紅い華

第18章:遊郭


作:千菊丸さん
 波が荒れていた。

 成田国際空港で拓尊に諸兄と引き離された千寿丸は、拓尊の自家用のクルーズで遊郭のある島に向かっていた。
「お前は儂からは逃げられぬ。」
 波が時化っているので、船内は大きく横揺れする。千寿丸は慣れない船旅で体調を崩していた。
 胸にかけた諸兄からもらったロザリオを握りしめ、諸兄に再会することを心に念じた。
 やがて小さな島が見えてきた。
 拓尊は国宝を運び出すかのように、千寿丸の体をそっと優しく抱き上げた。
「お前は大事な商品だからな。」
 拓尊と千寿丸は拓尊の部下が手配した車に乗せられ、遊郭へと向かった。

 遊郭「麗鶴楼(れいかくろう)」は、老舗の高級旅館といった建物で、趣があった。
 紅い格子が1階にも2階にも毒々しくはめられている以外には。
 2人が麗鶴楼の玄関に入ると、遊女や陰間が、怯えた顔で身を隠しながらちらちらと見ていた。
 拓尊は2階の金箔の襖の前に立った。
「花琴(はなこと)太夫、花琴太夫はいるか!!」
 乱暴に襖を開けながら拓尊が言った。
「そんなにうるそぅせんでも、うちはここにおりますよってに。」
 鏡台の前で身支度を整えている15,6の少年が優雅に言った。
 艶やかな黒髪を優雅に流し、雪のように白い肌を加賀友禅の打ち掛けを羽織っていた。
 千寿丸は同性に初めてときめいてしまった。
「拓尊はん、その子新しく入ってきた子なん?」
 少年はそう言うと、滑るように千寿丸の方に歩いてきた。
「新しく麗鶴楼に入った千寿丸だ。何かと世話をしてやってくれ。」
 拓尊は千寿丸を少年の前に押し出すと、そう言って去っていった。
 少年と千寿丸の、2人だけとなった。
「千寿丸です。初めまして。」
 千寿丸は緊張しながら言った。
 すると少年は、千寿丸に優しく微笑んだ。
「うちは花琴太夫。これからよろしゅうな。うちがあんたを守ってあげるさかいに。」
 花琴太夫はそう言うと千寿丸の頭を撫でた。
 千寿丸は、花琴太夫の元で禿(かむろ)として働くことになった。
 夜になると、麗鶴楼は遊郭として賑わう。
 千寿丸は花琴太夫の後ろについて座敷へと向かった。
 座敷には、政財界の大物など、千寿丸が新聞やTVで見たことがある顔が座っていた。
「花琴太夫、今夜はいつにも増して美しい。」
 口ひげがある老紳士が花琴太夫の手に口づけた。
「嫌やわぁ、渋岡様、お世辞がお上手どすねぇ。」
「お世辞ではないよ、君は本当に美しい。」
 花琴太夫がこの場にいるだけで、座敷が華やいでいた。

「太夫、君の『黒髪』が見たいな。」
「へぇ」
 地方(伴奏者)が呼ばれ、花琴太夫は優雅に『黒髪』を舞った。
 宴もたけなわ、陰間達が客を自分の部屋へと引き連れてゆく。
 千寿丸は何をしたらいいのかわからないので、座敷の隅で座っていた。
「君、初めて見る顔だねぇ。」
 40代くらいの、グレーのスーツを着た男が、千寿丸に近づいてきた。
「僕といいことして遊ぼう。」
 男はそう言うなり、千寿丸を奥の座敷へと連れて行こうとする。
「お客様、この子は今日入ったばかりなんどす。お相手はうちがしまっさかい、堪忍しとくれやす。」
「君が?いいね、楽しくやろう。」
 男を引き連れて座敷を出るとき、花琴太夫と千寿丸の目が合った。
 花琴太夫は千寿丸にウィンクした。
(僕を守ってくれたんだ)
 千寿丸は、花琴太夫にお礼を言おうと、花琴太夫の部屋の前の襖に立った。
 中から声がする。
 千寿丸が襖の隙間から覗くと、花琴太夫が長い黒髪を振り乱し、着物の裾を捲くし上げて喘いでいた。
 その後ろではさきほどの男が呻きながら激しく腰を振っていた。
 千寿丸は初めて見るその光景を見て、襖を閉め、階段を駆け下り、厨房の隅で蹲った。
(とんでもない所に連れてこられた)
 花琴太夫の喘ぎ声がまだ千寿丸の耳に焼き付いている。
(あんなことを、次は僕がされるかもしれない。)
 その夜は一晩中、千寿丸は厨房で蹲っていた。








拓尊によって諸兄と引き離された千寿丸は、遊郭で花琴太夫の元で働くことに。世話役の花琴太夫の情事を見て、千寿丸はその場から逃げ出す・・。
遊郭のことはあまり詳しくないので、想像で書きました。ちょっと変な部分があったりしますが、それは許してください。
新キャラ、花琴太夫は京都出身で、借金をした両親のために拓尊に売りに出されたという設定です。
「麗鶴楼」にとっては無くてはならない存在。
性格は穏やかで、千寿丸の身の危険が及んだときに、何かと助けてくれるいい人。
千寿丸にとって頼もしい味方になります。
次回は千寿丸が他の禿(かむろ)達からいじめを?!そして拓尊の野望が明らかに・・。

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