アウストロ(南風亭)綺談
 〜〜インバース家の人々・後伝〜〜


<序章>アウストロ(南風亭)

作:りょーさん♪


 西のカルマート公国、南西のセイルーン王国、南のエルメキア帝国、それぞれの都からゼフィーリア王国に向けて伸びる街道は、ゼフィーリア領内に入ってまもなくひとつの街に達し、そこから1本にまとまって王都ゼフィール・シティに向かう。ゼフィールまでの行程は普通の旅人の足で、およそ1週間。ゼフィーリア街道、俗に葡萄街道とも呼ばれる大幹線道である。
 当然、街道の起点となる街は王都ゼフィール・シティと諸外国を結ぶ重要な交易拠点となる。これぞ王都ゼフィール・シティに次ぐ第2の都市、世に「ゼフィーリアの玄関」と謳われた、商都ヴェンツ・シティであった。
 商人や旅人が賑やかに行き交うヴェンツの街には、言うまでもなく彼らを相手の商売が軒を連ねている。なかでも街の南寄り、表通りが宿場町と飲み屋街、裏通りがいかがわしい店で占められた一角は、俗にサウス・タウンと呼ばれ、世界でも指折りの歓楽街として知られていた。

 そしてサウス・タウンには、利に敏いことと各国の王宮をも上回る情報網を持つことで天下に名高いゼフィール商人達の、溜まり場ともいえる酒場がいくつもあった。そこは息抜きの場であり、仲間達との交友の場であり、同時に情報交換や商談の場でもあるのだ。
 この物語の舞台となる酒場も、そんな店のなかの一軒。生まれも育ちもヴェンツの歓楽街、物心ついた頃から酒場の下働きをやっていたという主人は、しかしなかなかの商売上手であった。良い酒と旨い料理を出すことで評判は上々、贔屓客も多い。繁盛振りを示すかのように店内はいつも客で埋まっていた。

 店の名を「アウストロ(南風亭)」
 今日も店主はでっぷりと突き出した腹を揺すりながら、丸々と肥えた顔に愛想笑いを零して客を出迎えるのだった。





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