「暖かな風景」

作:牛乳パックさん

「ここも・・・・か。」


苦くつぶやいたガウリイの言葉を、沈黙で肯定し、町へと足を踏み入れる。
廃墟と化した町の中に


サイラーグシティを旅立ってから、一月ほどもたっただろうか
その間、私たちは様々な町を通り過ぎた



レッサーデーモンやブラスデーモンに襲われ、疲弊した町
破壊の痕跡の残る村
そして、いまだデーモンや魔族がうろつく都市

魔王が滅ぼされたとはいえ、まだその影響は、旅の道程に色濃く残っていた。
そして・・・・こんな光景も、そう珍しくもないのだ。


魔の者に破壊し尽くされ、生命の痕跡すら感じられないこんな町も



清めとデーモン討伐のために、王都から、兵士か魔道士でも派遣されたのだろう。

破壊の後はまだ新しいものの、ここには、血のにおいも、死体も、デーモンの瘴気も感じられない。

ただあるのは、凍るような静寂だけ


生き残ったものはいたのだろうか
もしいたのなら、親しいものの無念の残るこの地を捨てて、別の町へと移ったのか




「もう、誰もいないのかな?」
「たぶん・・な。人の気配は今のところ感じられない。」

ふと口をついてしまった言葉に、相棒が答えた。
感傷なんてがらじゃないけど・・・

「そっか・・・。」


立ち止まり、周りを見渡す。


目にとまったのは通り沿いの一軒家

壊れた窓からのぞく、ダイニングルーム
椅子とテーブル
ずれ落ちた額

テーブルを囲む子供たち、父親の笑い声
あたし自身はもう遠ざかって久しい家族の団らんの風景が、一瞬脳裏をよぎる。

多分、時を戻せば見られるであろう暖かな風景の残滓
もう砕けきった日常が、胸に詰まった。




予定外の苦いアクシデントで、温かい宿と食事にありつけなかったあたしたちは、
町外れの小屋を仮の宿に決めた。

ゴーストタウンや、廃墟なんて怖くはないけれど、
ここは残された思いが重すぎる。



携帯食で軽い夕食を済ませ、備え付けの小さな暖炉に火をくべる。
携帯していた寝具を開いたところで、薪を探しにでたガウリイが帰ってきた。

そのまま薪を床におろすと、暖炉に薪をくべ直す。
勢いを増した火に、火花が一瞬ぱっと散った。


なにもいわず、あたしの隣に座った彼に、あたしもなにもいわなかった。

暖炉の赤い火が、あたしとガウリイをゆらゆら照らす。


訳もなく胸に広がった理解不能の感情に、なんだか泣きそうで、少しだけ唇をかむ。



泣き出しそうなのは、今は過去になったあの町の幸せを見たせい。


幸せは過去にしかないなんて、後ろ向きの考えは昔は嫌いだった。
でも今は逝ってしまった、
フルネームすら知らないままだった仲間を思い出すから


まだ少しだけ、胸が痛い



たてた膝に顔を埋めたあたしの肩を、ガウリイがそっと抱いてくれた。
ガウリイごしにかぶせてくれた毛布が、じんわりと暖かい。

顔を上げるとのぞき込んでいたらしいガウリイと目があった。
重なった視線にガウリイは、いつも通りの優しい微笑みをくれる。

そのほほえみが優しすぎて、胸が詰まって







・・・・・・・・・・・・・・・・泣き出しそうなのは

たぶん、こんな夜の中でも、彼の腕が暖かいから。
いつ壊れてもおかしくない幸せが、もう死に絶えた町の中に見えたから


悲しいほどに、空気の澄んだ夜の中


暖かな風景はここにある。


<了>


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