|
新しい朝 作:緋桜海凪さん |
|
「クリムゾンへ行くわ」
突然リナが告げた言葉。 オレは驚きながらも、それを承諾する。 ―――クリムゾン・タウン……以前ある事件のために立ち寄った街……。 悲しい事件と遭遇したところだった。 アリア……姉を止めるために、自ら犠牲となった魔道士の女性……。 リナはあの後、少しふさぎ込んでいた。ホントは泣きたかったんだろうに、意地っ張りな性格が災いしたのか、涙を見せるようなことはしなかった。 妙なところで大人ぶる。 そんなところが痛々しく思える……。 だから、護ってやりたかった。強くて弱いこの少女を――― 沈みかかる夕陽が、あたりを紅(くれない)に染める。 『クリムゾン』の名が示すとおり、ここは真紅の色に染まっていた。 真っ白い壁が、穏やかに流れる運河の水面が、沈みゆく夕陽を映しては鮮やかなまでの紅(くれない)の色を見せる。 リナはその紅い流れに花束を投げ込む。 水面と同じ紅い花……。 ゆらゆらと水の上で揺れるそれを、リナはただ黙って見ていた。 オレも黙ってそれに倣う。 「なぁ……」 沈黙が痛くて、オレは口を開いた。 「オレたち……あれでよかったのかな……?」 「なにが?」 「アリアと……その姉さんのこと……」 「………………」 リナは答えない。 沈黙が夕焼けと共にたゆたう。 「……誰も……答える事なんてできないと思うわ……」 しばらく間をおいて、小さくつぶやくような答えが返ってきた。 「あたしたちは別に勝ち負けを探すために旅をしてるんじゃないもの……。 ここに来たのも……新しい朝を探すため……」 「??」 紅い夕陽を背にして、リナが微笑む。 夕陽が眩しくて目を細める。 でも、それ以上にリナの笑顔が……眩しかった……。 「これ以上……悩んでなんていたくなかったから……。 確かに……ガウリイの言うとおり、あたしたちはアリアとベルさんを……救えなかった……。 ディラールだって、みすみす死なせてしまった……。 そう言った意味じゃ、あたしたちは負けたことになるわ。あたしたちはあの時、ただ生き残れただけ……」 「そうだな……」 オレたちはあの時、アリアの犠牲によって……生き残ることができた。 リナの言うとおりだと思う。 「オレたち……」 何か言いたいのに、言葉が出てこない。 そんなオレに、リナは手を差し伸べてきた。 「行きましょ、ガウリイ……。 新しい朝を探しに、どこか遠くへ。勝ち負けなんかにこだわらない、あたしたちだけの旅を……」 「リナ……」 彼女は強い。でも、そのくせ弱い。 今だって、ほんの少しだけ、瞳が涙で揺れている。 ホントは淋しがり屋なくせに、強がってみせる。 でも、泣いていても、物事は変わっていかないことを知ってる。 子供のようで、大人のようで、つかめない少女。 そんな風に自分を創らざるを得なかった、強くて、弱い少女……。 オレはその小さな手を握った。 包み込むように、手を繋ぐ。 おまえさんに話したら、どんな顔するんだろうな……? あの時と同じように、オレの隣を歩いていってくれるのかな? 手のひらから伝わるぬくもりを手放したくないことを。 ずっと……旅していきたいことを……。 強がったりしないで、ありのままの素顔を見せて欲しいことを……。 オレじゃ役不足だとでも笑うかもしれないけど、でもオレとおまえさんは対等だと思ってる。 ひとりだけじゃ救えない。 ふたりだから助け合える。 ひとりだけじゃ何もできない。 ふたりじゃなきゃ……何も見えない。 ねぇ、ずっと側にいようぜ。 ホントは淋しがり屋だから。 オレも。おまえさんも。 この瞳に映る世界を見ていようぜ。 リナが望むなら、どんな朝を迎えたっていい。 ねぇ、ずっと信じていこうぜ。 勝ち負けなんかじゃない。そんなものにはこだわらないこの旅を。 本当の声を。本当の言葉を。 ここにいる自分のことを……。 そして、ここにいるお互いのことを……。 世界を救うなんてご立派な大義名分なんていらない。 勝った、負けたなんてくだらない勝負事なんていらない。 誰かのためなんかじゃなく、自分のために旅をしようぜ。 今までもそうだったように、これからも一緒にいようぜ。 おまえさんとなら、きっとやっていけるさ。 楽しいことばっかりじゃないだろうけど、辛いことだってたくさん訪れるだろうけど、おまえさんとなら大丈夫さ。 きっと目の前にある、新しい朝を求めて……。 これからも、旅を続けていこうぜ―――
Fin.
|