忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

10「失われた過去へ─存在─」


「本当ことって何よ?」
レナの言葉に、リナは眉をひそめた。
「これから起こることです。つまり、未来ですね。一つの」
「未来?未来を話すって言うの?」
リナは微笑して、言った。
しかし、レナは真剣な顔で言った。
「そうです。それはあくまでも一つの未来ですけど…」
「未来はたくさんあるの?」
「ええ…。今の一つ一つの選択によって、未来は変化します」

──

その日、リナとガウリイは別れた。
リナが一方的に『あたし、あんたとはいられない…』と言って、去った。
一通の手紙とリナが身につけていた肩耳の金色のイヤリングを残して──…
ガウリイはリナを追いかけた。
情報を集め、リナの立ち寄った街に行き、追いかけた。
数年が経ったが、結局リナは見つからなかった。
ガウリイは立ち寄ったある街で、リナに似た一人の女性と出会った。
ガウリイがリナと勘違いして、その女性に声をかけたのが始まりだった。
その女性の名を、エレナと言った。
栗色の長い髪。真紅の瞳。小柄であどけない顔立ち。
どこから見てもリナそのものだった。しかし、性格は、温厚で優しい人柄だった。
エレナはガウリイに惹かれ、ガウリイもまた、リナに似ていることからエレナに惹かれた。
数週間が経ち、エレナはガウリイが好きな人と自分を重ねていたことを知る。しかし、それでもいい、とエレナはガウリイと結婚した…。
その時、ガウリイはエレナがリナの親族だったことを知る。
結婚式の招待状をリナにも送ったが、返事も来ず、結婚式にも出席しなかった…。
それから、レナが生まれた。

「そんなことが……」
レナの説明にリナは言葉を失った。
自分が去った後、彼は自分に似た人と結婚するなんて…。
「あったんです。実際に」
「じゃあ、レナ……あなたは?未来に生まれる子なのに…」
「わたしは……未来から時を越えて来たんです。あなたにこのことを知らせるために」
あたしに……このことを知らせるために、未来から?
馬鹿げている。
リナは正直そう思った。
「まさか……そんなことあるわけ──」
「そういうと思いました。これを見て下さい」
レナはポケットから、一つのイヤリングを取り出した。
くすんでいて、鈍い光を放つイヤリング。
それをリナに渡した。
「これは……」
「あなたが創ったイヤリングです。今もしてるでしょ?」
紛れもなく、それはリナが創ったイヤリングだった。
店で売ってるものがいくつも存在するのはわかる。だが、目の前にあるのは創られたイヤリング。
同じ物が存在するわけがない。
リナは驚きを隠せなかった。
「どうです?信じる気になりました?」
「…………」
リナは答えられなかった。
レナは言葉を続けた。
「──まだ、続きはあります」

──

時は流れ、レナが七つになった時。エレナが病で床に伏した。
元々、病弱な体だったが、それが悪化してとうとう倒れてしまった。
日に日に衰弱する母を看病し、レナは母から思いがけないことを聞かされた。
それは、父親の好きな女性は自分ではないと言うこと。
その言葉を信じられなかったレナだが、母が死んでもいつもと変わらない父を見て確信した。
その女性のことを父からいろいろ聞いた。

彼女と出会った時のこと。
共に旅をしていたこと。
死闘を共にくぐりぬけてきたこと。
突然、別れてしまったこと。
自分は彼女が好きだったこと
そして──…
彼女はエレナに似ていたこと。

全てを聞いた。
レナはその人が許せなかった。
なぜ、突然別れを告げてしまったのだろう?
父はその人と母が似ていたから結婚したのだろうか?

母は父を心から愛していた。
父もまたそうなのだと思ってきた。
だが、違った。
それは大きな誤解で、父はその人の面影を引きずっていた。
父は好きでもない人と結婚し、自分が生まれた。

─では、自分の存在理由は?─

そんなものどこにもない。
自分はここにいるべきではない。
そう思った。
母の死から五年後。
父は病死した。



『孤独』になった。



誰からも愛されず、存在理由もない。
両親は死に。兄弟はいない。
自分はこれからどうすればいいのだろう?
孤独で、存在理由もなく……。

幸せだと思っていた。
母がいて、父がいて、笑っている自分がいて。
だが、それは──
表向きだけの幸せだったのだ。
本当の幸せではない。

もう死んでしまいたい…。
本気でそう思った。
そう思うと、父から聞いたあの人に会ってみたいと思った。

──リナ=インバース
女魔道士。父と旅をしていた人。伝説の魔道士。父が好きだった人。母と似ている人。

一目見たいと旅に出た。



「…………」
リナは黙っていた。
別れ一つで、一つの家族に悲劇が訪れた。
それを聞かされて、レナに何も言えなかった。
「わかりますか?わたしの気持ちが」
レナは静かだが、迫力のある声で言った。
「幸せだと思っていた自分が、存在理由のない子だと知った時の絶望」
「そ、それは……」
「あなたが別れなんか言わなければ、父さんも母さんもわたしも悲しむ必要なんてなかったんです。
気持ちを隠して、傷つきたくないから別れたことがこんな結果を生んだんです」
レナの目から涙が溢れた。頬を伝い、太股に雫が落ちる。
「これでわかったでしょう?父さんにはあなたがいなくてはいけないことが。
十年以上経っても、あなたが忘れらなかったんです」
「でも……、言ったところで……」
「では、もう一度同じ事を繰り返すんですか?」
「それは…」
「そうなってほしくないから、わたしはここへ来たんです。時を越えて…」
ぼろぼろと涙が落ちていたが、レナはしっかりとした口調で言った。
そんなレナを痛ましいといった表情でリナは見ていた。
「あたしに……どうしろって言うの?」
「素直になって下さい。ただそれだけです」
「あたしのこと、許せないんじゃないの?あたしのせいでそんなことがあって」
「確かに、あなたのせいです。
でも、許すも許さないも過ぎてしまったことですから、今のあなたをどうこうしようと言う気はありません」
「いいの?それで…」
「ええ。今、話したことは同じ事が繰り返されないようにしたいからです」
リナはその言葉を聞き、目の前にいる一人の小さな少女が自分よりもオトナのように見えた。
「──どうしますか?リナさん…」



続く


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