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Part12.弓月昔話(その3) 俺は逃げようとした。 だが、天狼は俺の手を掴んだ。 「待て、逃げるでない。」 天狼は俺の鳩尾を殴った。俺は気を失った。 目が覚めたとき、そこは廃屋と化した寺にいた。 「目を覚ましたか?」 天狼は蝋燭で俺の顔を照らした。俺の顔は煤まみれだった。 俺は柱に縛られていた。天狼はちらりと見えた俺の脚を見ていた。獣じみた目つきだった。 天狼は俺の脚を愛撫した。俺は声を出さないように唇を噛んだ。 その内奴は縄を解き、俺の胸に手を入れた。 「放せっ、やめろっ!」 その頃天狼は帯を解いていた。 690年前の苦渋が甦る。 (嫌だ・・誰か・・) 天狼が着物の裾を割り、俺の秘密の部分を触ろうとしたとき。 襖が勢いよく開けられた。浅葱色の軍団がなだれ込んできた。 「そこを動かないで!」 目の前に、沖田がいた。 天狼は沖田に斬りかかってきた。 そして激しい斬り合いになった。天狼は、右手首を切られた。 「このままでは終わらせぬ・・いつか必ずお前を殺す!」 そう言って天狼はその場を去った。 その後俺は沖田に連れられ、沖田と彼の部下が住んでいる壬生の屯所に行った。 そこで俺は顔と身体を洗い、男物の着物に着替えた。身につけていたかんざしと櫛、着物は葛籠に締まった。 その夜。 「ほお、沖田の知り合いか。」 俺を歓迎して開いた酒宴で、上座に座っていた男が言った。 「そうなんですよ近藤先生。弓花さんっていうんです。」 「そうか、俺は近藤勇だ。男ばっかりで色々苦労すると思うが、しばらくここにいてくれ。 どうやら君は狙われているからな。」 俺は急に息苦しくなった。どうやらこの男の気に触れたらしい。 俺はその場で気を失った。 目をさめると沖田と近藤が心配そうに俺を見ていた。そこに1人の男が入ってきた。 「総司、こいつかお前の惚れてる女ってのは?」 「ひ、土方さん!」 嫌な奴。 俺は、そう思った。 「ふぅん。」 男は俺をじろじろと見た。 「何だ?」 俺はそいつに聞いた。するとそいつは、急に笑い出した。俺はカッとなった。 「一体何が可笑しい!答えろ!」 「そんじゃあ、言うけどよぉ。お前女のくせに男のような物言いだな。」 俺は男を睨んだ。男は、まだ笑っている。沖田と近藤は、オロオロしている。 後にこの男名前を知った。 男の名はー土方歳三。 もうひとつの“鬼”と俺は出会った。 |