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Part11.弓月昔話(その2) 天狼は俺をさんざん弄んだあと、こう言った。 「よいか、お前は今からこの岩穴で生きていくのだ。」 俺は激痛と怒りで起きあがれなかった。この暗闇で生きていけと?どこもでも勝手な男だ。 俺は天狼の着物の袖を掴んだ。天狼は俺を押し倒した。 「また俺とやりたいのか。なんと淫らな・・まあ嫌ではないがな。」 「うるさい!」 俺は天狼の横っ面を張り飛ばした。天狼は俺の首を絞めた。俺は意識を失った。 意識が戻ったとき、もう天狼はいなかった。代わりに岩穴の前に鉄格子が下ろされてあった。 俺はその日から、岩穴の中で暮らした。時折流れ出てくる水を飲み、岩にこびり付いているコケを食べた。 その生活が、690年も続いた。 世の中はめまぐるしく変わっていた。黒船来航、開国、尊皇攘夷・・聞き慣れない言葉がまわりに飛び交っていた。その時俺は人里離れた岩穴で暮らしていた。誰にも知られず、この暗闇の中で・・。 そんな、ある日。 珍しく、岩穴の前に人が通りかかった。俺は日の当たる所に急いで行き、助けを求めた。 俺を助けてくれたのは、15,6の少年だった。絹の着物を着ているので、多分武士だったと思う。 そいつは俺の姿を見て驚いた。なんせ俺は白い薄汚れた絹の襦袢だけで、裸足だったから。 でもそいつは俺をこの岩穴の呪縛から解放してくれた。そして何も聞かなかった。 そいつの名は・・思い出せない・・確か久之助と言った・・。 久之助は俺を武家屋敷に連れて帰った。久之助はそこの屋敷の息子だった。なんでも、徳川将軍家の血をひいている親戚が江戸にいるらしい。更に、京に天皇家の血をひいている親戚もいるらしい。 久之助の両親は俺を実の息子の様に可愛がってくれた。久之助とはすぐに仲良くなった。 立派な食事、清潔な衣服、ふわふわとした布団・・なにもかもが嬉しかった。もうあの暗闇の中に戻らなくてもいい。もうあんな思いはごめんだ。 久之助と出会って数ヶ月。俺と久之助は突然京に上った。理由は、覚えていない・・。 俺はその時何故か舞妓の格好をしていた。確か久之助の母親が思いついてやったのだと思う。 久之助と俺は祇園の近くにある旅館に泊まり込んだ。久之助は京が初めてだったらしく、興奮していた。 俺達が京に上って数ヶ月たった。 俺は久しぶりに街を散策してみた。600年以上経つと、さすがに違う。俺は、面食らった。 その時。 「壬生狼」に、俺は会った。 『誠』の旗を振り、浅葱色の羽織を着ていた。俺は、その横を通り過ぎた。 いつのまにか、俺は狭い路地を歩いていた。俺の後ろに、薄汚い格好をした武士が4人いた。 そいつらは俺の腕をつかみ、俺を犯そうとした。俺は恐怖のあまり叫んだ。 1人の男が俺を引き寄せた。そして4人を斬った。 男は若かった。髪を束ね、浅葱色の羽織を着ていた。 「あなたのお名前は・・」 「弓花。」 「弓花さんていうんですね。私は・・」 沖田総司。男はそう言った。 そして男は風のように去っていった。何故か胸が苦しかった。 後日。 俺は街を歩いていて、編み笠を被っている武士とぶつかった。 「す、すいません。」 その顔を見て、俺は驚いた。 その武士は、天狼だった。 |