走って走って走って。
砂利を踏み散らし、柵を乗り越え、改札をすり抜けて、息を乱しながら辿り着いた無人駅のホーム。
けれども。
視界の端を過ぎったのは、するりと通過してしまった最終電車の最後尾。
途端にどっと押し寄せる脱力感。
膝がガクガクと笑っている。
肩を上下させて激しく酸素をむさぼりながら、紫苑が純を睨むように見つめた。
「……おまえのせいだからな」
ぼそりと言われてどっしりとした疲労感が肩からのしかかる。
「えーー? 俺ですか?」
「そう、おまえ」
言い切られてしまうことがなんだか納得いかなくて。
「せめて共同責任ってことにしません?」
やわらかく伺ってみるのだけれども。
「何でだよ」
俺は悪くない、と、全身で言い切ってそっぽを向いた人のめったに見ることのない幼い仕草に、思わず頬が緩むのを純は自覚する。
ま、いっか。
そんな気分になってしまう。
風の凪いだ夜。
静寂の中、取り残された二人。
目を細めて空を見上げていた紫苑が、ポツリと呟いた。
「静かだな」
その横顔を見つめながら、純が返す。
「そうですね」
人々が静かな眠りにつきはじめた田舎町。
今夜の空には、上弦の月。
貴品の漂う蒼い光を身に纏い、静かに地上を見下ろしている。
その月の光に誘われるように。
純が紫苑の服の裾を引いた。
「紫苑さん」
「何だ?」
「歩きましょうか」
「そうだな」
線路に沿った道を、二人、肩を並べて歩き続ける。
「タクシーが通りかかるのと、旅館を見つけるのと、どっちが先ですかねぇ」
「だったら俺は朝まで歩き通す方に賭けるぞ」
「勝手に選択肢増やさないでください」
「一番現実味があると思わないか?で、俺たち、始発列車に追い越されるんだ」
「だから、勝手に話作らないでくださいってば」
笑って言う紫苑に、純も笑いながら返す。
実のところ、楽しんでいる。
突然遭遇したこの状況を。
なぜなら……
「ま、どんなふうになったっていいんですけど、俺」
「ずいぶんお気楽だな、おまえ」
「だってどんなふうになっても、一晩中紫苑さんと一緒にいられるじゃないですか」
臆面もなく言い切られて。
「馬鹿…」
思わず足を止めかけた紫苑は、呆れたように呟くのだった。
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