紅い華

第30章:母の死


作:千菊丸さん
 都内某所にある株式会社アリワラの本社ビル。その社長室で高岳は1枚の写真を感慨深く見ていた。
 写真に写っていたのは、若き日の自分と、最愛の人・美岬であった。
 あれは高岳が大学受験を控えた夏休み、軽井沢の並木道で美岬と出会った。高岳と美岬は惹かれ合い、つきあい始めた。
 そして嵐の夜、高岳と美岬は永遠の愛で結ばれた。美岬が東洋財閥の令嬢と知ったのは、その後のことだった。
 若い2人は無情にも引き裂かれ、高岳は現在の妻と婚約した。婚約した晩、美岬と喫茶店で会った。
「私、妊娠しているんです。」
 妊娠を告げられ、美岬と共に生きてゆこうと高岳は、父に美岬との結婚を許可してもらおうと父に頼んだ。だが、そんなことは許されるはずもなかった。
 やがて美岬は泣く泣く好きでもない男と政略結婚した。高岳も後ろ髪を引かれる思いで結婚した。

―もう2度と会うことはないだろう―

 結婚して業平が生まれても、高岳の心はいつも美岬のことを想っていた。
 だが美岬の存在を知った妻が、美岬を殺そうとした。
『あなた、私のことは愛していないの!』
 髪を振り乱し、包丁を持って美岬に飛びかかろうとする妻を取り押さえた高岳の胸に、妻の魂の叫びが響いた。
 あのあと美岬は姿を消した。
 もし今も生きていたら会いたい。
 高岳が物思いに耽っていると、電話が鳴った。
「美岬、生きていたのか・・」
 東京から車を飛ばし、高岳が駆けつけたときには美岬はもう虫の息であった。
「あなた・・最期にまた会えてうれしいわ・・」
 美岬は高岳に優しく微笑んだ。
 そのとき病室のドアが開き、千寿丸が入ってきた。
「お母様!」
 高岳は千寿丸の姿を見て目を見開いた。
「あなた・・私たちの息子よ・・」
「そんな、死産したって・・」
「いいえ、あれは嘘だったの。千寿、お前のお父様よ。」
 高岳は目の前にいる息子を、力一杯抱きしめた。
「千寿、私がお前のお父さんだ。」
「お父様!」
 抱き合う父子の姿を、美岬は微笑ましげ見ていた。だがその顔は苦しみに歪んだ。
「美岬、美岬しっかりしろ!」
「高岳さん・・私、いままで幸せだったわ。あなたと会えて、千寿を産んで、私何も思い残すことなんてないわ。千寿のこと、よろしくね・・」
 そう言うと、美岬はゆっくりと瞳を閉じていった。

「美岬、美岬ー!」
「お母様ー!」

 高岳と千寿丸の悲痛な叫びが、病室に響いた。







美岬さん、亡くなる。
彼女は愛する人と息子に最期を看取られて幸せに逝ったのではないでしょうか。
次回は千寿丸と業平様との関係に変化が。
最近諸兄様を出してないので、諸兄様を出そうと思っています。


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