忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

5「僧侶」


「なー、リナ」
「何よ?」
振り返らずにあたしは答えた。
「ゼフィーリアってまだなのか?」
「まだよ。最低でも一ヶ月以上はかかるわよ」
「そんなにかかるのか?」
ガウリイの驚いたような声。
おいおい。ちょっと待て。何なの?そのリアクションわ。
まさか……こいつ……。
「あんたねぇ……そんなことも知らずにゼフィーリア目指してたの?」
あたしは立ち止まって、振り返る。
ガウリイは困ったような笑いを浮かべて、こめかみのあたりを指でかいた。
「俺の場合、いろんなヤツと一緒に旅してたから」
「そんなんで今までよくやってこれたわね」
「そーだな」
ちゃんとわかってんの?こいつ。
あたしは再び歩き出す。
しばらく、歩いたところで街が見え始めた。
「お?あれが、クランディア・シティね。うっふっふっふ」
「なに笑ってるんだ?」
「ガウリイ、知らないの?クランディアっておいしー鳥料理があるのよ。この時期は特に珍しい鳥とかいるし」
「何いぃぃぃぃぃぃ!?よし!すぐ行くぞ、リナっ!!」
「言われなくとも、わかってるわよ!」
あたしとガウリイは街へと走り出した。

「あー、おいひー♪」
「うまいなぁ、これ」
「でしょ?これってこの街でしか食べれないのよ」
「へー……」
「やっぱ、人間ってグルメを楽しみながら旅しなくちゃだめよねv」
「あのぉ……?」
「ん?」
声のした方を振り向く。口の中には鳥さんの肉を入れたまま…。
そこには僧侶の格好をした黒髪の男が立っていた。どこにでもいそうな顔で、どこにでも売ってそうな錫杖を持っている。
ん……?待てよ。こいつ、なんだか見覚えがあるような……?
むぐむぐと口の中の鳥肉を飲み込もうとする。
「やっと見つけましたよ。リナさん」
男はふっと笑った。
勝ち誇ったような笑み。
あ……れ……?こいつのせいでいろんなごたごたに巻き込まれなかったっけ?あたし。
この笑い方のあとってかならず、そーゆーことが起きたのよね?多分だけど。
「探しましたよ。伝言を残したのに、待っててくれなかったんですね」
「伝言って……まさか、あんたなのっ!?あたしを宿まで連れてった僧侶って!」
記憶喪失になったあたしは、何時の間にか宿で寝ていた。黒髪の僧侶があたしを連れてきたらしい。
その男は宿の人に伝言とあたしの宿代を残していなくなった。
あたしはその男を追って、旅をしていたのだが、何も情報が掴めぬままガウリイに会って、一緒に旅をしていた。
で、その伝言と言うのが。
──二、三日、この宿で待っててください。必ず、戻って来ます。
と、言うのだった。
だが。その男は一週間経っても戻ってこなかった。あたしはにわかにバカらしくなって、旅に出た。
その男を追って。
「二、三日って……一週間待っても来なかったじゃない、あんた」
「いやぁ、僕にも事情と言うものがありまして……おや?そちらは……」
男はガウリイの方を見た。
驚いたような顔。
「これはガウリイ。あたしの旅の連れよ」
「これはって……俺は物か?」
「いいじゃない。別に」
「ちっとも、よくないぞ」
「まー、細かいことは気にしない。で、あんたは?」
ガウリイの抗議を無視して、あたしは男の方を向く。
「僕ですか?」
「そうよ」
「僕は謎の僧侶のゼロスです」
な、謎の僧侶って……まぁ、確かに謎だけどさ。
ゼロスは空いていたあたしの席の隣に座った。
「あんた、どうしてあたしの名前を知ってるの?」
「まぁ……知り合いですし。当然でしょう」
知り合い、ねぇ……。
自分で謎の僧侶と名乗るような知り合いなんていたのか?あたしに。
「なぁ、リナ。こいつ誰なんだ?」
「さぁ?知らないわよ。でも、あたしを宿まで運んだ張本人らしいわ」
「ふーん。で、名前は?」
「さっき言ってたじゃない!くらげ!!」
「いや、だって──……。なんでもないです」
あたしの視線に気付いて、ガウリイは口をつぐんだ。
「ゼロス、あんた。あたしのこと知ってるんでしょ?知ってること、全部教えて」
ゼロスは注文したコーヒーをすすり、微笑む。
「まぁ、知ってますけど……いいんですか?」
「何がよ?」
「嫌なことも思い出すかもしれませんよ?」
「いいわよ。このまま自分の事さえわからずに過ごすよりはマシよ」
「そうですか」
さらりとゼロスは言った。
こ、こいつ……。
「そうよ。この前だって、魔族に襲われたのよ?あたし達」
「襲われた?」
ゼロスはコーヒーをすするのを止める。
「そう。ヴェリゼってヤツにね」
「倒したんですか?」
「倒したわよ。じゃなきゃ生きてないわ」
「それもそうですね。なら、何かを思い出してるんじゃないんですか?」
「え?」
「思い出してないんですか?」

ばちっ

あ……?

頭の中で電撃が走る。
断片的なシーンが、あたしの頭の中を駆け抜ける。
何、これ?これが、記憶を取り戻すってことなの?
走馬灯のように次々と巡る記憶。
気持ち悪い。
知らないはずの事が、知っているようで気持ち悪い。

荒地に佇む栗色の髪の少女。
年は十歳くらいで普通の村娘の服装。
黒いバンダナをつけている。

だ………れ……?
名前は──。

あたしが名前を思い出すより前に、その少女の画像は消えた。

「今の……は………」
体中にびっしりと汗をかき、息もあらい。
気持ち悪い。
あたしは服の上からぎゅっと胸を握り締めた。
頭がくらくらとしてきて、あたしの意識はなくなった。





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