忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

3「幕開け」

「あぁ!それは、あたしのポークソテー!おにょれ、ガウリイ!許すまじ!」
「あーっ!それは、俺の肉!くそぅ!それなら、ていっ!」
「あ、ちょっと!何すんのよ!?あたしのエビフライに!」
「お客さん……」
「お前だって、俺のエビフライを食っただろうが!」
「それとこれとは別よ!返して!あたしのエビフライ!」
「お客さんっ!!」
しぃ〜ん……。
あたしとガウリイはこめかみをひくひく震わせた店長を見る。
店長は引きつった笑いを浮かべて、
「食事中は静かにして下さい」
と、一言、述べた。

「あー……おいしかった♪」
食堂を後にしたあたしたちは街の大通りを歩く。
「そうだな。で、これからどこに行くんだ?」
「んー……。あたしはゼフィーリア行くつもりだったんだけど……ガウリイは?」
後ろを振り向いて、あたしは彼に問いかける。
「同じだ。ゼフィーリアに行くつもりだった」
「なら、ゼフィーリアでいいわね」
それから、無言になったただただ、街道を歩いて行く。
んー……。こうしてても、あんまり違和感がないのよね。
どっちかって言うと、一人旅の方が違和感があった。
誰かから守るようにしてご飯を食べて、宿をとる時には一人なのに「二人」と言ってしまったり。
たまに、後ろを振り向いたり。
変な行動が多かった。だが、今は全く、違和感がない。まるで、いつもこうしていたみたいだ。
「なあ」
「何?」
「リナはいつ頃、記憶喪失になったんだ?」
「んー……そうね。半年前くらいかしらね。ガウリイは?」
「俺もだ。その時、どこにいた?」
「気がついたら、ティモード・シティの宿屋で寝てたわ。なんか……誰かが運んでくれたらしいけど」
そうなのだ。気がついたら、宿屋のベッドに寝かされていた。
それ以前の記憶は全くなく、宿の人によると、神官服を着た黒髪の男があたしを運んできたらしい。
あたしの宿代を払って、彼は立ち去ったそうだ。あたしに伝言を残して。
実を言うと、この半年間。あたしはずっとその人を探していたのだが……ちっとも有益な情報は得られなかった。
「へぇー。誰が?」
「さぁ?神官服着た黒髪の男らしいけど……名前まではちょっと……」
「ふーん」
「まっ、何にしても情報は何にもないけどねー」
あたしは頭の後ろで手を組む。
「ま、ところで。あんた、どうやって自分の名前を知ったの?」
「泊まってた宿の宿帳に書いてあった」
こともなげにガウリイは言った。
………………………………………をひ。
「ちょっと待ってよ。訳わかんないわよ?それって」
「いやー。俺もにもよくわからん」
こ、こいつ……っ!脳みそ、ゼリーでできてるんじゃないのっ!?
「それじゃあ、なに?あんたは宿に泊まって一睡したら、キレイサッパリ今までのことは忘れたとでも言うの?」
「……そーゆーことになるな。まぁ、いいじゃないか」
「よくないぃぃぃぃぃぃ!あんたっ!本当に記憶戻そうとドリョクしてんのっ!?」
「一応……。いくらなんでも、寝て起きたら記憶喪失はないだろうって思って、宿のオヤジにいろいろ聞いたけど…」
当たり前でしょっ!ンなもんっ!!怪しいって思いなさいよ!
「で。どうだったの?」
「なにが?」
「宿の人に聞いたことよっ!!」
「おおっ」
ガウリイはぽんっと手をつく。
わかってんの?今の状況ってやつが。あたし達は記憶喪失なのよ?
どれだけ、深刻なことなのか、こいつはわかってるのだろうか?……絶対、わかってない。
うう……誰かあたしの代わりにこいつの相手をして……ホントに。
「忘れた」
「わ……わすれたぢゃなぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!」
すぱあぁぁぁぁぁぁぁんっ!
あたしの電光石火のスリッパがガウリイの頭を直撃した。しばし、昏倒するガウリイ。
「どっから出したんだ!?それっ!」
「こんなこともあろうかと、さっきの食堂でくすねてきたのよっ!!」
力いっぱい言いきるあたしに、ガウリイは困惑の表情を浮かべる。
「こんなこともあろうかって……」
「で、さっきのはも・ち・ろ・ん!冗談よね?」
「え?いや……ホントなんだけど」
「いっぺん、死んでこぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃっ!!……火炎球(ファイヤー・ボール)」
ちゅどおぉぉぉぉぉぉぉんっ!
あたしの放った魔法は、ガウリイにジャストミートした。
悲鳴すらあげる間もなく、ガウリイは大地に突っ伏した。
……ったく!会った事ありそうな奴だったから、いろいろ聞こうと思ったのにっ!!全然、聞けないじゃないのっ!
あたしは大地に突っ伏してるガウリイの傍によって、
「リナ……」
「言い訳なら無用よっ!」
「誰かいるぞ……」
「え?」
あたしは辺りの気配を探る。
しかし、何も感じ取ることはできなかった。
「どこに?」
「あの……茂みの向こうだ」
ガウリイは立ち上がりながら、顎で指した。
やはり、何もいるようには感じられない。
だが。
彼の言う事があっているような気がする。
「炎の矢(フレア・アロー)」
あたしは彼の言った茂みに向かって、術を解き放つ。
数十本の炎の矢は、途中で霧となって、掻き消えた。
「出て来なさいよ」
あたしが言うと、そいつは姿を現した。
燃えるような深紅の長い髪。妖しい輝きを放つ紫の瞳。
露出度の激しい服を纏い、そいつは優雅な足取りで、街道の真ん中に歩みでた。
「気付いていたようね」
「まあね」
気付いてたのは、ガウリイだけど……そーゆーことにしておこう。
「あんた、何者?」
「わたしは、ヴェリゼ。あんまり長い付き合いにはならないけど……よろしく」
彼女はそう言って、右手を一閃する。
あたしは左へ、ガウリイは右へと避ける。
さっきまであたしのいた場所に細い銀色の針が刺さっている。
──魔族…
あたしはそう確信した。
あんな魔法を霧状にして消したり、銀の針を飛ばすような普通の人間はいない。
──魔族…
生きとし生ける者の敵。
そんなのを間近で見る人はいない。
だが。
あたしは、そんなやつらと長い戦いをしていような気がしてならない。
「死になさいっ!」
ヴェリゼの声が響き渡る。

そして──
戦いは始まる……






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