忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

4「赤い光」


「裂閃槍(エルメキア・ランス)!」
ぱしゅ。
あっさりと光の槍は霧となって、かききえた。
「ふふ。どこを狙っているのかしら?」
ヴェリゼは鼻で笑った。
とことんむかつくぞ……その笑い方……。
ヴェリゼが油断した一瞬の隙に、ガウリイが懐に飛びこむ!
「はっ!」
気合いと共にガウリイはヴェリゼのわき腹を狙い、剣を一閃する。
それは、わき腹を少しかすめただけで、ヴェリゼは信じられないほどの速さで避けた。
「なかなかやるじゃない。こうでなくては面白くないわっ」
「──覇王雷撃陣(ダイナスト・ブラス)」
あたしの声に反応して、ガウリイはヴェリゼから大きく離れた。
「ぐぁっ!」
雷光がヴェリゼに直撃し、うめき声を上げる。
──効いてるっ!?
正直、魔族相手に通用するか不安だったが……これくらいの高位魔法なら効くみたいね。
ヴェリゼは片手をあたしに向けて、数十本ものの銀の針を放つ。
ちょっ!そんなのいくらあたしでも避けきれないわよっ!
「うひゃあぁぁ!」
「リナっ!?」
あたふたと身を屈めて、地面を這う様に針を避ける。
しかし、石に躓きあたしは地面に倒れ伏す。
数本の針はあたしに目掛けて真っ直ぐに飛んで来る。
──やられる……っ!?
あたしの目の前に針が迫った時、黒い人影が視界の隅に見えた。
──ガウリイっ!?
「はっ!」
ガウリイは気合いと共に数本の針を一瞬で薙ぎった。
折れた銀の針が地面にぱらぱらと落ちる。
す、すご……。頭は溶けたヨーグルトでも、剣の腕は一流みたいね。
「大丈夫か?リナ」
「う、うん……。ありがと、ガウリイ」
ガウリイが手を差し伸べた。あたしはその手を握り、身を起こす。
ヴェリゼに目を向ける。
「さすがだね……。魔を滅する者たち(デモン・スレイヤーズ)って言う噂はあながちはずれてないようだね」
彼女は感嘆をもらした。
魔を滅する者たち(デモン・スレイヤーズ)……?
何よ?それ。
「あんた……あたしの失くした過去を知ってるのっ!?」
「ふん。教える義理なんてないわね」
彼女はあたしを嘲るような笑みを浮かべた。
こいつ……あたしの失くした過去を知ってるんだ。
でも……どうして魔族がそんなことを?
「あたしはあんたが嫌いなんだよっ」
……魔族に好かれたって、こっちだって嬉しかないわよ。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)」
あたしはヴェリゼに向かって、術を解き放つ!
しかし、ヴェリゼはガウリイの攻撃を避けながら、それをかわす。
……い、意外とこいつってば強いのね……。
と、なると、ねちねちこうやって攻撃しても避けられる。
最悪の場合、ガウリイに当ててしまう可能性もある。
だったら、いっそのこと、大技を一発かました方がいいわね。
ただ……それをガウリイに伝えないと……。それが問題ね。
「獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)」
光の帯が真っ直ぐにヴェリゼに向かって行く!
あたしはガウリイをじっと見る。ガウリイはあたしの方を一瞬だけちらりと見た。
──わかった
ガウリイの目はそう言っているように見えた。
ヴェリゼが片手であたしの術をはじいた。
ガウリイから一瞬、目を離したその隙にガウリイはヴェリゼの右腕をなぎった。
ヴェリゼが苦痛に顔を歪めて、虚空へと逃れる。
「ちっ。人間相手に……っ!まずは──お前からだっ!!」
ヴェリゼはガウリイに向かって、紅い炎の塊を放つ。
ガウリイの前に呪文を唱え終わったあたしが立ち塞がる。
「ははっ。その男と共に散るか!?リナ=インバースよっ!」
──!
あたしは目を見開いた。
しかし、今はそれどころではない。
あたしは力ある言葉を発した。
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」
「なにっ!?」
例え、魔族であろうと魔王シャブラニグドゥの力を借りたこの魔法には敵わない。
赤い光が森を、土を──そして、魔族ヴェリゼの身体を灼いた。
砂煙が虚空へと舞い上がる。
ガウリイは剣をぱちん、と鞘に収めた。
敵は──魔族はもう、滅びただろう。
「……なぁ、リナ……」
「……何よ?」
灼かれた大地を見ながら、あたしは言った。
「今のって魔族……だったよな?」
へぇ……溶けたヨーグルトみたいな脳みそのガウリイでもやっぱり、魔族のことは知ってたか。
……いや……今はそんなことに感心してる場合じゃなくて……。
「そうよ。それも、純魔族。結構、力を持った奴よ」
後ろに突っ立ているガウリイの方を振り向き、言った。
「なんで、魔族が俺達を狙ってるんだ?」
「知らないわよ。そんなこと……」
あたしが一体、何をしたって言うの?
どうして、魔族があたしが記憶喪失だってことを知ってるの?
そして──
最後にヴェリゼが言った言葉。
『ははっ。その男と共に散るか!?リナ=インバースよっ!』
リナ=インバース。
半年前から行方がわからず、姿形ともあたしに似ている女(ひと)。
ヴェリゼはあたしを『リナ=インバース』と言った。
あたしは、リナ=インバースなの?
なぜ、魔族に命を狙われるの?
「まぁ……ともかく」
ガウリイはあたしの頭をぽんぽんと叩いた。
「ゼフィーリアに行くか」
「そうね……」
そして、肩を並べて歩き出す。
しかし、疑問は尽きることはない。
魔族ヴェリゼの襲撃の後には、多くの疑問しか残らなかった…。





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