「何、そのブサ顔。天下の水澤純の名が泣くぞ?」
ソファーの上に自堕落に寝そべった純の隣に腰を下ろしながら、紫苑がからかうように声をかける。
仕事はコンスタントに入ってくるようになり――――というよりも、ありがたいことに近頃ではオーバーワーク気味ですらある。
それはもちろんありがたいことで、メンバーは誰一人として不満を言うことなく過密なスケジュールをこなしてはいるけれども、日々蓄積されていく疲労感が、ふとした瞬間に垣間見えるときがある。
濡れ髪のままソファーで転寝してしまったのか、純の髪は好き勝手な方向に飛び跳ねていた。
「別にいいじゃん。ここ、俺ンちだし? だいたい、“天下の”ってなんだよ? 変なふうにカテゴライズしないでくれる?」
嫌そうに眉を顰めた純に、紫苑は涼しげな顔で肩をすくめた。
「褒めてるつもりだけど?」
「だったら紫苑さんは“俺の”ってカテゴライズするよ?」
甘えるように紫苑の腿に頭を乗せた純が意味深な眸で歌うように囁きかける。
あからさまなため息をついて、その額を叩いた。
「“天下の”と“俺の”じゃ、相当格差あると思うけど?」
「何か不満?」
しなやかな野生の獣のような優雅さでソファーに寝そべった純は、異論などあるはずがないでしょ? という絶対的な自信を滲ませた笑顔で紫苑を見上げている。
かつてのように、火傷しそうなほどに激しい剥き出しの想いをぶつけてくることは、いまでは少なくなっていたけれども。
だからこそ、“俺の”という縛りがひどく心地よくて。
「別に…」
ふくよかな唇に微笑を浮かべ、そんなふうに嘯いた紫苑は、膝の上で揺れる純の髪に指を絡めるのだった。
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