忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

6「言葉」


気付くと、あたしは闇の中にいた。
「ここは……?」
空も地面もないただ浮いているような感覚。
慣れていないせいか、すっごく動きにくい。
あたしは手袋とショルダーガードをはずした格好でいた。
全くの無防備。
んでもって、どこかわからない世界。
「夢……?」
それなら納得がいく。
そこで、あたしの背後に光が灯った。
反射的に振り向く。
「やっと……気付いてくれたね……」
あたしの後ろにいたのは、あたしによく似た少女だった。
栗色の腰まで伸びた髪。頭にはバンダナを巻いている。
ただ、少し違うのは、年頃が十歳くらいであること、と。
瞳の色が赤でなく、蒼であること。
そして、あたしはその少女に見覚えがあった。
そう。それは──
「あんたは……」
「あたしは、レナ。レナ=ガブリエフ」
「って、ことは!あんた、ガウリイの子供っ!?」
「うん。そうだよ」
あ……あの脳みそヨーグルト男にこんなカワイイ子供がいたなんてっ!
確かに、外見はカッコイイけど……。記憶力に乏しくないか?
いや。でも、剣の腕だけは超一流だもんなぁ。でも……、デリカシーってもんが大いに欠けてる。
「でも、ガウリイの子供なのに、なんであたしの夢に出てくるのよ?」
「うーん。でも、本当のこと言うときっと、照れちゃうからなー」
「は?どーゆー意味?」
「そこは置いといて」
「勝手に置いとかないで」
「あたしはこの時代、つまり現代には存在しないから」
「はぁ?」
「あたしは未来に存在するの」
それは、つまり。
「未来のガウリイの子供?」
「うん」
ぃ…ぃぃ…ぃぃぃ……ぃ…。
金属のこすれるような音が響く。
周りの闇が歪み始めた。
ぞくりと悪寒がして、ざわざわと体中が落ち着かない。
「なに?」
「誰か、来る…」
─早く……こちらへ
闇の中。誰かの声が響く。
「誰?」
─こちらへ
無数の手が現われ、あたしを捕らえる。
なんなのっ!?気持ち悪いっ!
後ろを向くと、レナも無数の黒い手に捕らわれている。
「レナ!」
レナの方へ行こうと体を動かすが、ずるずると体が引きずられる。
そして、あたしの右足が闇の一部に溶け込む。
「忘れないで…」
「え?」
「お父さんとあなたで迎える未来もあることを…」
レナはがくり、と首を落とし、黒い手に捕らわれたまま…。
どこかへと消える。灰となって。
「レナぁ!」
かすれる声を絞り出す。
届くはずもない手を伸ばす。
あの子を……死なせちゃいけない。
もう二度と、あの子を失いたくないから。

え?今…あたし……記憶が……。

世界が──壊れ始める。

鏡が割れるように、黒いガラスの様な破片が飛び散る。
あたしは闇に引きずり込まれ、そして──
レナのいた世界から、消える──

『忘れないで…
お父さんとあなたで迎える未来もあることを…』

彼女が残した言葉。
それだけが。
あたしの耳に残っていた…。






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