忘却の彼方に…

作:紫水流華さん

1「旅立ち」

「なぁ、知ってるか?」
「ああ。あの女魔道士の噂だろ?」
あたしは声のした方にちらりと目をやる。
二人のおっちゃんが話している。
片手にはビールジョッキ。こんな昼間から飲んでいるあたり……ヒマ人なのかもしれない。
それとも、仕事の昼休みだろうか?まぁ、あたしには関係ないことだ。
そう思い、食べかけのランチを黙々と食べ続ける。しかし、目の前には既に何十皿とお皿が積み重なっている。
そこっ!食べ過ぎと言わない!人間、お腹が空く時は空くのだ。
「ここ半年あたり、行方不明らしい……」
「らしいな。あれだけのオオゴトやってんだ。もしかしたら、死んじまったかもしれねぇ」
ふぅん。有名な女魔道士が行方不明……か。一体、どんなオオゴトやったんだか。捕まってたりして。
「盗賊殺し(ロバーズ・キラー)、とかドラゴンもまたいで通る、と言われた奴だったのになぁ…」
「そうだなぁ。あのリナ=インバースが行方不明か」
ぴぴくぅ!
りな=いんばーす……?
あたしはがたんっ、と席を立ち、おっちゃん達の元へと向かう。
「おっちゃん…」
「ん?ああぁ?」
ビールの飲んでほのかに赤くなった顔をこちらへ向ける。
もう一人のおっちゃんは怪訝そうな顔であたしを見ている。
「その女魔道士のこと……詳しく教えてくれない?」
「詳しく……と、言ってもなァ。その女魔道士は半年前から行方知らずだしなァ…」
おっちゃんは天井を仰いだ。
時期は重なってる…。あとは、その人の特徴だけ。
「外見の特徴は?」
傍観者だったもう一人のおっちゃんが答える。
「特徴……と言えば、栗色の長い髪に赤い瞳」
「そうそう。んで、胸なし、チビガキの女だって話だ。顔は……好みに寄っちゃあモテるらしいが……」
栗色の髪。赤い瞳。胸なし。チビ。んで、美少女。
キーワードはこれだけか……。これだけじゃわからない。
「しかし、なんでそんなこと聞くんだ?」
「ん?あー……ちょっと、その人について知りたくてね。興味を持ったのよ」
「ふぅ……ん。あんまり良い噂は聞かない奴だからな。気をつけな」
「ありがと。忠告として受けとくわ」
あたしはおっちゃんにひらひらと手を振る。
おっちゃん達に背を向け、自分の席へと戻る。
席について、たった一つの手掛かりを袋から出す。
──赤い宝石のついた指輪。
あたしが気がついた時、持っていた持ち物。あとは、着ていたものと剣。それだけだった。
お金は持っていなかったので、ちょっぴし盗賊いぢめを……。
まぁ、ともかく。手掛かりになるものはこの指輪だけ。
記憶喪失のあたしは自分の名前すら覚えていない。
自分の名前がリナと言うことだけはわかった。指輪に彫られていた名前…。
栗色の髪。赤い瞳。ちょっと小柄な美少女。
このキーワードにも合っている。あの有名な女魔道士リナ=インバースと言う人に。
わからない……。あたしは……、リナ=インバースなの?
確かに自分は魔道士。着ていたものも魔道士そのものだったし、これを見て魚屋かウェイトレスなどと言う奴はいないだろう。
魔法が使えることは覚えてる。頭じゃなくて、身体が覚えていたのだ。
他は何も思い出せない。思い出そうとすれば、ひどい頭痛が起こる。
「まっ、とりあえずは情報収集と現状把握よね」
あたしはランチを終え、お金を払い、外へ出る。
うーむぅ。あたしのことを知ってる人でもいると良いんだけどなァ……。
そう上手くはいかないか。なんせ、ここ半年。何の収穫がないんだから。
「さぁーて、行くとしますか」
あたしは伸びをして、アルイド・シティの北口へ向かう。
目指すはゼフィーリア・シティ──
理由は、今の季節はぶどうがおいしいから♪
人間、グルメを楽しみながら、情報収集したってバチは当たらないわよ。うんうん。
第一、人生は楽しまなくちゃ!
それに、どこへ行けばいいんだか全くわからないわけだし。どこへ行こうがあたしの勝手ってわけよね。
そして、あたしはゼフィーリアへと歩き出す。
今後、何が起こるかも何も知らずに──…






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