努力が足りないのよ。)
美那子は内心、彼女たちを見下していた。
美那子が水泳を習い始めたのが幼稚園の頃。
その頃は水に触れることもできなくて、苦労したっけ。
だがその内に身体が水に慣れてきた。
小学校の頃、ある街の水泳大会で優勝した。
中学校の頃も大会で優勝した。
美那子は自分を誇りに思った。
他の部員の嫉妬など、いつも気にしなかった。
だが、今日は違った。
美那子がプールから上がり、更衣室へ向かおうとした時―
「ちょっといい気になってんじゃないの?」
補欠の1人が美那子につかかってきた。
美那子は無視して、通り過ぎようとした。
だが彼女は美那子にからんだ。
先輩が慌てて飛んできた。
「何、どうしたの?」
美那子はいいえ、別にと言ってその場を去った。
これだけでは終わらなかった。
翌日、図書室で本を借りようとしていると、昨日の補欠が近づいてきた。
「何、何か用?」
彼女は答えない。
「私に嫉妬してるの?でも単にあなたの努力不足よ。」
彼女の顔が真っ赤になった。
「彼を返してよ!」
彼女は叫んだ。
「彼?」
「そうよ、転校してきた・・」
「ああ、弓月の事ね。」
「気安く呼ばないで!彼はあたしの彼氏だったのよ!」
「でも別れたんでしょ?じゃあ関係ないわね。」
「関係あるもの!」
彼女は更に顔を真っ赤にした。
「だって、彼と・・・したんだから・・」
美那子は彼女を見た。彼女は続けた。
「あたし今、妊娠してるの・・。」
(ぬぁにぃ?)
美那子、あ然。
美那子は彼女を体育館裏に連れていき、話を聞いた。
「で、今何週目なの?」
「4週目。」
「馬鹿!何で避妊しなかったのよ!」
「だって・・」
「だって?」
「気持ちいいもん。」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「お金、貸してくれる?」
「堕胎するのね。だったらあげるわ。」
美那子は怒りを通り越して、あきれていた。
結局美那子は彼女に堕胎費用を渡した。
「待って・・」
「何?」
「1人じゃ恐いの・・」
「1人で行け。」
美那子は冷たく言い放ち、帰路についた。
後日。
美那子が教室に着くと、さなえが美那子の耳元に囁いた。
「昨日、C組の羽山かずみさんが子供、堕ろしたんだって。」
(やっぱり)
「昨日産婦人科に行くの、F組のユキちゃんが見たんだって。」
「ユキちゃん?ああ、小学校の時の・・」
「うん。今度みんなで一緒にカラオケに行かない?」
「うん、その内ね。」
その時始業のチャイムが鳴った。
美那子は授業が始まっても、彼女の事を気に掛けていた。
(また無関係の人を傷つけてしまった。)
美那子は罪悪感に苛まれた。
あの子は弓月を本当に愛していたんだ。
そして弓月の子供を身籠もった。
でもその子の命を奪った。
多分彼女の心の傷は、一生消えない。
授業が終わった。
休み時間、美那子はさなえと一緒にC組へ行った。
だが―
かずみはいなかった。
クラス委員の話では、彼女は学校に退学届けを出し、部活も辞めたという。
明日、転校するという。
「そう・・ありがとう・・」
美那子はそう言ってその場を去った。
その夜。
美那子に、電話がかかってきた。
美那子が電話に出ると、怒鳴り声が聞こえた。
相手によると、かずみはマンションの屋上から飛び降り自殺をしたという。
遺書によると、元彼の子を堕胎する際に、今の彼女が付き添いに応じてくれなかったという。
「どうして付き添ってあげなかったんですか!そしたら、あの子は自殺せずに済んだのに!」
「すいません・・」
それしか言えなかった。



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