|
諸兄は、千寿丸の行方を追っていた。 拓尊と引き離されて2週間になる。 諸兄は拓尊の遊郭がある島に間者を置いた。 (千寿、どうか、無事でいてくれ。) 携帯電話が鳴った。 「諸兄様。」 「ああ、久爺か。」 「千寿は昨夜、花琴太夫と一緒に足抜けを試みましたが、千寿は拓尊に捕まったようです。」 諸兄の嫌な予感は当たってしまった。 (拓尊、あの蛇め・・) 「花琴太夫は私が逃がして、今は館山に保護しています。」 「わかった、すぐ行く。」 諸兄は館山へ車を飛ばした。 そのころ、業平は麗鶴楼へと来ていた。 『千寿はまだそこにいる。探し出して連れ出せ。』 業平の前に、金髪蒼眼の太夫が現れた。 「華蝶太夫ですぅ、よろしゅう。」 華蝶太夫の傍らには千寿丸がいた。 「すまんが、君の禿を貸して貰ってもいいかな?」 「ええ、かましまへんけど・・」 業平は千寿丸を連れ、島を出ていった。 華蝶太夫が携帯を取り出した。 館山に向かっている途中、電話が鳴った。 「業平か?」 「ああ、今どこだ?」 「館山だ。これから花琴太夫と話をしてくる。」 「その必要はない。さっき千寿を島から連れ出した。」 「館山で落ち合おう。」 (千寿、もうすぐ会える) 助手席で千寿丸は、諸兄との再会に胸が躍った。 もうすぐ会えるんだ。 諸兄様に。 千寿丸は、胸のロザリオを握り締めた。 館山に着いた諸兄は、久爺の住所を訪ねた。 「どなたはんどすか?」 「諸兄だ。」 「へぇ、どうぞ、お入りやす。」 花琴太夫は髪を結い、薄紫の振り袖を着ていた。 「ここたしではうちは久爺の孫娘となってはるんどす。」 諸兄に抹茶と茶菓子を差し出しながら花琴太夫が言った。 「何故足抜けしたんだ?」 「うち、耐えられへんかったんどす・・あそこでは籠の中の鳥状態やったんよ、うちは。」 花琴太夫は吐き出すように言った。 「千寿だけはうちみたいな思いをさせとうなくて・・一緒に逃げたんどす。」 「そうか。」 業平の車のエンジン音がした。 「千寿!」 「諸兄様!!」 千寿と諸兄は、しっかりと抱き合った。 2週間分離れていた思いを確かめ合うように。 「帰るぞ、俺達の家に。」 「はい。」 「千寿、幸せになりや。もう麗鶴楼には戻ったらあかんよ。」 「花琴さん、ありがとう!!」 「気ぃつけてな!!」 花琴太夫は、諸兄の車が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。 高速へとさしかかる海に面したカーブで、諸兄は尾行されているのに気がついた。 (拓尊か。) 黒塗りの車は追突しそうな勢いで諸兄の車に迫ってくる。 諸兄は必死にカーブを曲がり、ハンドルを切った。 その時、トラックが中央分離帯からはみ出して諸兄の車と衝突しそうになった。 諸兄の車は海に転落した。 「千・・寿・・」 「も・・ろ・・え・・さ・・ま・・」 意識を失う前に、2人はしっかりと互いの手を握り合った。 千寿丸が目覚めたのは、病院のベッドの中だった。 体を起こそうとしたが、全身に激痛が走った。 「まだ起きてはならん。お前は全身を強打したのだから。」 拓尊は微笑みながら言った。 「お前は永遠に儂の物だ。」 自由の身となった千寿丸はまた、囚われの身となった。 波乱の第2部スタート。 諸兄との再会を果たすものの、再び離ればなれとなってしまった千寿丸。 久爺は諸兄の部下でした。 諸兄は生きてます。 次回、妙宝丸を久々に出す予定。 |