忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

8「出会い」


二人は無言で街道を歩く。
特にケンカしてるわけでも、機嫌が悪いわけではないのだが二人は何もしゃべらなかった。
がさっ。
茂みの中から音がした。それと同時に、二人は剣の柄に手をかける。
この異変にガウリイは気付かなかった。
野生の勘があるガウリイが気付かないのは、おかしい、そう思ったリナは先制攻撃を仕掛けた。
「火炎球(ファイヤー・ボール)」
ずどおぉんっ。
至近距離なので、威力は抑えてある。
爆発の直前に少女が街道に転がり出た。
「あたた……っ。なんなの!?一体っ」
ぶつぶつと少女は文句を言いながら、お尻をさする。
その少女をリナとガウリイはただ呆然と見ていた。
「え?あ……」
二人にやっと気付いたのか、少女は顔を赤くした。
「あは、あはははは」
そして、笑ってごまかした。
「大丈夫か?」
ガウリイは少女に手を差し伸べた。
「ええ。まぁ……でも、なんでいきなり爆発が起こったんでしょうね」
ガウリイの手を借りて、立ち上がりながら少女は言った。
「あはは。気にしちゃダメよ」
こめかみのあたりに汗をにじませながらリナは言った。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんですが」
あんな爆発にいきなり巻きこまれたわりにあっさりと少女は言った。
「ティモード・シティってこのへんの近くですか?」
「そうよ。この道を行けば着くわよ」
「ティモードへ行くのか?」
「はい。ちょっと会わなくちゃいけない人たちがいるんです」
ごまかすような笑顔で少女は答えた。
「助けてくれてありがとうございます。それじゃ」
少女は二人に背を向ける。
呪文を唱えて、術をかける。
「翔風界(レイ・ウィング)」
風の結界を身にまとい、少女は街道を飛んで行った。
「なんなの?あの子」
「確かに、いきなり爆発に巻きこまれたのにあっさりしてたな」
「いや……そゆことじゃなくてさ」
「でも……気配、全然なかったぞ、アイツ」
「そう。それが不思議なのよ。野生の勘持ってるあんたがなんで小娘の気配に気付かなかったのか…」
リナは手を口元にあてて考える素振りをみせたが、両手を頭の後ろへ組んで
歩き出した。
「行きましょ、ガウリイ。どうせ、もう会うことなんてないわよ」
「それもそうだな」
二人は再び、街道を歩き始めた。

──ティモード・シティ
割と大きい芸術の都だった。街の中心には、伝説の建築家マクド・ナールドが設計した時計塔があることで有名だった。
「さすが、芸術の都ね…」
華やかな街の様子を見ながら、リナは言った。
着飾った少女達が慌しく街の中を行き交う。だが、視線はガウリイに向けて…。
リナはその事に気付いていた。もう何年も旅を共にしてきたし、自分だって初めて会った時はカッコイイと思った。
ガウリイだけ見られるならいい。しかし、少女達はガウリイに目を奪われた後、必ずリナに視線を変える。
カッコイイ彼と小さな自分。
周りからは兄と妹と見られ、例え、恋人同士に見られても、きっと周りは『つりあわない』そう思うのだろう、とリナは思っていた。

─終わらせよう、もう…

みじめな思いなんてもうしたくない…。
だから……
「宿、とるんだろ?あそこでいいか?」
ガウリイは街の一角にある宿を指し、言った。
「うん…」
リナは元気のない声で答えた。
「どうした?元気ないな。腹減ったのか?」
「違うわよ」
いつもなら、言葉の中に怒気がこもっているのだが、今のリナの言葉からそれは感じられなかった。
「じゃ、なんだ?」
「……。前から……思ってたことなのよ。あたし──」
その時、横から明るい声が聞こえた。
「ああああああぁぁぁぁっ!!」
リナはびくっ、と見をすくませ、声のした方を反射的に振り向いた。
そこには先ほど見た顔があった。
「あ……さっきの」
「ティモードに来てたんですね、良かった…」
「は?」
「いや……さっき聞きそびれちゃったんですけど、今日って何日です?」
リナははぁ、とため息をついてから、
「十一月十七日よ」
と、答えた。
「ありがとうございます。それじゃあ」
にこっと笑って少女は、人ごみの中へと消えて行った。
「不思議な子だな」
「本当にね。じゃ、宿とりにいくわよ」
「話しの続きは?」
「後で話すわ」
考えてみれば、こんな街中で、何年も共に旅してきた仲間と別れるのは何とも寂しい。
今日、別れを告げれば、昼でも夜でも変わらないんじゃないのか?
それに、今もしも別れを告げて、そのまま同じ宿に泊まるなんて気まずいんじゃないのか?
リナはそう考え直し、明日の朝、ガウリイに別れを告げようと考え直した。
もっとも、あの少女が来なかったら、ここで『さよなら』だっただろうが…。

先ほどの少女は屋根の上から二人を見ていた。
手に持った金色のイヤリングをぎゅっと握り締める。
それは、リナの持ってるイヤリングと同じだった。しかし、よく見れば少し汚れていて、くすんだ色をしている。
まるで、長い年月をかけたようだ。
「みつけた……あの二人だ」
少女はそうつぶやいた。


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