一生懸命機嫌をとられているのが、ヒシヒシと伝わってくる。
そうするとさ。
なんだか自分がひどく悪いことをしたみたいな気分になってくる。
ま、確かに理不尽な意地悪をしたのは俺だけど。
いや、だからこそ、雅紀がそこまで下手に出る必要はないと思うんだけど?
でも、このまま放っておいたら、コイツはしばらくこんな感じのままだろうことは、今までの経験上嫌と言うほどわかっている。
………というわけで、不本意ながら俺は態度を和らげることにする。
でないと、この居心地の悪さをいいつまでも引きずってしまいそうだったから。
「もういいよ、雅紀。俺、怒ってないから」
「ホントに?」
何、その眉間の皺。
だから、そんなに疑わしそうに見るなって。
「ホント」
「ホントのホントに?」
「ホントだってば」
っつーか、わかれよ!! という叫びを、俺は咄嗟に呑み込んだ。
なんか、余計な言葉まで飛び出してしまいそうだったから。
あのな、俺はただ、怒ってるフリをしてただけなんだっつーの!
おまえにかまってもらいたかっただけなの!!
………とは、口が裂けても言わないけど。
だって、すっげぇ子供じみてるじゃん。
その代わり、雅紀の傍らで甘える素振りで見上げてみせれば、目尻が嬉しそうに下がるのがわかる。
一瞬で変わった雅紀の表情が、俺が感じていた居心地の悪さを吹き飛ばした。
こんなふうにさ。
俺の態度で一喜一憂するわかりやすい感情表現を目の当たりにすると、なんだかメッチャ気分がよくなるんだよね。
ものすごく構い甲斐があるっていうか、イジワルした甲斐があるっていうか。
自他ともに認める天邪鬼な俺は………
雅紀の困った顔が見たくて。こんなふうに嬉しそうな顔が見たくて。
誰よりも俺のことを構ってもらいたくて。
いつだって、こんな茶番を繰り返すんだ。
俺のことをこんなにも本気にさせたんだ。
きっちりつきあえよな。
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