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9「失われた過去へ─理由─」 窓の外から明るい歌声が聞こえてくるのをリナは気付かなかった。 ベットの上で座り込み、何かに耐えるようにじっと床を見つめていた。 窓から差し込む月の光だけが、部屋の中を照らしている。 明日、ガウリイに言わなくてはならない言葉がある。 今までの想いを伝えるのではなく、別れを告げなければならない。 それがとても悲しかった。だが、それと同時に安堵の想いもあった。 これで……ガウリイがあたしのせいで殺されることはなくなる…。 別に、他の周りの少女たちにあれこれ言われようと、さほど気にすることはなかった。 確かに辛いし、腹は立つし、いい気分ではない。だが、そんなものは気にしなければ苦ではない。 それよりも、彼は自分のせいで何度も死にそうなめにあった。 そちらの方が重要だった。自分とさえ出会っていなければ……、と何度思ったことだろう? 今は生きていても、明日、魔族に襲われれば死ぬかもしれない。 自分の力が足りないせいで彼が死ぬようなことがあれば…と考えると、背筋が寒くなる。 そんな恐怖に怯えながら生きて行くなんてイヤだった。 だから──… ──コンコン ドアをノックする音が聞こえた。 横手ちらり、とドアを見るが、出なかった。 ──コンコン 再度、ドアをノックする音が聞こえる。 リナは疎ましげに立ちあがり、ドアを開けた。 「はい?」 「こんばんは」 ドアの前には、一人の少女が立っていた。 「あんたは……」 「えへへ。ちょっとお話することがあって……来ちゃいました」 「あたしに何の用?また、聞きたいことでもあるの?」 リナは疎ましげにそう言った。 今は一人でいたかったのだ。 「お話することがある、って言いましたよ、わたしは」 少女は勝手にリナの部屋に入ると、備え付けの椅子に座った。 「あ、ちょっと…っ!」 リナはドアを閉めると、少女にずかずかと歩み寄る。 「あんたねぇ……!」 少女は憤慨するリナとしげしげと眺める。 「へぇー。父さんに聞いた通りだわ」 「はぁ?」 「あ、いえいえ…。それでですね、話したいことなんですけど…」 「そんなことより、あんたは誰よ?あんたの父親はあたしを知ってるみたいだけど」 「レナです。レナ=ガブリエフ」 「えっ?」 リナはレナをじーっと眺める。 確かに、髪の毛は栗色だけど、瞳は蒼である。 ……と、なると。やっぱ、ガウリイの子供? じゃあ……あいつには、もう……他の人がいるんだ。 しかも結婚してて、それでもあたしと旅をしてきたの? あたしのせいで死んだら、あいつの家族にあたしはなんて言えばいいのよ。 いやぁ、あたしをかばって死んじゃいましたぁ、とか言えばいいわけ? そんなこと……言えるわけないじゃない。あいつの奥さんなんか……見たくない。 「じゃあ、クラゲ男の子供なの?」 内心では葛藤しながら、それを隠し努めて冷静にリナは言った。 「クラゲ??」 きょとんとした顔でレナは首を傾げる。 「あ……えーっと、その…ガウリイってことよ」 「ああ。はい、そうです」 こくりとレナは頷いた。 「言っとくけど、あんたの父親なら隣の部屋よ?」 親指で後ろの壁を指す。 「そんなことわかってますよ。わたしは父さんほど、バカじゃないです」 笑いながらレナは答える。 実の父親を馬鹿呼ばわりするあたり、大物である。 「わたしはリナさんに用があるんです」 さっきとは打って変わって、真剣な面持ちでレナはリナを見つめる。 その視線にたじろぎながらも、リナはその目を見た。 「……。リナさんって、父さんのこと好きですよね?」 「な……っ!何言ってるのよ!?だっれがあんなクラゲを──」 「誤魔化さなくってもいいですよ。その態度見れば一目瞭然ですから」 レナの冷静なつっこみにリナはたじろいだ。 な、なんなのよ……?この子は。 「じゃ、仮にそうだとしたら何なのよ?」 「あなたが……許せないんです……っ」 レナは下を俯き、怒りを押し殺したような声で言った。 この子は何を怒っているのだろう? あたしとこの子は初めて会ったんじゃないのか? しかも、この子にとってはあたしとガウリイがくっついたらまずいんじゃないのか? と、リナの脳裏に次々と疑問が浮かび上がった。 「彼が好きなら、どうして伝えないんです?おかしいじゃないですか」 「あんたねぇ……ガウリイには他の女の人がいるんでしょ?あたしは関係ないじゃない」 「わたしの母さんじゃだめなんです……っ。あなたじゃなきゃ、だめなんです」 何かを堪えるようにレナは言った。 「あたし……?」 「そうです」 「どうしてあたしなのよ?あいつには他の人がいる、そうでしょ?あたしがどうこう言えることじゃないわ」 リナにはレナが何が言いたいのか、わからなかった。 どうして、自分じゃなければいけないか、その理由もわからない。 わからない……。この子はあたしに何を伝えたいの? 「……。本当のことを話します」 レナは顔を上げて、リナを見据えた。 何かを決心したような顔つきだった。 |