「紫苑くん、最近イイ感じなんじゃないの?」
「ホントですか?」
「うん。身体引き締まった感じがする。あと、肌とかなんかキレイになったし」
昔から付き合いのあるスタイリストは、気さくに紫苑の肌に降触れている。
「美里さん、そんなこと言われたら俺、調子に乗りますよ?」
「いいんじゃない? どこから見てもいい男になったわよ」
「ありがとうございます」
「ちょっとは謙遜しなさいよ」
「めったに褒められないんだから、喜ばせといてくださいよ」
久しぶりに会ったスタイリストが手放しで紫苑を褒めている。
ノリで返す紫苑の言葉は軽い。
「妬ける?」
「別に」
笑いあうふたりを見るともなしに見ていた純は、からかうように陸に声をかけられてフイッと視線を逸らした。
とは言え、耳はふたりの会話を気にしてしまう。
妬けはしないけれども、仲のよさそうなふたりの雰囲気が気にはなる。
そんなところだろうか?
−−−−子共染みた感情だよなぁ……
そんなふうに自分に言い聞かせた純は、ふたりにくるりと背を向けた。
「どこに行くんだよ?」
「便所」
尋ねる陸に一言で答えると、ひらひらと手を振ってスタジオを後にした。
気になるなら、見えないところに行ってしまえばいい。
用を足してから戻った楽屋で、水を飲む紫苑の背中を見つけた純は、そこに美里の姿がないことを認めて、どこか安心したような息を吐く。
「紫苑さん」
「ん?」
呼びかけながら後ろから歩み寄った紫苑の腰に腕をまわし、肩口に顔を埋めた。
「おい?」
「俺の」
腕にぎゅっと力を込めながら甘えるように口にした純が、先刻のスタイリストとの会話を聞いていたことを紫苑は知っている。
時折、こんな風に示される、ささやかな独占欲が心地よい。
「そうだな。おまえのだよ」
まわされた純の両手に手のひらを重ね、紫苑はにっこりと微笑んでみせる。
その場に居合わせた陸は、迷惑そうに眉を顰めた。
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